小児心身症対策の推進に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200374A
報告書区分
総括
研究課題名
小児心身症対策の推進に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小林 陽之助(関西医科大学小児科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 沖 潤一(旭川医科大学小児科)
  • 衛藤 隆(東京大学大学院教育学研究科)
  • 金生由紀子(北里大学大学院医療系研究科)
  • 星加明徳(東京医科大学小児科)
  • 渡辺久子(慶応大学医学部小児科)
  • 山縣然太朗(山梨大学医学部保健学II)
  • 田中英高(大阪医科大学小児科)
  • 小枝達也(鳥取大学教育学部地域科学部)
  • 三池輝久(熊本大学医学部小児発達学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年一般小児科外来でも心の問題が関わる不定愁訴や問題行動、不登校などを訴える子どもが増えている。しかし、本邦ではこれらの心身医学的問題に関する基礎知識が普及しているとはいいがたいために、外来で診察する一般小児科医や学校医はその対応に苦慮していることが多い。本研究班では乳児期から思春期を経て成人に至るまでの心と体との健全育成を目標として、(1)小児・思春期の心身の発達と心理社会的問題および心身症に関する知識を普及させ、(2)地域における子どもの心の健全育成に関わる関連諸機関、すなわち医療、教育、行政による地域に根ざしたネットワーク・モデルを確立することを目的とする。平成13年度、小児心身症に関する新しい知見と日常診療に必要な知識をまとめ、「子どもの心の健康問題ハンドブック」(案)を作成し、一般小児科医、学校医、児童精神科医・小児心身症専門家に評価を求め、調査結果をまとめた。今年度は、その結果をもとに、ユーザーを一般小児科医とし寄せられたニーズに沿って情報を追加・変更して改訂版を作成した。作成したハンドブックを各種関連学会で配布するとともに、分担研究者・研究協力者が各地でハンドブックを用いた研修会を開催した。本研究では「心の健康問題ハンドブック」を実際に2~3か月間使用した後の感想を質問紙を用いて調べた。
研究方法
方法=
①「子どもの心の健康問題ハンドブック」の作成:平成13年度、子ども家庭総合研究事業・研究課題名「心身症、神経症等の実態把握及び対策に関する研究(10120601)」(奥野晃正班)で得られた新しい知見と他の全国の小児心身症専門医師らの協力により、非専門家のためのミニマム・リクワイヤメントと実際の対応上のポイントをまとめ、「子どもの心の健康問題ハンドブック」(案)を作成した。続いて、作成したハンドブック(案)を一般小児科医、学校医、児童精神科医・小児心身症専門家に配布し評価を求めた。その結果、概要、総論・各論の項目数ともに「適当である」の回答は75%を超え、概ね高い評価を得た。しかし、専門分野の異なる医師の間では、項目に関する評価に若干の差を認めた。すなわち、(1)の一般小児科医では小児科学的一般知識を省いてよりコンパクトなものを求めている、(2)の学校医では小児科の基礎知識が充実したものや保険診療などの日常臨床に沿ったものを高く評価する、(3)の小児心身医学専門家では重症度の高いものやまれな疾患などより専門的な記載を必要と考える、というものである。そこで平成14年度は対象を「小児科の身体医学の基礎知識を有する一般小児科医」として、記載内容は一般小児科医を受診する小児心身症患者の大半に対応できるものに留め、重症例や稀少疾患は専門機関に紹介することができるよう鑑別のポイントや留意点を記載することとした。また「質問と回答」やコラムを増やし、関連諸機関の連絡先やウェブサイトの情報を充実させた。②ハンドブック・ユーザーの意見集約調査:作成したハンドブックを子どもの心の健康問題に関する各種学会・研修会等で配布した(平成15年2月20日現在約3,000部を配布済)。平成14年9月~11月の配布者に対して、実際に2~3か月間ハンドブックを使用した後の感想の質問紙による意識集約調査への協力を依頼し、128名から回答を得た。
結果と考察
結果=
①回答者数は128名であり、回答者の職種は医師99名、教師19名、心理士2名、その他10名であった。医師に関しては卒後16~20年が最も多く(21.0%)、続いて21~25年、26~30年がともに19.0%であり、16~30年を併せると全体の約60%であった。このうち、小児心身症を専門とすると回答した医師は10.0%、専門としないと回答した医師は73.7%であった。②ハンドブックの難易度については「非常にわかりやすい/わかりやすい」の回答が90%以上、臨床における有用性については「大変役に立った/まあまあ役になった」の回答が80%以上であった。③「追加が必要な項目」については、「精神科疾患を主とする疾患の項目を追加して欲しい」と「保護者や患児に対する説明をさらに充実させて欲しい」という要望が多かった。ハンドブックに対する自由記述では、「小児心身症の非専門医にとって有用である」、「わかりやすい」、「コンパクトである」という肯定的な意見が多かった。
考察=上述の結果から、「子どもの心の健康問題ハンドブック」は一般小児科医における心身症臨床に概ね有用であると考えられた。今回の回答者の約100名の医師のうち、卒後16~20年が約60%であり、また心身症の非専門家が70%以上であった。この対象はまさに本研究班の目的とする「実際に外来で小児心身症患者に対応する一般小児科医」に近いと考えられる。このような回答者がハンドブックを実際に2~3か月間使用した後に、90%以上が「わかりやすい」、80%以上が臨床上「役に立つ」と回答したことから、本ハンドブックは、一般小児科医師への心身症の基礎知識の普及に有用と考えられる。自由記述では、全般として「コンパクトで一般小児科医にとってわかりやすい内容である」という評価を得ていた。よって「精神科疾患を主とする疾患の項目を追加して欲しい」と「保護者や患児に対する説明をさらに充実させて欲しい」という要望に対しては、ハンドブックが煩雑にならない範囲でコラムなどを充実させることにより対応したい。
結論
平成15年度は本調査結果をもとに若干の内容の追加と訂正を行い、「子どもの心の健康問題ハンドブック」改訂版を発行する。またハンドブックを用いて全国各地で分担研究者・研究協力者を中心に、研修会を開催し、知識の普及に努める。さらに各地での研修会を通じて、心身症の専門家ではない一般小児科医(医療)、校医・学校関係者(教育)、地域の保健従事者・自治体の児童対策担当者(行政)との話し合いを重ね、地域におけるネットワーク・モデルを確立することを目指す。このような活動を通じて、医療・教育・行政の連携の基礎をつくり、ひいては国民全体に還元したい。

公開日・更新日

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