思春期の保健対策の強化及び健康教育の推進に関する研究

文献情報

文献番号
200200377A
報告書区分
総括
研究課題名
思春期の保健対策の強化及び健康教育の推進に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
三池 輝久(熊本大学医学部発達小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 玉井 浩(大坂医科大学)
  • 福永慶隆(日本医科大学)
  • 藤枝憲二(旭川医科大学)
  • 松尾宣武(国立成育医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
三池らは、中学生の2%、高校生の5%程度、大学生においては更に高率に存在する不登校状態は慢性疲労状態であり青少年達の閉じこもりの主な原因となっている。この状態はこれまでに知られた疾患概念では理解が困難である。疲労感の回復には少なくとも数カ月から数年を要するが後遺症としての易疲労性はそれ以上に長い月日に渡って患者達を苦しめる。患者数の多さと長期の闘病生活を考えるときこの病態の早期解明と治療法の確立は高齢化する日本社会において急を要する大きな問題である。青少年期における学校社会からの離脱が単なる学校嫌いや怠けとはことなる中枢性の慢性的疲労状態が含まれており、彼らの思考、記銘、集中、判断、認知、持久などの全ての能力において障害が存在することを明確にし、脳における原因病態を探りその治療法を確立する。藤枝らは、高次脳機能障害と心身症との関連を明らかにするために,言語発達の遅れで受診した幼児261例を長期間観察した。松尾らは、慢性疲労症候群と診断された小児患者13例について、副腎皮質機能を評価するため、早朝尿・蓄尿の尿ステロイドプロフィルを検討した。玉井らは、通常社会生活が不可能となるほどの慢性的疲労や身体不定愁訴の原因疾患として起立性調節障害(OD)はまれではない。しかし実際に低血圧、身体不定愁訴、心理社会的因子の因果関係は明らかでない部分が多い。不定愁訴を訴える小児の自律神経機能を評価し、心理的ストレスが自律神経系におよぼす影響を考察した。福永らは抗核抗体(ANA)陽性の慢性不定愁訴患者に対し自己免疫性疲労症候群(AIFS)という疾患概念を提唱してきた。しかし後に慢性疲労症候群(CFS)繊維筋痛症(FM)、subclinical シェーグレン症候群(SS)などと診断されうるものが認められる。類縁病態との関係、症状や登校状態などAIFS患者の長期予後を検討した。
研究方法
三池らは、熊本大学発達小児科外来を'99年1月から'04年11月までに受診した6?18歳までの計378名(男児26名,女児12名, 平均 14.0±2.4 歳)を対象とし、コントロールには6 ?18 才の健常児童233 例と19 ? 20 才の健常人31 例,計264 例を対照として、事象関連電位(P300)の検討を行った。藤枝らは1980年からの20年間に,主として幼児健康審査の場から「言葉の発達の遅れ」のため紹介された幼児を対象とした。松尾らは、熊本大学附属病院発達小児科を受診し、CFSと診断された患者13例(10-17歳、男6例、女7例)の入院時蓄尿13検体および早朝尿13検体と、慶応義塾大学病院小児科外来を受診した、対照506例、(9-17歳、男228例、女278例)の蓄尿110
検体および早朝尿396検体である。玉井らは、通常の生活を送る基礎疾患のないスウェーデン、ノルショッピン市の基礎学校生徒(7才?15才)122名(男子66名、女子56名)。1)身体不定愁訴の調査として身体症状16項目の健康調査、12項目の性格特性についての質問調査を行った。2)臥位7分、起立7分の能動的起立試験を行い、連続血圧心拍数を測定し、有症状群と無症状群を比較した。福永らは対象は6年以上観察しえたAIFS 患者74例。症状、検査所見等、病歴調査し、自己抗体についてはWestern blot 法で詳細に分析した。
結果= 74例中11例は後にCFSの、7例はFMの診断基準を満たした。抗Ro抗体陽性の3例中1例は口唇生検にてsubclinical SSと診断された。また、抗RNP抗体症候群と考えられる症例も1例存在した。ANAはほぼ全例持続陽性。多くの患者は症状が続き、23例は不登校となった。
結果と考察
