育児不安軽減のための小児科医の役割とプレネイタルビジットの評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200386A
報告書区分
総括
研究課題名
育児不安軽減のための小児科医の役割とプレネイタルビジットの評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
多田 裕(東邦大学)
研究分担者(所属機関)
  • 保科清(東京逓信病院)
  • 中村敬(大正大学)
  • 宇賀直樹(東邦大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在の親たちが求めている育児支援と、対応する小児科医の実態を調査し、わが国にふさわしい育児支援とかかりつけ医のありかたについて検討する。あわせて現在実施されている出産前小児保健指導(プレネイタルビジット)の評価と今後の改善方法に関して検討し、育児不安への有効な対処方法を検討する。
研究方法
1)出産生前小児保健指導の有効性については、東邦大学医学部大森病院産婦人科外来を受診した妊婦を対象に、出産前に小児科医が面接し、面接を行わなかった例を対照として、分娩後入院中の母親の育児行動を観察し、さらに退院後1ヶ月でエヂンバラ産後鬱指標を改変したアンケ-ト用紙を用いて評価した。
2)かかりつけ医に対する意識調査は、愛育班活動が行われている秋田県、埼玉県、大分県の人口が少ない小規模町村(平均人口7000人)で昨年都市部で実施したのと同様の調査を行い、両調査結果と比較して検討した。
3)実地小児科医を対象とした育児支援の実状と意識の調査は、日本小児科医会の全会員を対象としたアンケ-トの結果から分析した。
4)出産前小児保健指導の実施状況と有効性の検討は、日本医師会が実施した平成13年度事業に関するアンケ-ト調査結果から検討した。
5)出産前小児保健指導(プレネイタルビジット)の評価と普及方法の改善に関する検討は、フォ-ラムを2回開催し、全国でプレネイタルビジットを実践している実地小児科医と産婦人科医の意見並びに日本産婦人科医会の調査結果に基づき改善策を作成した。
6)本研究班は、分担研究者の他に下記の5名の医師を評価委員として依頼し、各専門団体の意見を反映させるとともに、連絡をはかる様に務めた。
評価委員:雪下国雄(日本医師会)、仁志田博司(東京女子医科大学)、中村肇(神戸大学)、清川尚(船橋市立医療センタ-)、小川雄之亮(埼玉医大総合医療センタ-)
7)倫理面の配慮は、本研究班のアンケ-ト調査の集計結果を全回答者の中の比率で表し、回答者個人が特定できないかたちで集計することとした。研究内容は評価委員を含む班員全体で討論し、倫理面で問題がないことを確認した。
結果と考察
1)プレネイタルビジットの実施方法の検討と成果の評価:112名の妊婦にプレネイタルビジットを実施し、初産の妊婦では生後1ヶ月で評価したエジンバラ産後鬱指標が対照群に比し有意に減少し、育児不安が軽減に有用であることが示された。
2)親たちのかかりつけ医に対する意識調査:育児中の親を対象とした「かかりつけ医を持っている比率」と「かかりつけ医に期待される役割」についての調査結果は、かかりつけ医(かっこ内が都会)有り84.7%(74.0)、無い3.5%(9.0)であった。かかりつけ医の専門は小児科47.1%(62.1)、内科/小児科 34.6%(29.5)で都会では小児科医をかかりつけ医にしている例が多かった。急病時(夜間休日)にいつでも診てもらえるは28.0%(28.0)、診てもらえないは32.4%(38.7)で地域差はなかったが、子育てについてのアドバイスは、いつも受けている4.8%(4.1)、時々受けている17.6%(30.5)、全く受けていない38.8%(25.6)と都市部でアドバイスを受けることが多かった。以上から小規模町村と大都市では、かかりつけ医ありは両者とも約80%であるが、都会の方が小児科医指向が強く、医師からの助言を受けている例が多く、育児支援の必要性が高い傾向が認められた。
3)日本小児科医会会員を対象とした小児科医の育児不安と育児支援に関する意識調査の結果では、「今後育児不安に関する相談が増えるであろう」と考える小児科医は63%であり、「対策」として「公的サ-ビスを充実させる」と「何らかの支援体制が必要」と考えていた。「今後変わらない」と考える医師は34%であったが、「支援体制が無くても育てられる」との回答が多かった。プレネイタルビジット事業を「知っている」医師(70%)は、「公的サ-ビス」と「何らかの支援」が同数であったが、「知らない」と回答した医師(29%)は「公的サ-ビス」が「何らかの支援」の1.5倍あった。また小児科医の年齢、性別により親の育児不安についての認識に違いが認められた。以上から、小児科医の中にも保護者の育児不安の現状の理解には差があり、小児科医がもっと積極的に育児支援や育児不安の軽減を認識して活動する必要があると考えられた。
4)出産前小児保健指導事業の評価:日本医師会が平成13年度のモデル事業実施地域を対象に調査したアンケ-ト調査の中間集計に基づき検討した。プレネイタルビジットを受診した妊婦や家族の回答では役に立った61.4%、不安が軽減した53.0%、指導を受けた小児科医にその後も受診している25.3%であり、役に立っていないは1.9%に過ぎず、本事業が育児不安の軽減とかかりつけ医の確保に有効な手段になることが明らかになった。
5)全国各地でモデル事業として、あるいはボランタリ-にプレネイタルビジットを実施している実地小児科医、産婦人科医の意見は本報告に添付されている速記録の中に明らかにされているが、まとめると次の通りとなる。
(1)育児不安軽減効果は実施医師も、受診妊婦・家族も大多数が認めていた。
(2)ボランタリ-に実施していた小児科医にも、事業としての受診は極めて少数であった。
(3)今後プレネイタルビジットを推進し、普及させるためには次のような改善が必要であると考えられた。
①受診対象者を育児不安の特に強い初産婦と限定せず対象を拡大すること。
②受診時期を出産前と限定せず、出生前後として、産後の受診を可能にすること。
③小児科を先に受診することを認めること。
④市町村内の居住者に限らず、給付対象を地域内で出産する里帰り妊婦と、地域内に住所を有し地域外で出産する予定の妊婦にも拡大すること。都道府県内の市町村が協力して受診票の広域化を図り受診者の便宜を図ること。
⑤産科から小児科への紹介状の記入を簡単にして、紹介しやすくすること。
⑥プレネイタルビジットを知らせるためのPR方法を改善すること。市町村は母親(両親)学級や母子手帳交付時などの際にプレネイタルビジットの広報に協力すること。
6)児童虐待や非行の事例には、親自身の成育歴に問題がある例が多く、プレネイタルあるいはペリネイタルビジットによる小児科医への接触により予防され健全な育児が行われた事例もフォ-ラムで紹介され、育児支援の必要性が益々高くなっていることが認識された。
結論
育児不安を持つ親が増加し、小児科医が相談を受けることが多くなっている実態が明らかになった。プレネイタルビジットが育児不安の解消のみならず、児童虐待や非行の予防にも有力な手段になることも明らかなった。出産前小児保健指導事業の普及のために、現在の要項の問題点を検討し、改善策を提言した。一般の妊婦およびその家族に本事業を知らせるための広報活動が重要であることも明らかになった。

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