助産所における安全で快適な妊娠・出産環境の確保に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200378A
報告書区分
総括
研究課題名
助産所における安全で快適な妊娠・出産環境の確保に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
青野 敏博(徳島大学名誉教授)
研究分担者(所属機関)
  • 清川 尚(船橋市立医療センター病院長)
  • 竹内美恵子(徳島大学医学部保健学科教授)
  • 高田昌代(神戸市立看護大学教授)
  • 戸田律子(日本出産教育協会代表)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、ケアの受け手である女性のニーズを把握し、助産師活動の現状を分析することにより、医師と助産師が共同して正常分娩急変時のガイドライン及び分娩の適応リストを作成し、助産師活動マニュアルを検討する。目的は、自然な分娩形態を希望する産婦が出産の場として選択した助産所を糸口にして、出産する女性の自主性を基にした安全で快適な妊娠・出産環境の確保に向けての基礎資料を作成することである。
研究方法
1. 女性が求める妊娠・出産期の助産サービスについての調査分析
全国511施設で妊産婦サービスを受け、インフォームドコンセントの得られた女性3311名を対象として、平成13年12月から平成14年1月までの期間、質問票調査により、妊娠前半期、妊娠後期、産後1ヶ月、産後3ヶ月の計4回、女性が妊娠・出産に対して何を期待し、何を望み、不安に思うかを前向きコホート追跡調査を行った。また、焦点集団面接法による調査を平成15年2月に、全国で活動を展開する育児・出産・母. 助産ケア提供内容の適正化に関する検討
助産所・診療所・病院に勤務する助産師1,200名を対象に、安全性と快適性を考慮して行っているケアをデルファイ法で調査した。また、妊娠、分娩期に助産所より病院に搬送された事例については、半構成的な面接を行い、助産師の搬送への対応について、搬送を受け入れた医師と助産師からの評価を分析した。
3. 正常分娩急変時のガイドラインの作成(助産所)
全国の助産所で活動している助産師594名を対象に、助産所における分娩の適応と正常分娩急変時の搬送の実態についてアンケート調査を行い、データ分析を行った。また、全国4か所(北海道、東京、大阪、福岡)でガイドライン及び適応リスト案について報告会と評価会を開催し、意見を求めた。
4. 正常分娩急変時のガイドラインの作成とシステムつくり(病院、診療所)
日本産婦人科医会の定点モニターの協力を得て、診療所、病院で緊急搬送を受け入れる産科医の実態に関するアンケート調査を施行した(依頼数:1,014施設、回答数:769施設、回収率:75.4%)。
5. 助産師活動マニュアルの検討
助産師活動マニュアルについての組織的レビューと女性のニーズ調査及び助産師の活動の現状調査を分析した結果を基に、助産師活動マニュアル案を検討した。マニュアル案は、全国4か所での検討会を開催し、助産師による意見を求め、併せて、オランダ、英国における女性の意志決定に基づく、助産ケアの現状調査を実施した。
(倫理面への配慮)すべての対象者に研究の目的と方法を詳細に説明し、個人の秘密の保持と一切の不利益をもらさないことをよく説明し、合意を得て開始した。
結果と考察
(1)女性のニーズ調査:女性のニーズ調査の結果、安全と快適さは,診療所,病院で出産した女性に比して助産所で出産した女性の評価が高かった。助産所での分娩は、継続した個別的なケアが受けられることへの期待が高く、助産師のケアをより有用であると評価した。病院・診療所などの施設分娩では得られない快適さを、助産所に求めていた。また、1)女性の意志決定に必要な医療/ケア提供者についての情報や、出産・母乳育児に関する知識など情報が行き届いていないこと 2)妊娠・出産・授乳期の全てに助産師ケアが求められていること、3)疲労や出産後の授乳など、日常生活面での支援が不充分であることが示された。焦点集団面接では、妊娠から産後までの健康と生活全体を支援するシステム構築への要望と女性の意志決定を尊重したケアの実現に大きな期待と要請のあることを明らかにした。
(2)助産師による助産ケア内容の適正化の現状:助産師が、妊産褥婦及び新生児に対して、「快適さ」と「安全性」を重視したケアをどのように実施しているかの調査結果では、『観察』『判断・診断(異常の予測)』『教育・相談』『環境作り』が重視されていた。これらは日本助産学会の「日本の助産師が持つべき実践能力と責任範囲」に求められたケアであり、適正と評価した。また、平成14年度開業助産師から病院に搬送された緊急搬送事例19事例について、助産師の搬送時の対応について、搬送受け入れ病院の担当医師および助産師に対して、半構成的な面接を行い、ケアの適切性の聞き取り調査した。その結果、妊娠中毒症、前期破水、新生児呼吸促迫での搬送は、助産師の判断と搬送受け入れ施設の医師との間には、搬送基準の捉え方に差があり、医師への連絡、報告に課題を残していた。搬送基準の設定や記録の充実及び卓越した助産技術の修得は、早急に改革されるべき課題であると考えられる。
