糖尿病および生活習慣病をもつ子どものQOL改善のための研究

文献情報

文献番号
200200382A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病および生活習慣病をもつ子どものQOL改善のための研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
松浦 信夫(北里大学医学部小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 松浦信夫(北里大学医学部小児科)
  • 佐々木望(埼玉医科大学小児科)
  • 貴田嘉一(愛媛大学医学部小児科)
  • 田嶼尚子(東京慈恵会医科大学内科学3)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
13,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「健やか親子21」が示すように、現在我が国において少子化が急速に進んでいる。心身ともの健康な子供を育てることは、我が国の将来発展のためには欠かすことが出来ないことである。しかし現実には小児糖尿病、特に2型糖尿病の急速な増加、若年化が進み、この予備群となる小児肥満、高脂血症など生活習慣病が増加・若年化している。一方、1型糖尿病の長期予後も欧米に比べ悪いことも明らかにしてきた。社会構造の変化は子供達のライフスタイルを大きく変え、生活習慣病、2型糖尿病ばかりでなく、不登校、こころの問題が問題になっていることは、「健やか親子21」に示された通りである。これらの問題を解決するため4分担研究で研究を進めるが、研究班全体の事業として「糖尿病をもつ子どもの及び保護者の生活の質(QOL)についてのアンケート調査」を実施し、患児及び保護者が抱える問題を分析する。近年小児の2型糖尿病が増加し、若年化してきている。幸い我が国においては学校における集団検尿の制度があり、糖尿病を早期に発見が可能である。しかし、検尿、診断、治療、追跡体制が不十分なためせっかく発見された糖尿病児が適切な治療を受けずに、働き盛りの20から30歳代に重篤な糖尿病性合併症に陥ることが希ではない。また、肥満、高脂血症、高血圧に伴う生活習慣病も確実に増加の傾向があり、心筋梗塞の若年化が問題になっている。この背景をくい止めるために、またより健全な小児の健康生活を確保するため、またこの子ども達の学校生活のQOLの現状を明らかにするため、この研究班は組織された。研究2年目の概要を報告する。
研究方法
研究班は4つの分担研究および班全体の研究事業から成っている。
1)「小児1型糖尿病児の学校、社会生活の実態とそのQOLの改善に関する研究」班(分担研究者 松浦信夫)は主に1型糖尿病児の実態、治療、学校社会生活の改善を中心に研究が進められる。患児の精神的問題点、患者・学校での取り組みとその改善のための試みが行われた。小児インスリン治療研究会に登録された患者を800余名を中心に治療の実態が明らかにされた。超速効型インスリン導入によるCSII療法の治療効果、問題点も報告された。
2)「2型糖尿病児の社会的背景とそのQOLを改善するための研究」班(分担研修者 佐々木望)は2型糖尿病の疫学、診断、治療法、長期予後の改善を目指して研究が進められた。集団検尿で発見される尿糖陽性児のスクリーニング方法、診断方法、治療法の確立、更に治療上一番問題になる治療中断例の背景、防止法についても検討された。これを支えるソーシャルサポート体制、運動療法も検討され、一方横浜市で発見された児の長期予後も明らかにされた。
3)「小児の生活習慣と生活習慣病の予防に関する研究」班(分担研究者:貴田嘉一)は主に生活習慣病の評価法、特に近年明らかにされたアディポサイトカインの意義、病態、予防法の確立について検討された。子ども達の日常生活が生活習慣病のリスクファクターとしてのいかに関与しているのか、またQOLの向上、予防について国際比較検討を行い方策を立てる。国際的に比較検討することにより、わが國に欠けている問題、民族差を明らかにする。
