児童福祉専門職の児童虐待対応に関する専門性向上のためのマルチメディア教育訓練教材および電子書式の開発的研究

文献情報

文献番号
200200392A
報告書区分
総括
研究課題名
児童福祉専門職の児童虐待対応に関する専門性向上のためのマルチメディア教育訓練教材および電子書式の開発的研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
芝野 松次郎(関西学院大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
児童虐待は深刻な社会問題となっている。しかし、この問題に対応する児童福祉専門職の専門性が問われている。児童福祉に関わる機関や施設の中でも児童相談所は、公的機関として地域で核となる働きを期待されていが、児童相談所に勤務する児童福祉司は、児童虐待ケースの援助について十分な専門的トレーニングを受けることなく任用され、専門的な援助がある程度できるようになるころには異動することが多い。こうした現状を考えると、児童福祉司の専門職としての資質と問題解決能力を短期間で養成することが必要となる。実践に即した効果的な教育訓練を行い、かつ、実践を記録、蓄積し、経験から学ぶシステムを作る必要がある。言い換えれば、理解しやすく実践的な教材による効率的な教育訓練と、援助活動を記録、整理、分析し、援助へフィードバックするための書式(ケース記録や公式記録としての記録書式と実践ガイドとしての手引き)が必要となる。
本研究の目的は、①児童相談所児童福祉司の資質と能力向上に資するマルチメディア教育訓練教材の研究開発(豊富なマルチメディア視聴覚教材を通して実践的な知識と技術を学習でき、インターネット上で利用可能な対話型の汎用教材)、②モバイル兼用型電子書式(ケース記録のための書式に留まらない、アセスメント・意思決定・援助活動とその評価といった、実践を補助するナビゲーションとして活用可能な電子書式)の研究開発である。
研究方法
本研究では、上記目標を達成するために次の4つのプロジェクトを実施する。プロジェクト1では、既存の児童虐待対応マニュアルとしてはスタンダードとなっている『子ども虐待対応の手引き』の活用実態を調査・分析する。プロジェクト2では、経験豊かな熟練した児童福祉司(エキスパートと呼ぶ)に対して面接調査を実施し、児童虐待ケースに対する専門的援助プロセスでの重要な意思決定場面におけるエキスパートの意思決定構造を分析する。この2つのプロジェクトは次の2つのプロジェクトの基礎資料を得るためのものである。プロジェクト1と2の分析結果を踏まえて、プロジェクト3では、マルチメディア教育訓練教材を研究開発する。プロジェクト4では、迅速な情報の収集・蓄積・活用のためのモバイル兼用型電子書式システムを研究開発する。
結果と考察
結果と進捗状況=本年度は、継続研究期間の2年目である。プロジェクト1については、昨年度すでに調査結果を報告書としてまとめているが、今年度は多変量解析を用いて、さらに詳しくデータを二次分析した。その結果、前報告書での単純分析の結果とはやや異なり、経験の浅い児童福祉司が手引きの有用性を高く評価しているということが示唆された。プロジェクト2については、エキスパートの面接調査を終了し、収集した質的データを分析した。エキスパートに特有の意思決定ルール(スキーマ)が多く抽出された。エキスパートの意思決定ルールはしっかりと安定しているが、新しい局面では柔軟に対応できるスキーマをもっており、エキスパートらしさが明確になった。プロジェクト3は、4つのプロジェクトの中でもっとも時間を要しているプロジェクトである。その理由は、プロジェクト3がプロジェクト2と4の研究成果に大きく依存しているためである。本年はマルチメディア教育訓練教材の全体構成を明確にした。プロジェクト4は、M-D&Dの第2フェーズにあり、平成14年度は叩き台を完成させた。以下、プロジェクト4についてやや詳しく報告したい。
平成14年度の変更点:ハードおよびソフトウェアーに関しては、当初、モバイル性を重視したために、フェースシート及びコンタクトログのモジュール、そして8つのナビモジュールをPalm OS環境で操作できるようにプログラミングしていた。しかし、PDAによるモバイル性の向上というメリット以上に、モジュール間の連携が難しいというPDAの機能上の問題、入力画面の小ささによる制約、そして現場(児童相談所)の事情に合わせてプログラムをカスタマイズする難しさが問題となった。ソリューションとして、ハードウェアーはWindows OS環境が無理なく提供される最軽量のモバイル型PCを使用することとし、ソフトウェアーはWindows XPで動作するプログラムを一般的なリレーショナル・データベース・ソフトウェアーを用いて開発することとした。