(3)助産所の現状調査:アンケート調査及び助産師との検討会の結果、分娩の適応基準は、助産所によってばらつきがあることが判明した。オランダでは、129項目に及ぶ分娩適応リストが作成され有効に機能している。医療システムが異なる我が国においても、助産所で分娩を引き受ける適応を統一することで、妊婦が助産所を最初に受診した時点で分娩のリスクを少なくできる。他方,助産所で異常が生じた場合、産婦人科医師へのスムーズな引継に課題が残り、また、病院等に搬送する際の判断の基準が各々に異なっていた。異常が生じた場合にも、女性が適切なケアが受けられるために、分娩取り扱い基準を検討し、分娩の適応リスト及び正常分娩急変時のガイドラインを作成する必要がある。特に、助産所で分娩経過中に問題が生じた場合の、母体の搬送システムの構築は緊急の課題である。調査では、分娩時の搬送理由の殆どが遷延分娩、微弱陣痛であり、助産所からの搬送は殆どの例でスムーズに行われたと回答されたが、分娩時の母体搬送手段には自家用車(58%)が多かった。この理由として、助産師が救急車を依頼するのをためらったためか、緊急性が少ないと判断したためか、あるいは救急車で搬送するシステムが確立されていない結果等が考えられるが、今回の調査でははっきりしなかった。新生児搬送では55%が救急車を利用していたが、28%の搬送例でやはり自家用車が使用されていた。搬送手段は、救急車が望ましいことは言うまでもない。総合周産期母子医療センターの搬送システムのない都道府県では、新生児仮死の搬送が多かった。周産期搬送システムを有する東京都、神奈川県、京都府、大阪府、兵庫県の5地域においては、助産所での出産が緊急搬送システムに組み込まれ、機能しつつあると報告されている。母子の搬送が迅速にかつ適切に行われるような搬送システムの構築や正常分娩急変時のガイドラインの作成が、助産所における出産の安全性を高める鍵であり、快適さを保証するものである。
(4)開業助産師マニュアルの検討
女性のニーズと助産師の活動調査の結果に基づけば、助産師の個別で継続したケアは女性のニーズに適合していた。正常分娩急変時に病院への搬送された場合にも、継続した助産師からのケアを求めていた。一方、女性のニーズは、正常な範囲を超えて助産師にケアを求める傾向の多いことが4か所で開催した検討会における多くの助産師の意見であった。助産師のケアは正常な妊産婦と新生児に対するものである。助産師が女性の要望を優先するあまり、医師への連絡や相談が滞ることがあってはならないし、また、搬送時の基準が大きく異なっていることもあってはならない。よいケアを提供するには、いかにあれば良いかの活動方針の基に、実践倫理に基づいた活動が求められる。しかし、文献検討の結果では既存のマニュアルは、詳細で判りやすく作成され、利用頻度も高いと推察できるが、基準や倫理規約を基本として示されたものはない。女性のニーズを妊産婦サービスの中心おいた助産活動を進めるにあたり、女性自身の意志決定が尊重される活動指針を作成する必要がある。
(5)助産師の能力を更に高める生涯教育について
開業している助産師の多くは高齢(60歳以上が50.8%)である。助産師としての実務年数経験は豊富である。安全かつ快適さを求めて助産所での出産を希望する女性のために、助産師は常に周産期医療の進歩に応じたケアの水準を維持していかねばならい。そのためには、あらゆる年齢層の助産師に対して、必要な生涯教育をシステム化していくことが肝要である。
本研究班は、正常分娩正常分娩急変時のガイドライン、適応リスト及び助産師活動指針の報告会及び救急時への対応能力を高めるための研修会を開催する。
結論
本研究班が本年度に作成した研究成果の骨子を示す。
①助産所での分娩の利点を明らかにした。②助産所で分娩を引き受ける適応リストを作成した。③助産所で分娩を管理する際に、助産師が留意すべき基本的なポイントを活動指針として示した。④助産所で分娩経過中に問題が生じた場合の、母体の搬送システムを構築した。⑤助産師の活動方針の基に、活動指針を作成した。
本研究成果は、すこやか親子21の課題実現に向けて、社団法人日本助産師会との連携し報告会を開催し、更に、活用度の高いガイドライン及び助産師活動指針として、内容の充実を図るための活動を継続する。
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