地域における子育て支援ネットワーク構築に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200390A
報告書区分
総括
研究課題名
地域における子育て支援ネットワーク構築に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
中村 敬(日本子ども家庭総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 堀内勁(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院周産期センター)
  • 星旦二(東京都立大学都市研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
4,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
育児不安を軽減するためには周産期からの育児支援が必要であり、母乳栄養支援を中心とした取り組みが効果を期待できる。地域における育児支援は相談、交流、保育、情報提供であり、子育てグル ープ活動、子育て中の親子が集まるフリースペース(子育てサロンやひろば事業)が有効と考えられる。これらの活動は住民に身近な行政、社会福祉法人、地域住民のボランティア、NPOなどにより展開されており、子育て支援のための地域のネットワーキングが広がりつつある。本研究班ではこの点に着目し、これらの点として存在するサービスのネットワーク化について考察する。また、地域の市民活動に対する行政の支援のあり方や親たちの子育てのストレス軽減に対する援助方法について考察する。
研究方法
1)全国の100床以上の病院の小児科を対象に母乳栄養支援に関する意識調査を実施(堀内分担班)。昨年度の全国分娩施設を対象とした調査に引き続き実施したものである。
2)全国市区町村の中から人口規模別に1000市町村を抽出し、保健、福祉、教育の3部門あるいは保 健福祉、教育の2部門にグループ活動に対する行政支援(有無と内容、援助の適応基準)、地域内の 子育て交流の場(フリースペース)のリストと運営形態、子育て支援のための地域住民ボランティア の育成、研修内容などについて調査(中村分担班)。
3)子育て支援ネットワーク化のために必要な諸問題(中村分担班)。
(1)「心の子育てインターネット関西」の事例から支援システムのあり方について分析(原田) 
(2)インターネットを用いた先進的な地域での、構築されたネットワークの調査(松田)
(3)昨年度調査結果の分析(山岡)
(4)斉藤はボランティア活動としての子育て当事者によるネットワーク活動のリーダーを対象に、浮沈図記録表を用いたインタビュー調査と質問紙調査を行った(斉藤)。
4)4カ月児をもつ母親945人を対象として、育児不安の実態とこれを規定する因子についてアンケー ト調査を行い、共分散構造解析により解析した。(星分担班)
結果と考察
1)回収率32%(対象1370病院、回収439病院)であり、結果は小児科医は出生前小児科指導、母親学級への関与が少ない。分娩施設退院時の母乳率は60~80%程度、1ヶ月健診の栄養指導は半数が小児科医、半数が乳業メーカーからの派遣栄養士である。医師は実際の体重減少に対する対応は人工乳を与えるものが多い。泌乳が完成するのに約2ヶ月かかるが、1ヶ月の時点で体重増加率が少ないと人工乳を勧める医師は3/5であるが、体重増加不良の判定はまちまちであった。離乳準備食、離乳食の指導は2/3の施設が行っているが、卒乳についての指導は4/5の施設で行っていない。WHOの母乳育児推進のための10箇条の内容知っている小児科医は1/3以下であり、ミルクメーカーの無料サンプル提供を禁止していることを知っている小児科医は1/3であった。母乳育児推進については母乳育児は常識としながらも、その問題点を指摘する医師が1/3あり、母乳育児について肯定的意見は1/3、否定的意見は1/8、意見がないが半数以上であった。小児科医の母乳育児への関与は不十分であり、また母乳育児についての正しい知識と指導法が未だ充分に身についているとはいえない(堀内)。
2)回収率は47%(発送数2400件、回収1130件)であり、集計の結果では、地域の子育てグループの把握は、ほぼ全数把握21%、可能な範囲での把握39%、把握していない15%であった。行政支援の内容は、活動場所の提供72%、資金援助20%、援助の内容でみると、学習会への講師派遣・紹介が42%、情報提供や講演会52%、専門職による援助38%、立ち上げの援助37%、保育ボランティアの派遣20% であった。また、子育て支援のための関係者・機関同士の連携(ネットワーク化)は34%、フリース ペースにおけるアドバイザーの役割は保健師・看護師55%、保育士64%、子育てサポーター20%であり、アドバイザーとしてボランティアを養成しているところは13%、研修内容は健康と保育に関する 技術研修が主であり(76~78%)、地域活動の技法(コミュニティーワーク)を研修に取り入れてい るところは30%程度であった。子育て支援の窓口が統合化されているところは8%、窓口は別であるが 連携をとっているところが60%であり、従来どおりが33%であった(中村)。
