育児不安の軽減に向けた低出生体重児の栄養のあり方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200388A
報告書区分
総括
研究課題名
育児不安の軽減に向けた低出生体重児の栄養のあり方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
板橋 家頭夫(昭和大学横浜市北部病院こどもセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 板橋家頭夫(昭和大学横浜市北部病院こどもセンター)
  • 戸谷 誠之(昭和女子大学大学院生活機構)
  • 瀧本 秀美(独立行政法人国立健康・栄養科学研究所健康栄養調査研究部)
  • 佐藤 加代子(国立保健医療科学院生涯保健部公衆栄養室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
低出生体重児を持つ家族の育児不安要因には児の発達や発育に関する事柄が関連している。我々は栄養学的なアプローチにより児の成長を促し、同時によりよい発達予後を得ること、およびNICU退院後の科学的な栄養指導が低出生体重児を持つ両親の育児不安の軽減に重要であると考え本研究を開始した。本研究では、1)現在行われている新生児医療における低出生体重児の小児期を通した成長・発達パターンを明らかにすること、2)低出生体重児の母乳栄養を促進するための指針を作成すること、3)低出生体重児の離乳の進め方について発達を目安としたガイドラインを作成すること、4)1)~3)を普及させることによる育児不安軽減効果の評価、の4つの課題が設定された。本年度は昨年度の成果をもとに二年目の研究に入った。
研究方法
分担研究課題「低出生体重児の発育・発達に関する研究」を板橋が担当し、全国のNICUに依頼し2002年2月~10月までにそれぞれの施設に入院し生存退院した出生体重500~2000gの低出生体重児のNICU入院中の成長や栄養管理に関するデータを収集した。これをもとに体重、身長、頭囲に関する成長曲線を作成した。また、低出生体重児用の発達評価尺度を考案し、低出生体重児の発達パターンについて評価を行った。分担研究課題「低出生体重児のNICU退院後の栄養指導指針に関する研究」は戸谷が担当し、歯科医の協力を得てNICU退院後の低出生体重児の摂食機能について前方視的に検討した。分担研究課題「低出生体重児の母乳栄養推進に関する研究」は瀧本が担当し、低出生体重児に対する母乳栄養の実態調査を全国のNICUの協力を得て実施した。分担研究課題「育児不安の軽減のための低出生体重児の栄養指導に関する研究」は佐藤が担当し、フォローアップ外来を受診している低出生体重児を持つ母親に対する聞き取り調査を行い、具体的な不安要因について調査を行った。
結果と考察
1)低出生体重児の発育・発達に関する研究
全国22施設から寄せられた出生体重500~2000gの低出生体重児743名のデータから生後週数毎の発育に関するデータ(体重、身長、頭囲、最低体重およびその日齢、出生体重復帰日齢)を選び、日齢を横軸にとり出生体重毎の成長曲線が作成された。次に、AGA児、SGA児別の体重に関する成長曲線も作成された。本年度の研究によって作成されたNICU入院中の低出生体重児の成長曲線は、最近の新生児医療を反映したreference standardとして利用されることになろう。特記すべきは、AGA児とSGA児に分けて作成されたことである。近年、NICUではSGA児の入院数の増加が著しいものの、SGA児の発育の評価のためのreference standardは存在しなかった。しかし、今回の成長曲線によって、SGA児の成長の評価も可能となった。さらにNICU退院後の成長についてもデータの集積を予定している。前方視的に超・極低出生体重児の発達の指標を検討したところ、達成された修正月齢の平均値に超低出生体重児、極低出生体重児、その他の児の3群で有意差を認めなかった。しかし、症例数を増やして後方視的に歩行開始時期を検討した結果では修正月齢をもちいた場合でも、出生体重が小さいほど歩行開始月齢は高くなっていた。母子手帳には成熟新生児で出生した児の成長曲線に加えて、いつかの主な発達の目安が記載されている。これを低出生体重児に利用する場合に、たとえ修正月齢を用いても必ずしも合致しない可能性が高く、これは両親に不安をもたらす要因ともなりかねない。今後は低出生体重児の発達尺度の新しい目安が必要であると思われる。
2)「低出生体重児のNICU退院後の栄養指導指針に関する研究」
