DV被害者における精神保健の実態と回復のための援助の研究(H13-子ども-036)に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200393A
報告書区分
総括
研究課題名
DV被害者における精神保健の実態と回復のための援助の研究(H13-子ども-036)に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小西 聖子(武蔵野女子大学 人間関係学部)
研究分担者(所属機関)
  • 金 吉晴(国立精神・神経センター 精神保健研究所)
  • 平川和子(東京フェミニストセラピィセンター)
  • 影山隆之(大分県立看護科学大学)
  • 柑本美和(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 石井朝子(東京都精神医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
8,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2001年10月より「配偶者からの暴力の防止および被害者の保護に関する法律」が施行されて以来、ドメスティック・バイオレンス被害にかかわる相談が急増したことを統計は示している。配偶者暴力相談支援センターへの相談件数は、施行後9ヶ月で2万7000件弱と一ヶ月で約3000件に上っている。警察庁への相談件数も法律施行後一年間で1万5000件に上り、また保護命令は同一年間で1250件の発令が行われた。保護命令違反の検挙件数は全国で27件となっている。これまでは見えていなかった被害が法律の施行によって現れてきたのだと考えられる。しかし日本におけるドメスティック・バイオレンスへの対応は、実態調査・危機介入システムの構築・精神健康の問題の把握と回復、いずれの面でも遅れているのが実情であり、被害を受けた女性が助けを求めても十分な対応が受けられず、一時保護を利用した後、健康を回復するための適切な支援が受けられないという状況があいかわらず存在している。本研究は以下のことを目的としている。
1) ドメスティック・バイオレンス被害女性を対象として、暴力の実態を明らかにすると共に、PTSD、大うつ病、不安障害などの精神障害、無力感や自己評価の低下などの心理的問題について、ドメスティック・バイオレンスの精神健康への影響とその要因を調査する。医療が必要な女性のスクリーニングができ、また当事者にも自分の状態を知るために助けとなるようなチェックリストを開発する。
2)回復のための支援の方法を実践的に研究し、コミュニティにおける多彩な援助の方法について調査する。
3)現在、諸外国で実践されている被害者支援と加害者への取り組みについて調査する。
4)ドメスティック・バイオレンスの子どもへの影響,児童虐待との関係を調査する。
5)ドメスティック・バイオレンス被害の支援者を対象に、二次的外傷性ストレスを含む職場での支援に伴うストレスについて実態調査し、問題をあきらかにする。
研究方法
以下の複数の方法を用いている。
1)については四つの研究をおこなった。
(1)夫またはパートナーからの暴力により、関東甲信越地域の配偶者暴力相談支援センターを利用している女性20名に自記式質問紙票と構造化面接併用の個別面接を実施した。
(2)DV群(民間シェルター入所女性:60名)と対照群(一般有配偶女性:60名)を対象に自記式質問紙と構造化面接を実施し、DV被害の実態と精神健康に及ぼす影響について明らかにした。
(3)民間シェルターの5年間の入所者121名から50名を選び、質問紙調査および面接調査を行った。
(4)“battered women "をキーワードに、1980年から2002年12月の間に出版された医学系文献を母集団としてMedline上で検索し、分析した。
2)については、継続研究中であり、今年度の報告はない。
3)については、今年度はアメリカ、イギリス、スウェーデンで実施されている加害者更生プログラムを比較法的な観点から検討した。
4)については、1)の3調査の中で、母親に対して子どもの状況について、面接による調査を行った。
5)については、調査の実施に協力の得られた関東近県の配偶者暴力相談支援センター、女性センター、犯罪被害者相談支援センターの7機関に勤務するDV相談員55名に、質問紙調査を行った。
結果と考察
1)今年は二つの研究では、構造化面接をもちいて精神健康の評価を行った。PTSD測度であるCAPS2を用いて、民間一時保護施設シェルターにおいて60名の被害者を調査し、そのうち約40%の被害者にPTSDが見られた。また配偶者暴力相談支援センターの被害者20名においてM.I.N.I.を含むテストバッテリーを実施し、抑うつについては、大うつ病エピソード35%、気分変調症20%であった。また30%がこの一ヶ月で自殺を考えたとしている。
また1997年から2001年度にかけて民間シェルターを利用した50人(平均利用日数46.4日)に追跡調査をした結果、入所直後には44%の被害者が精神科を受診していた。CES-Dによって56%が抑うつ状態にあると判定された。また生活保護受給率は現在18%であり、離婚成立は54%であった。
これらの複数の研究結果を見ると、まだ確定的ではないが、抑うつについてもPTSDについても精神障害として診断される者が、被害後の任意の時期(本研究では直後から数年後までの時期)において約半数程度あることが示唆される。これは文献検索により集めた先進諸国の多くの研究結果ともだいたい共通しており、多くの人に精神科疾患があり、かつ一時保護よりはかなり長い期間にわたって治療の必要があると予想される。
2)なし
3)アメリカ、スウェーデン、イギリスについて報告した。アメリカ以外の国では、プログラム導入から日が浅く、試験的段階にあるため、アメリカ法を参考にして、日本でのプログラム導入について検討したが、ドメスティック・バイオレンスという加害行為に対する積極的な警察、検察活動が行われていない段階で、我が国の刑事司法制度に、有罪とされた加害者に対するプログラムを導入することはあまり現実的ではないとの結論に達した。
4)配偶者暴力相談支援センターの母親の75%の子どもが「いつも目撃している」と回答した。また民間シェルター調査では、子どもの年齢にしたがって、乳幼児期、思春期、青年期、成人の子どもそれぞれに影響が見られていることが報告されている。子どもへの影響は深く長く広範である。子どもへの影響が大きく、虐待とも並存する可能性が高いことが、複数の調査から共通して示唆される。
5)ドメスティック・バイオレンス被害者にあたる相談員群の職業的背景は、医療分野で働く心理職群と比較して、多様な専門性を持っていること、逆に経験年数は短く、非常勤職員が多く、より多様な業務を行っていることが示された。特に電話相談業務の多さは女性相談における特徴だと言える。相談員自身の成人後の外傷体験が精神健康に影響していることがわかった。
結論
ドメスティック・バイオレンス被害は精神健康に大きな影響を与える。被害を受けて、相談などを行った者のPTSD,うつ病の有病率は半数に近いと推測される。これは海外の先行研究の結果とも一致している。また母親への聞き取りから子どもへの精神的影響も大きいことが予測される。
このようなドメスティック・バイオレンス被害者を支援する相談員も、多様な内容の支援を経験の浅い中で行っており、外傷体験が、現在の状態に影響を与えていると思われた。
いずれの研究もまだ途中経過の報告にとどまっているが、さらに研究を進めて結論を明確化したい。被害者と子どもの精神健康が深刻な状態にあることはほぼ間違いなく、今後長期的な観点からの対策が必要であると思われる。

公開日・更新日

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