思春期の保健対策の強化及び健康教育の推進に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200376A
報告書区分
総括
研究課題名
思春期の保健対策の強化及び健康教育の推進に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
衞藤 隆(東京大学大学院教育学研究科総合教育科学専攻身体教育学コース健康教育学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 大久保一郎(筑波大学社会医学系医学社会学研究室)
  • 大澤清二(大妻女子大学人間生活科学研究所)
  • 田中義人(広島大学医学部保健学科臨床看護学講座小児保健学・母子健康管理学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
思春期の保健対策の強化と健康教育の推進にかかわる3つの主題を設定した。すなわち、〔研究1〕思春期の健康スクリーニングのあり方、〔研究2〕思春期保健対策展開に関わる学校保健制度に関する研究、〔研究3〕思春期の保健サービス供給における学校・家庭・地域の連携に関する研究、である。〔研究1〕は2つの研究から成り、いずれも思春期の年代を含む児童生徒の健康診断の実態を明らかにした。〔研究2〕では学校保健の制度論的研究を行うことを目的として国際比較の立場からタイの学校健康診断制度を調査した。〔研究3〕では、大学生の風疹に対する意識調査と女子大学生での抗体保有状況を調査し、学校・家庭・地域の連携による健康教育の課題を追求した。〔研究1〕では、思春期の保健対策を進める上で、対象者の健康管理のためのスクリーニングに着目する。思春期の年代のかなりの者は学校に通う存在であるので、まず学校における健康診断の機能を検討することとし、今年度は小学校から高等学校までにおける健康診断の実態を調査すると同時に学校医に対する意識調査を実施することとした。〔研究2〕では、学校保健の制度論的研究を行うことを目的として、国際比較の立場からタイの学校健康診断制度の現状を調査した。〔研究3〕では、大学生を対象として風疹に対する意識調査と一部の学生での抗体保有状況について検討し、予防接種についての意識の実態を考察した。
研究方法
〔研究1〕の第1では、全国の小学校7,328 校、中学校7,328 校、高等学校118 校を抽出し、健康診断の実態について質問紙調査を実施。回収率はそれぞれ、78.2%, 60.2%, 96.6%。第2では、青森県医師会の全会員(n=1,450)を対象とし自記式質問紙調査を実施した。〔研究2〕では、タイ国において行うべく策定されている保健教育指導要領を明らかにし、ついで北タイのチェンマイ県を例にとって、代表的な学校を選び、保健教育・エイズ教育の実態を調査した。〔研究3〕では、大学生約1,200名を対象に風疹に対する知識、風疹罹患状況について質問紙調査を実施した。これとは別に大学生を対象に風疹抗体保有状況を測定した。
結果と考察
〔研究1〕の第1では、以下の諸点が明らかとなった。1)保健調査では既往歴、本人の病気の自覚状況、アレルギー等を中心に把握し、健康診断に活用していた。2)小学校では身長、体重は毎学期またはさらに頻繁に測定している学校が多い。類似の傾向は中学校においても認められ、身体計測値を活用した健康教育の意義が示唆された。3)学校保健法に定める以外の健康診断項目については、約30%の割合で実施されていることが判明した。4)内科的診察に関し、女子においては大半が下着をつけて診察を受けており、健康診断時に着用する下着、診察の方法などについて標準化を図る必要性があることが示唆された。5)健康診断結果の伝え方について、プライバシー保護の観点から封書に入れて渡すなど配慮が必要な状況が存在することが明らかとなった。第2では、「項目」に関しては、70%以上が「やや重要」、「重要」と回答し、その重要性が支持されたが、「座高」と「寄生虫卵」に関しては「あまり重要でない」「重要でない」がそれぞれ、約60%、40%であった。また「発見される疾病異常」では約60%以上が「やや重要」「重要」と回答した、ほぼその重要性が支持されたが、「回虫卵」、「蟯虫卵」「ヘルニア」、「湿疹」、「外眼部疾患」で
は約40%以上が「あまり重要ではない」「重要ではない」であった。「実施頻度」に関しては、約70%以上が「適切」と回答したが、「座高」と「寄生虫卵」は約40%が「減らすべき」であった。また「増やすべき」は「保健調査」が約10%で最も高かった。これらの傾向は学校医とその他の医師では大差なかった。今後の学校保健のあり方を考える上で項目では「寄生虫卵」、「座高」が見直しの必要性が、追加すべきものとして「心の問題」や「アレルギー疾患」が示唆された。また今後ますます重要とされるものとして「保健調査」が示された。〔研究2〕実際には策定された保健教育単元つまりわが国における学習指導要領の相当する模範的なカリキュラム〔学習指導要領と呼んでおく〕はそれぞれの学校の裁量に依存して非常に融通に富んだ弾力的な運用がなされている。保健教育を行う人、場所、方法、項目、そして学年のいずれもが学校の規模や設置者、地域によって大きく異なっていた。〔研究3〕大学生の先天性風疹症候群に対する意識は十分とは言えず、女子学生で風疹の予防接種歴と既往歴の両方の無い比率は約20%と推測された。また、予防接種法改正後に中学生を経過した女子学生での風疹抗体陰性者率は23%であった。
結論
〔研究1〕思春期の年代の健康に関するスクリーニングとして学校の健康診断は一定の機能を有するが、その内容、方法について対象者のヘルスニードに対応した形で検討されるべきであると同時に、他の健康評価の手段も検討さるべきである。〔研究2〕タイの学校保健教育はいわば状況対応型の学校保健教育であり、その意味からも13年度に報告した学校健康診断制度に良く似ていた。〔研究3〕学校保健、家庭での風疹、先天性風疹症候群への正しい知識の提供と予防接種の意義の啓発、ならびに実際の抗体陰性女性に対する対策が重要と考えられた。

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