NICU退院後の28名の低出生体重児を対象に摂食機能の発達評価を中心とした歯科医による診察が行われた。その結果、摂食機能は栄養摂取状態のうち「離乳食回数」、原始反射のうち「吸啜反射」と「咬反射」において有意な関連性を認めたことより、口腔機能発達を基準に、栄養摂取状態、原始反射との関連について検討を行うことの妥当性が確認された。次に、口腔機能発達と修正週数・栄養摂取状態との関連性について検討したところ、また低出生体重児では口腔機能の発達の発現は、「改訂離乳の基本」で示されている目安より遅い傾向が認められた。今年度の研究により、口腔機能を評価することが離乳の進め方の指針になることが示唆され、機能にあわせた離乳指導の必要性がうかがえた。
3)低出生体重児の母乳栄養推進に関する研究
全国の新生児収容施設に対して低出生体重児の母乳栄養実態を調査したところ、NICU入院中に少量でも母乳を与えることができていたのは入院中の児の約70%であった。母乳が与えられている低出生体重児は生後1ヵ月までが最も多く84%に達していたが、その後明らかに漸減しており、より未熟な児を取り扱う施設でその傾向が顕著であった。低出生体重児における母乳による栄養は、母乳に含まれる種々の栄養素の生理学的利点のみならず、感染防御や母子間の愛着形成の上でも多くの利点を有する。また、欧米の研究によれば、低出生体重児を出産した母親の母乳を与えることにより、発達指数が人工栄養で哺育された児に比べて有意に高く、その差は低出生体重児ほど顕著であることも示されている。従って、低出生体重児に母乳を与えることは児の発達予後を向上させるためにも重要である。今回の全国調査では多少とでも低出生体重児に母乳を与えることができたのは入院中の低出生体重児の80%を越えているものの、生後1ヵ月を経るにつれて確実に低下することが示されており、いかに母乳分泌を維持するかが大きな課題となっている。これまで報告された低出生体重児を持つ母親の母乳分泌維持のための方策としては、母子の早期接触やカンガルーマザーケアによる母子のskin to skin contact、電動搾乳器による搾乳、母親の教育などが有用であることが報告されている。今後は、より具体的なNICU内での母乳栄養指導マニュアルを作成しこれを普及させることにより低出生体重児の母乳による栄養率の向上を目指す必要がある。
4)育児不安の軽減のための低出生体重児の栄養指導に関する研究
離乳を開始している低出生体重児の母親に対する聞き取り調査で、離乳に関する不安として多かったものは、児の食べ方に関するものと、献立や内容に関する不安に大別された。離乳の開始や進め方は医師からの指導によるものであったが、具体性に欠けることが母親の悩みを深くしていることが示された。医師はフォローアップ外来の限られた時間内で発達や発育評価のみならず離乳食の具体的な内容や調理法、摂取離乳食の妥当性まで指導することは現実的に困難なことが多く、栄養面での不安を軽減させるためには医師以外の専門職(栄養士)の関与が必要となってくる。しかしながら、人的要因や低出生体重児の栄養に関する知識の不足もあいまって病院栄養士がフォローアップ外来で指導を行っている施設も少ない。今後は栄養士の関与を促すための方策や、栄養士向けの低出生体重児の栄養学的諸問題の解説書などの作成、医療機関と地域保健機関との連携の下での一貫した栄養指導体制などの確立をめざす必要があると思われる。
結論
1)全国のNICU22施設の協力を得て、出生体重500~2000gのNICU入院中の成長曲線を作成することができた。2)低出生体重児の発達尺度表を作成し低出生体重児の発達の指標を検討したところ、修正月齢を用いても未熟な児では成熟新生児に比べて同じマイルストーンを適応しても遅れることが示され、出生体重別の発達尺度の目安が必要であることが示された。3)NICU退院後の低出生体重児の口腔機能の発達は成熟新生児よりやや遅延する傾向を認め、実際に与えられている食事の形態や回数は、必ずしも児の摂食機能に見合ったものでない場合もあり、それが低出生体重児の離乳が進まない一つの要因となっていることが伺われた。4)全国のNICUを対象に低出生体重児に対する母乳栄養の実態調査を行い、生後4週以後は漸減することが示された。5)離乳を開始している低出生体重児の母親に対する聞き取り調査で、離乳に関する不安として多かったものは、児の食べ方に関するものと、献立や内容に関する不安に大別された。離乳の開始や進め方は医師からの指導によるものであったが、具体性に欠けることが母親の不安助長していることが示された。

公開日・更新日

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