三池らはその結果、健常児童のものとは明らかに性質の異なる要素を含んだP300異常が存在し, 3タイプに分類できた.今回の検討により、不登校児の高次機能疾患タイプを3 型に分けることができ,事象関連電位の臨床的有用性が確かめられた。今後、治療においても指標の一つになりうると考えられた。藤枝らは、疾病分類では,広汎性発達障害児121例,知的障害児65例では,パニックや自傷,他害といった行動異常はみられたものの,身体症状を訴える心身症はいなかった。これに対して,幼児期に発達性言語障害と診断した67例では,10例(15%)に心身症が合併した。心身症を合併した発達性言語障害児10例において,注意欠陥/多動性障害と診断された例は6 例であり,不登校となった例は2例だった。また,WPPSI下位項目の中央値では,算数6,理解4と低かった。ただし,心身症を合併しなかった発達性言語障害児の群と比較すると,注意欠陥/多動性障害の合併率,Wechsler系の知能検査結果には有意の差がなかった。松尾らは、1)副腎皮質機能は、13例中12例で正常、1例で低下していた。2)5?/5?代謝物比の平均値は、患者12例で、対照群に比し有意に低く、肝5?-reductase/5?-reductase活性比の低下が示唆された。上記所見より、小児慢性疲労症候群において、肝ステロイド代謝の変化が示唆された。玉井らは、1)身体症状に関する健康調査122名中6名が能動的起立試験にて低血圧発作をきたした。この6名はいずれも失神発作の既往も身体症状なく、健常児においても認められる低血圧発作と考え、対象から除外した。有症状群は無症状群と比較して①臥位血圧が低く、ccvLF(R-Rintervals)ccvLF(SAP、DAP)が低値であり、②起立中の血圧、ccvLF(R-Rintervals)ccvLF(SAP、DAP)に差はなく、臥位から起立後の上昇率が高い、という結果が得られた。福永らは、74例中11例は後にCFSの、7例はFMの診断基準を満たした。抗Ro抗体陽性の3例中1例は口唇生検にてsubclinical SSと診断された。また、抗RNP抗体症候群と考えられる症例も1例存在した。ANAはほぼ全例持続陽性。多くの患者は症状が続き、23例は不登校となった。
結論
三池らは、脳機能における認知力の低下は彼等の特徴とも言える臨床症状であるが、子どもたちの疲労と学習・記憶・認知機能障害の医学的な背景には、睡眠・覚醒リズムの混乱に伴う質・量両面の睡眠不足、深部体温調節機能障害、ホルモン分泌機能障害、など概日生体リズムの異常が中心となっており、臨床的には慢性的時差ぼけ状態として自律神経機能や食欲調節機能の問題を伴っている。この生体リズムの歯車の狂いを中心とした医学的異常を背景として、今回の検討により、高次脳機能にも問題が確認された。今後は、小児型慢性疲労症候群(CCFS)ともいうべき不登校状態にある患児達への治療法の確立を計りたい。藤枝らは、言語発達の遅れを契機に受診した発達障害児で心身症を合併したのは,自閉症や知的障害よりも,むしろその高次脳機能障害の程度が軽度と思われる発達性言語障害児に多かった。また,心身症の合併の有無で,発達性言語障害児の知能検査結果を比較したが,両群に有意の差はなかった。すなわち,発達障害を有する子どもでは,疲れやすいといった心身症の合併は多くなるが,高次脳機能障害の程度そのものによるのではなく,学校や家庭といった患児を取り巻く環境に影響されることが大きいことが示唆された。玉井らは、今回の調査では「不定愁訴のある小児は低血圧である」という結果であったが、能動的起立試験において起立性低血圧、起立後代償的頻脈、脳血流を低下させるほどの低血圧は生じておらず、低血圧が身体不定愁訴の直接の原因とは考えがたい。周波数解析からは不定愁訴小児の臥位安静時における交感神経機能は低下していると推測できるが、このような状態ではカテコラミンの分泌が低下していてもカテコラ
ミン感受性が亢進しており[2]、心血管反応は見かけ上正常反応を示すことも考えられる[3]。したがって有症状群では実際の交感神経活動は低下しても分泌能力はある程度保たれており、カテコラミンに対するsupersensitivityの効果で起立時のみかけの交感神経活動は無症状群と同程度になったと考えられる。すなわち、有症状群は起立による交感神経反射が亢進していると考えられた。起立直後の血圧低下が有症状群で著明であったこともカテコラミンに対するsupersensitivityを裏付けるものであろう。
小児において慢性的心理ストレスは交感神経機能を低下させ、低血圧に伴う不定愁訴は、低血圧によって直接引き起こされるものではなく、適切に処理できなかった慢性的心理ストレスが自律神経系を介して生じたものではないかと考えられた。福永らは、ANA陽性CFSはALFSの重症型であり、FMは合併症として位置づけられる。抗Ro陽性例はSSと診断されれば除外すべきであろう。ALFSの長期予後は決して良好ではなく、さらなる病態解明と治療の開発が望まれる。

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