小児慢性特定疾患治療研究事業の登録・管理・評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200380A
報告書区分
総括
研究課題名
小児慢性特定疾患治療研究事業の登録・管理・評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 忠明(国立成育医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 柳澤正義(国立成育医療センター病院)
  • 青木菊麿(女子栄養大学)
  • 内山聖(新潟大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児慢性特定疾患治療研究事業(以下、小慢事業)は、医療意見書を申請書に添付させ、診断基準を明確にして小児慢性特定疾患(以下、小慢疾患)対象者を選定する方式に、平成10年度以降全国的に統一されている。そこで、10~13年度小慢事業の全国的な登録状況を集計・解析した。小慢疾患の疫学的、縦断的解析を行い、国や地方自治体、そして小慢疾患を診療・研究する医療関係者、また患児家族に、その情報を提供したり、今後の法制化ないし制度化に必要な資料を作成することを目的とした。
研究方法
小慢事業に関して、実施主体である都道府県・指定都市・中核市から厚生労働省に、平成14年11月中旬までにコンピュータソフトによる事業報告があった医療意見書の内容を集計・解析し、他の調査報告と比較した。この内容には、自動計算された患児の発病年月齢や診断時(意見書記載時)の年月齢は含まれるが、プライバシー保護のため、患児の氏名や生年月日、意見書記載年月日等は自動的に削除されている。また、小慢事業として研究の資料にすることへの同意を患児の保護者から得ている。そして、外部への資料の流出や外部からの改ざんを防止するために、インターネット等に接続していない専用のコンピュータを用いて、疫学的に解析した。
結果と考察
10年度以降は、市区町村による乳幼児医療費助成制度の拡大、ならびに、小慢事業への登録に明確な診断名が必要となったため、国の小慢事業の給付人数はやや減少傾向が認められた。しかし、コンピュータソフトによる登録人数は、10、11、12年度、全国延べ各々106,790人、115,893人、120,652人と増加傾向にあり、13年度は約8割の実施主体から延べ86,054人、合計延べ429,389人の資料を得られた。各実施主体での電子データの登録状況が定着しつつあるためであり、小慢疾患患児の全国的な実態をより反映した、より正確な資料となっていると考えられる。
しかし、小慢事業の資料には、乳幼児医療費助成制度利用者、また、小慢事業への非同意者が含まれていない。したがって、これらを考慮しながら解析、考察しなければならない。そして依然、コンピュータ入出力上、一部に不手際が見られた。登録を再度確認するシステムや登録率が極端に低い実施主体に働きかけるシステムの構築が望まれる。
12年度に日本全国で1,000人以上登録された小慢疾患は、都道府県単独事業も含めて多い順に、成長ホルモン分泌不全性低身長症12,664人、気管支喘息11,878人、白血病6,680人、甲状腺機能低下症5,474人、川崎病(冠動脈瘤、冠動脈拡張症、冠動脈狭窄症を含む)4,283人、1型糖尿病3,740人、脳(脊髄)腫瘍3,631人、甲状腺機能亢進症3,243人、ネフローゼ症候群3,210人、血管性紫斑病2,773人、神経芽細胞腫2,699人、慢性糸球体腎炎2,536人、心室中隔欠損症2,408人、思春期早発症2,248人、若年性関節リウマチ2,105人、先天性胆道閉鎖症1,930人、悪性リンパ腫1,388人、血友病A1,373人、水腎症1,073人、先天性副腎過形成1,071人、慢性甲状腺炎1,048人、ターナー症候群1,029人、2型糖尿病1,019人、網膜芽細胞腫1,008人であり、11年度とほぼ同様の結果であった。
大阪府の地域がん登録によれば、小児がんの74.6%が小慢事業で登録されており、全国的な疫学調査として小慢事業の有用性が示された。神経芽細胞腫のマススクリーニングの効果判定に関しては、10年度に登録された患児が来年度5年間を経過するので、今後、貴重な資料が得られると期待される。
フェニルケトン尿症は88%が、小慢事業で登録されていると試算され、ほぼ全国規模のデータを把握するのに小慢事業の有用性が示された。軟骨無形成症に関しては、患者・家族の会から依頼され、眼科的所見と成長ホルモン治療との関連性を調査したが、因果関係について述べることは難しかった。
小慢事業は、今後、法制化ないし制度化し、安定した運営を図ることが期待されている。ぜんそく、慢性心疾患、川崎病などは、現在、1か月以上の入院を前提に対象にしているが、今後は、他の疾患と公平性を保つため、入院も通院も対象にするべきである。しかし、予算の都合上、また、他の疾患と同程度の重症者を対象にしなければならない。そこで、どのような基準を設定したら対象者が何人になるか試算し、今後の法制化の資料とした。
対象疾患の見直しを行い、疾患によっては個々の患児の対象基準を設定したり、また、対象患児の重症度判定を行い、必要な場合は、医療費助成のみでなく、福祉サービスなど一人ひとりにあったサービスの提供が可能になるように配慮した。そして、それらが保健所での申請時に、容易に判定できるように、またコンピュータ上、過度の負担がかからないように、また専門的な研究がより正確に実施できるように配慮しながら、今後の医療意見書案を作成した。
コンピュータシステムに関しては、コンピュータソフトの運用上の問題点を探り、新しいオペレーティングシステムのWindows2000 と Windows XPなどに対応した Access 2002 を基本とするシステムを開発して、厚生労働省を通じて全国の実施主体に配布した。
そして、新生児マススクリーニングで発見された症例の追跡調査を検討した。発見された症例の追跡調査に必要な情報を収集するために、小慢疾患の全国登録の集計データと医療意見書を分析して、今後の追跡調査に必要な情報として活用することを検討した。
今後、小慢事業の治療研究は、統計事業と登録研究事業、また登録研究事業からの情報の二次利用の三つに整理することが望まれる。統計事業では、公的医療費助成をどのような疾患に行ったかという基礎データ、すなわち生年月日や登録番号等の個人情報をまったく含まないものは中央で把握する。そして、登録研究事業は、現在実施中の研究内容であり、治療研究の必要性を患児家族に十分説明して同意を得た上で、プライバシー保護に十分配慮しながら個人識別情報を登録しデータを蓄積・解析する。さらに、詳細な研究が必要な場合、医療機関などを通じて二次調査が可能になるシステムを構築する。
結論
①平成10~13年度の小慢事業の全国的登録状況に関して、疫学的、縦断的に集計・解析した。年度ごとに、小慢疾患の全国的な実態をより反映した、より正確な資料となっていた。
②悪性新生物と先天性代謝異常は、高い登録率と登録データの精度の向上によって、全国的な疾患の現状を把握することが可能となり、疫学的な有用性が高まった。
③現在1か月以上の入院を前提に対象としているぜんそく、慢性心疾患、川崎病などは、小慢事業を法制化ないし制度化する際に、入通院とも対象にするべきであり、それらの対象基準案の設定と対象児数の試算を行った。
④小慢事業の対象の可否や重症度を、保健所での申請時に容易に判定できるように、またコンピュータ上、過度の負担がかからないように、また専門的な研究がより正確に実施できるように配慮しながら、今後の医療意見書案を作成した。
⑤小慢事業登録・管理システム(コンピュータソフト)の運用上の問題点を探り、新しいオペレーティングシステム(Windows2000、XP等)への対応版を作成し、厚生労働省を通じて全国の実施主体に配布した。

公開日・更新日

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