4)「小児1型糖尿病の長期予後改善のための疫学研究」(分担研究者:田嶼尚子)は1型糖尿病児の長期予後の研究を継続した。1965年~1979年に18歳未満で診断された小児糖尿病患者の追跡に次いで、1980年代発症例についてのコホート、追跡が開始された。1980年代発症の標準化死亡率は12.8から3.5に大幅に改善していることが明らかにされた。同様に、大阪地区でのコホートについて追跡調査が行われ網膜症、腎症とも合併症の発症が改善した。
5)研究班全体の共同研究「糖尿病をもつ子どもの及び保護者の生活の質(QOL)についてのアンケート調査」(調査責任者 中村伸枝)は研究班員の勤務している大学病院、総合病院、こども病院に通院中の1型、2型糖尿病児及びその保護者を対象にアンケート調査を実施した。調査対象年齢は10歳から22歳であり、小中学生は62項目、高校大学生は67項目、保護者には36項目からなる質問用紙を用いた。調査は北里大学医学部・病院倫理委員会並びに各施設の倫理委員会の承認のもとに行った。現在までに500余名の回答が寄せられ分析中である。
結果と考察
成果と考案:1)1型糖尿病のQOLの分担研究班では①患児の精神的な面の分析。②学校、家庭の生活実態調査並びにQOL改善の試み。③我が国における小児・思春期糖尿病児の治療の実態及びコントロール状況の把握が行われ、施設間較差の背景の検討。④超速効型インスリン発売によるCSIIの小児期領域での導入の試みが検討された。米国、ヨーロッパの一部の地域では急速のCSIIの導入が進んであり。我が国では使用するポンプが非常に高価であること、保健診療上実施すればするほど病院の持ち出しになってしまうことが普及の妨げになっているものと考えられる。
2)2型糖尿病の診断、治療に関する分担研究では①三重県、福岡市、埼玉県に於ける2型糖尿病の診断、検査体制の強化が検討された。②東京都で発見された症例の治療経過、予後改善の試み、薬物導入の実態が報告された。③横浜市における2型糖尿病の長期予後、④予後改善のためのソーシャルサポートのあり方、運動療法の試みが報告された。
横浜市は検診事業を最も古くから実施してきた市であるが、2型糖尿病の治療中断例が最近明らかにされ、25-29歳に働き盛りの年齢で失明、腎不全に陥っていることが明らかになり、従来の報告に一致していた。これらの報告は、尿糖検診で発見された2型糖尿病に対する長期的視野に立った治療、ソーシャルサポートが必要である。
3)生活習慣病に関する分担研究では①アディポサイトカイン、特にレプチン、アデポネクチンと肥満の相関、②健康小児および肥満小児における代謝症候群あるいは生活習慣病リスクファクターの解析、③それらのベースとなるインスリン抵抗性についてフィールドワークにより実態を明らかにした。今後これらに対するインターベンションの可能性を検討した。生活習慣病リスクファクター(血清脂質、LDL粒子サイズ、血圧、血管拡張反応)あるいはそれらを複数併せもつ代謝症候群は肥満の進行とともに頻度が大きくなることが示され、そのベースにHOMA-Rで表されるインスリン抵抗性およびそれを調節するアデイポサイトカインが係わっていることが明らかにされた。
4)1型糖尿病の長期予後に関する研究は、1965-90年に18才未満で診断された全国の小児1型糖尿病計3505名を対象に、2000年1月1日現在の、1) 死亡率と死因を調査し、地域差や診断年代による変化を観察する、2) 糖尿病による慢性合併症の発症率とそれに関連する医療環境・社会環境因子について調査ことである。平成15年2月10日現在の1965-79年診断群、1986-90年診断群を合わせた回収状況は全体の41.8%であった。平成15年2月10日現在、1986‐90年診断群の死亡率(対10万人年)は177、標準化死亡比(SMR)は3.5で、1965‐79年診断群と比較するといずれも著明に改善していた。大阪registryの検討でも、合併症発症の遅延が確認された。
5)班全体の事業は調査用紙の配布、回収、集計が進められた。詳細については最終年度に報告される予定である。
結論
小児期発症1型,2型糖尿病の医療が改善し予後が大幅に改善していることが明らかになった。

公開日・更新日

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