3)子育て支援ネットワーク化のために必要な諸問題(中村分担班)。
(1)原田は地域の子育て支援システムが機能するための15のチェック項目を提言、市民を主体として専 門職は黒子として支えるスタイルが必要であることを強調している(原田正文)。
(2)松田は三鷹市を事例とした地域の子育てネットワークの有効活用のためのインターネットを活用し た地域情報化について調査を行っている(松田博雄)。
(3)山岡は育児グループが親たちの子育て情報源として果たす役割について分析し、グループは母親た ちの確かな情報源として重要な役割を果たしている一方、これらの集団での人間関係の葛藤も深刻で あり、複雑な人間関係にある母親たちの個々の特性に合わせた情報提供や支援の在り方を考えるべき であるとしている(山岡テイ)。
(4)。子育てネットワークは子育て当事者への支援や仲間づくりだけではなく、学習、自己実現、社会還元という自己啓発的目的も包含していることがわかった(斉藤進)。
4)育児不安を軽減するためには母親の自己肯定感を高め、育児意識をポジティブな視点で捉え、育児に対する自信を高めることが効果的であると考えられた。子育て支援は母親の自己肯定感をいかに高めることができるかが鍵になる(星)。
結論
1)周産期は育児の出発点であり、周産期での育児上のトラブルは、その後の育児に大きな影響を与える。周産期から母親の子に対する愛情として、母乳栄養を望む声は高く、これを支えるシステムが十分でないことが調査結果が示している。育児不安を増強させないためには周産期からの育児支援が重要であり、とりわけ、母親の意識にそった母乳栄養の支援体制を確立すべきである。
2)地域における行政の子育て支援への取り組みの実態を調べた。自助的グループ活動への支援は活動場所の提供は約7割の自治体でできており、資金面での支援が十分には行われていない。グループ立ち上げの援助も4割程度でありあまり多くはない。地域住民の自主的活動への活動支援をさらに充 実させる必要があろう。また、地域での子育て支援のための関係者・関係機関同士の連携(ネットワ ーク化)は以外に少なく34%に過ぎなかった。地域におけるシステムづくりの推進が求められる。地域におけるネットワーク活動事例回答全数でみると、行政や社会福祉協議会が中心になっているものが多いが、市民のボランティア活動によるものが18%を占めており、行政、民間組織、市民ボランティアの協働体制の確立の重要性が示唆される。
子育て支援の中心になっている子育ての交流の場であるフリースペースについて聞いてみると、専門の施設や特定の会場を拠点にしているものが殆どであり、地域を巡回して交流会を開催するところはわずか7%に過ぎなかった。利用者の利便性ということで巡回型の活用も一案と思われる。アドバイザーを務める人材は保健師・看護師、保育士がもっとも多いが、実にさまざまな職種やボランティアが加わって展開されており、子育てに対する市民意識の高さを示している。しかし、行政が積極的に子育て支援に携わるボランティアを養成しているところは13%程度に過ぎず、研修の内容は、子どもの健康や保育技術に関する技術研修が主であり、組織運営やコミュニティーワークを研修に取り入れているところは少ない。また、地域の子育てに関するコーディネータを養成している地域は21%と低く、今後の課題として、積極的なボランティア養成、これに対する研修の工夫、コディネータとして活動できる人材の養成を推進する必要性を示唆している。
3)一般家庭への子育て支援では、市民を主体として、専門職は黒子に撤することが必要であり、また、乳幼児期から思春期に至る一貫した地域の支援体制を確立する必要がある。また、先進的な地域では、構築されたネットワークの有効活用を促する工夫が必要になりインターネットなどの情報システムを活用することが期待される。市民主体の活動では、その集団が有益な情報源となることは事実であるが、内的人間関係に起因するストレスが生じることも事実であり、支援者には当事者に対するきめ細かい援助技術が求められる。市民主体の活動は、自助、他者への援助、社会参加による自己啓発などの要素を含んでおり、自主性が生命である。行政は支援の手を差し延べるとき、この点を無視しない洞察力を求められる。
4)育児不安を軽減するためには、母親の自己肯定感を高め、育児に自信を持たせるような援助を行うことが、他のサポートにも増して、極めて有効であることを示唆している。

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