妊産婦、授乳婦の栄養素摂取及び栄養状態に関する基準データの策定(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200372A
報告書区分
総括
研究課題名
妊産婦、授乳婦の栄養素摂取及び栄養状態に関する基準データの策定(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
吉池 信男(独立行政法人 国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 石田裕美(女子栄養大学)
  • 福岡秀興(東京大学大学院)
  • 阿部史朗(東京都立大塚病院)
  • 瀧本秀美(独立行政法人 国立健康・栄養研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成12年11月に厚生省が発表した「健やか親子21」計画の主要課題である、「妊娠・出産の安全性と快適さの確保」のためには、妊娠・出産を希望するすべての女性が、妊娠前から妊娠期、授乳期を通じて、児の健やかな発育と母体の健康維持に必要な栄養素を摂取できるよう、保証される必要がある。現在、次世代を産み育てる立場にある妊娠可能年齢女性で、慢性的な栄養素欠乏状態の者が増加している可能性が考えられるが、現状では十分な実態把握がされているとはいえない。そこで、本研究では1)国民栄養調査における妊婦・授乳婦のデータの再解析による問題点の整理とともに、2)妊婦の栄養素摂取状況調査と血中のバイオマーカーとの関連を検討、3)妊娠期、授乳期を通じた食物摂取状況調査を実施することを目的とした。
研究方法
1)1995~99年の国民栄養調査のデータセットから妊婦331名、授乳婦338名、ならびに年齢・調査年・調査地域で1対1マッチングさせた非妊婦・非授乳婦の対照群と比較検討を行い、全国レベルにおける妊婦・授乳婦における栄養摂取や血液バイオマーカーに関する検討を行った。2)東京都内2施設の産科外来を受診した健康な妊婦計210名を対象に、身長・体重などの身体状況、喫煙等の生活習慣の状況、ならびに血液検査による血中バイオマーカーの測定を行った。妊娠期間を考慮に入れ、今回は前半期(20週以内)と後半期(21週以上)の2期に分けて検討を行った。調査の実施方法の流れについては、測定項目:ヘモグロビン値・ヘマトクリット値・血清フェリチン・血清トランスフェリン・血清葉酸・赤血球中葉酸・血清ビタミンB12・血漿ホモシステイン3)妊婦210名に対し、3日間の秤量法による食事調査を依頼し、得られた食事記録より栄養素ならびに食品群別摂取重量の摂取量の推定を行った。4)妊婦、授乳婦の食物摂取状況について、10名の対象者を用い、妊娠18週・27週・34週、出産後5週・13週・24週の合計6期間の縦断的観察を行い、鉄の出納について検討した。食物摂取状況の観察は、1回が連続した10日間である。食物摂取状況の観察は秤量法と陰膳法を併用して行い、エネルギーおよび栄養素の推計は五訂日本食品成分表を用いた。
結果と考察
1)妊婦・授乳婦とも対照群に比べて、カルシウムの摂取量は有意に高かったが、平均値でも各時期の所要量は満たされていなかった。鉄の摂取量も若干高い傾向であったが、所要量に比べてかなり低い値であった。授乳婦は対照群に比べて、総エネルギー、総たんぱく質、炭水化物、カルシウム、鉄の摂取量が有意に高かった。授乳婦は妊産婦に比べて、総エネルギー、総たんぱく質、炭水化物の摂取量は有意に高く、鉄の摂取量は高い傾向であった。
貧血のカットオフ値にWHO基準を用い、妊婦は11.0g/dl未満、授乳婦及び対照群に対し12.0g/dl未満とした。妊婦では貧血者が22.9%と高率にみられ、授乳婦では11.4%、妊婦対照群17.1% 、授乳婦対照群14.7%に貧血がみられた。貧血の有無での栄養素摂取量の比較については、鉄摂取量を含めて有意差は認められなかった。2)妊娠前の体格がBMI18.5未満の「やせ」のものが高い割合でみられた。WHOの妊娠期の貧血のカットオフ値である、ヘモグロビン値11g/dl未満者の割合は、後半期で22.2%であったが、そのすべてがヘモグロビン値10~11g/dlであり、ヘモグロビン値の低下は循環血漿量の増大による生理的変化と考えられた。血液バイオマーカーで有意な差が見られたのは妊娠前半期のフェリチン値であり、妊娠前「やせ」群の25%が12ng/ml未満の貯蔵鉄欠乏状態であったのに対し、非「やせ」群では15%であった。
鉄欠乏の指標となる血清フェリチン、トランスフェリン、TIBCはいずれも、妊娠前半期と後半期で有意差を認めた。とくにフェリチン値の低下は著しく、12 ng/mlを呈する貯蔵鉄不足が疑われるものの割合は、後半期で著しく増加していた。しかし、鉄剤および鉄を含むサプリメント使用者では、妊娠後半期のフェリチンの低値は認められなかった。ビタミンB12不足を疑われるものの割合も、後半期で増加していた。長期的な葉酸栄養の指標である、赤血球中の葉酸濃度分布に関しても同様であった。3)鉄や葉酸などの主要な栄養素で日本人の栄養所領量に示されている妊婦の摂取目標値を下回っていた。一方、食品群別の摂取重量の分布では、米(米飯として換算)が1日平均235.8g摂取されており、穀類369.9gのほとんどを占めた。しかし、この値は平成13年国民栄養調査結果の20歳代女性における穀類摂取量の470gにくらべ低かった。一方、乳類の摂取量は同調査の20歳代女性に比べ、多く摂取されていた。
葉酸と鉄の摂取に寄与する食品群の摂取について、重回帰分析を行ったところ、共通していた食品群として、ほうれん草、パン、米が抽出された。4)鉄摂取量は計算値で妊娠期・授乳期ともに約9mg、実測値で約10mgであり、実測値が高値であった。鉄の摂取量が所要量より低水準であるにもかかわらず、蓄積量はほとんどのケースにおいて正の値であった。しかし、摂取量が9mgを下回ったケースの4例について蓄積量は負の値を示した。さらに、鉄の見かけの吸収率は妊娠期29.1±23.1%、授乳期授乳ありの場合50.7±18.2%、授乳期授乳無しの場合35.1±32.9%となり、この時期には見かけの吸収率が高まることが示唆された。
国民栄養調査、および血液バイオマーカーと食事調査の両面から検討した研究のいずれからも、鉄摂取量が低いという結果であった。血液バイオマーカーの検討からは、妊娠期、特に妊娠後半期のヘモグロビン値を鉄栄養の指標として用いるよりも、血清フェリチンを用いるほうが適切であると考えられた。鉄の出納試験の結果からは、妊娠期・授乳期は鉄吸収が高まっていることが示唆された。食事からの鉄摂取に寄与する食品群の検討と合わせ、妊娠期の適切な鉄栄養に関する指導を妊娠初期から始める必要があると考えられた。
結論
現在、(独)国立健康・栄養研究所では「葉酸情報のページ」というホームページにて一般向けに情報提供を行っているが、今後は葉酸だけでなく広く妊娠期の栄養について啓発活動を行う必要があると考えられた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-