これによってモバイル性を確保しながら、入力上の制約を軽減し、さらにカスタマイズの容易さを向上させることができた。モバイル兼用型電子書式の全体構成:プログラムの開発には、リレーショナル・データベースのソフトウェアーであるFile Maker Pro 6.0Jv3(File Maker Inc.)を用いた。ハードウェアーの構成は、児童虐待ケースを担当する児童福祉司が携帯するモバイル型PC数台(虐待担当ワーカーの数は児童相談所によって異なるが、極端に多くなければ、柔軟に対応できる)と、児童相談所に1台設置されるデスクトップ型PCからなる。基本的には、この構成が各児童相談所(「児相サイト」と呼ぶことにする)に設置されるシステムの基本ユニットとなる。当面は、個人情報の保護の観点から、複数の児相サイトをネットワーク化しないが、児童虐待という問題の性格からして、児相間の連携あるいは他機関との連携の重要性を考えると、個人情報の保護を担保したうえで、将来的にはネットワーク化を検討すべきであると思う。複数のモバイル型PCに蓄積された情報(モバイル型PCデータベース上のデータ)は、クレードルなどによって、児相サイトPCに内蔵のハードディスクに吸い上げられ、同期化される。これによって、PCデータベースの中に児相が援助する全ケースのデータが蓄えられることになる。
ソフトウェアーの構成:各児童虐待ケース対応ワーカーは、担当するすべてのケースの情
報と援助活動の情報をモバイル型PCデータベースとして管理することになる。ワーカーは、モバイル型PCにインストールされている「フェースシートモジュール」を用いて、各ケースについて被虐対児の属性などの情報や虐待者を含む家族(あるいは同居者)の情報、虐待の詳細についての情報、通告者に関する情報などを入力し、電子カルテとしてのデータベースを構築することになる。フェースシートに直接ぶら下がる形で、「コンタクトログモジュール」と「リスクアセスメントナビモジュール」がある。コンタクトログモジュールは、担当ワーカーの接触記録であるが、ワーカーが誰と接触し、何をしたかということだけではなく、ケースに関わる人たち(児童および家族を含む)が誰と接触し、何をしたかも記録するようになっている。このモジュールは、意思決定のナビモジュールとは独立した形になっており、ケースについてのコンタクト記録を時系列の形で蓄えていくことができる。リスクアセスメントナビモジュールは、フェースシートに直接ぶら下がる重要なモジュールであり、必ず実行しなければならない。実行することによって得られたアセスメント結果は、その後の意思決定ナビモジュールに反映される。リスクアセスメントをやり直した場合は、その後の各意思決定モジュールは刷新され、新しいリスクアセスメントの結果が反映されることになる。
ナビモジュールには、すべてに共通する意思決定の流れがあるので、簡単に説明しておきたい。意思決定は、まず、意思決定をするのに必要な情報を、ナビモジュールが尋ねる質問に答えることによって入力するところから始まる。質問に答えるためには、必要な情報をきちんと収集しておかねばならない。この段階が「情報(IF)」の段階である。そして、この情報に基づき、意思決定のルール(あらかじめプログラムされている)に従って適切と考えられる援助行動がナビによって選択されることになる。これが「行動(THEN)」の段階である。次いで、選択された行動が実際に遂行されたかどうかが尋ねられ、ナビが選択した行動が実際に行われたかどうかを記録する。もし、児童福祉司が、ナビが選択した援助行動を実際には行わなかった場合、その理由を記録するとともに、実際に行った行動をメニューから選択し、記録することになる。それぞれのナビモジュールは、こうしたIF-THENのルールで成り立っている。この意思決定のIF-THENルールは、プロジェクト1,2の基礎研究から得られたものである。しかし、現時点ではプロジェクト2の研究成果がまだナビモジュールのルールに十分反映されていないことを理解していただきたい。これは、平成15年度前半の課題となる。
このモバイル兼用型電子書式は、本来プログラムを実際に実行、操作し、体験することによって理解が得られるものである。したがって、活字に依存している本報告概要では、システムとその内容の記述についてわかりにくい部分が多々あったと思う。活字という制約のなかで説明していることを理解して頂きたい。なお、最終年度の総括報告書には、教材および書式の簡易版をCD-ROMとして添付したいと考えている。
結論

公開日・更新日

公開日
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更新日
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