妊娠糖尿病のスクリーニングに関する多施設共同研究

文献情報

文献番号
200200370A
報告書区分
総括
研究課題名
妊娠糖尿病のスクリーニングに関する多施設共同研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
豊田 長康(三重大学医学部産科婦人科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 中林正雄(総合母子センター愛育病院産婦人科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
妊娠糖尿病のスクリーニングの意義としては、以下の2点が挙げられる。
1) 周産期合併症の防止:糖尿病合併妊娠や妊娠糖尿病では様々な周産期合併症がみられるが、厳格な管理による血糖正常化により、その多くの異常を防止することが可能であり、早期発見・早期治療の効果が非常に大きい。
2) 糖尿病および糖尿病予備軍の発見:見逃されていた糖尿病を発見し、治療することによって、糖尿病合併症を予防することが可能である。妊娠糖尿病は、産後に耐糖能が正常化したものも将来糖尿病に進展する危険が高いが、糖尿病のハイリスク群として定期的なフォローアップと適切な指導を行うことによって糖尿病の発症予防が可能である。我が国では妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus:GDM)のスクリーニングとして随時血糖測定法・食後血糖測定法が推奨されているが、これらの検査法の有用性を裏付ける大規模な研究はなされていない。そこで、全国規模で統計学的に十分な症例数を集積して各検査法の感度・特異度を算出し、この研究の結果に基づいて、今後我が国で実施すべき妊娠糖尿病のスクリーニング法を決定するために今回の研究を立案した。
研究方法
我が国の23施設がGDMスクリーニング共同研究会を結成し、2002年12月現在、27施設が研究に参加している。
GDMスクリーニング共同研究会(JAGS)27施設 順不同
三重大学医学部産科婦人科学教室、総合母子保健センター愛育病院産婦人科、岡山大学医学部産科婦人科、宮崎医科大学産婦人科、札幌医科大学産婦人科学講座、旭川医科大学産科婦人科学教室、山梨医科大学産婦人科学教室、滋賀医科大学産婦人科、聖マリアンナ医科大学産婦人科、長崎大学医学部産科婦人科学教室、徳島大学医学部産科婦人科、奈良県立医科大学産婦人科、日本大学医学部産婦人科、久留米大学病院総合周産期母子医療センター産科部門、独協医科大学産科婦人科、りんくう総合医療センター市立泉佐野病院産婦人科、大阪府立母子保健総合医療センター母性内科、東京医科大学八王子医療センター産婦人科、日本大学医学部附属板橋病院産婦人科、東邦大学医学部付属佐倉病院産婦人科、国立大蔵病院産婦人科、関東中央病院産婦人科、大阪厚生年金病院産婦人科、長崎医療センター、広島市立安佐市民病院産婦人科、斜里町国保病院産婦人科、美幌町立国保病院産婦人科、五島中央病院産婦人科
上記の施設で、以下のプロトコールに従って臨床研究を実施している。
対象:糖尿病と診断されている方、多胎妊娠の方を除く全ての妊婦。
妊娠初期:検査の案内をわたし、インフォームドコンセントを得る。
妊娠10週頃:妊娠初期スクリーニング検査
随時血糖測定・食後血糖測定・空腹時血糖測定・GCT(50g糖負荷試験)のいずれかを行う。
原則として2週後:診断試験としての75gOGTT(75g経口糖負荷試験)を行う。
日本産科婦人科学会および日本糖尿病学会が定める診断基準に従って、負荷前値100mg/dl以上、負荷1時間値180mg/dl以上、負荷2時間値150mg/dl以上のいずれか2点以上をみたす場合を妊娠糖尿病と診断する。
妊娠糖尿病と診断されたものには治療を開始する。
妊娠24-28週:妊娠中期スクリーニング検査
随時血糖測定・食後血糖測定・空腹時血糖測定・GCTのいずれかを行う。
原則として2週後:診断試験としての75gOGTTを行う。
妊娠糖尿病と診断されたものには治療を開始する。
結果と考察
2002年10月現在、妊娠初期にGDMと診断された患者は909名中27名、妊娠中期に新たにGDMと診断された患者は11名であった。GDMのうち71.0%は妊娠初期に診断され、この中には見逃されていたDMと考えられ、早期に治療を開始すべき症例が含まれていた。各スクリ-ニング法の感度・特異度・陽性的中率は以下のようになった。
妊娠初期:随時血糖100mg/dl以上(57.1%・81.1%・29.3%)
空腹時血糖85mg/dl以上(0.0%・30.3%・0.0%)
食後血糖100mg/dl以上(50.0%・87.7%・13.3%)
妊娠中期:随時血糖100mg/dl以上(66.7%・87.6%・10.0%)
空腹時血糖85mg/dl以上(33.3%・78.6%・2.2%)
食後血糖100mg/dl以上(50.0%・81.9%・2.9%)
GCT140mg/dl以上(66.7%・85.5%・7.4%)
今回の集計結果では、GDMは909例中38例(4.2%)であり、そのうち27例(71.0%)は妊娠初期に診断された。欧米では妊娠初期に発見されるGDMは25%程度であるとの報告が散見されるが、我が国においては、妊娠初期に発見される耐糖能異常が多く存在することが示唆された。妊娠初期・妊娠中期ともに各スクリーニング法の感度・特異度には有意差はみられなかった。
結論
我が国では、見逃されていた耐糖能異常が妊娠を機会に発見される場合が少なくなく、妊娠初期に妊娠糖尿病のスクリーニングを実施することが重要であると思われる。今回の中間報告では各スクリーニング法による感度・特異度に有意差はみられなかったが、今後さらに症例数を増やして感度・特異度を算出したうえで、周産期予後に関しても検討し、各スクリーニング法の有用性を比較検討する予定である。

公開日・更新日

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