全出生児を対象とした新生児聴覚スクリーニングの有効な方法及びフォローアップ、家族支援に関する研究

文献情報

文献番号
200200368A
報告書区分
総括
研究課題名
全出生児を対象とした新生児聴覚スクリーニングの有効な方法及びフォローアップ、家族支援に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
三科 潤(東京女子医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 多田 裕(東邦大学医学部)
  • 田中美郷(田中教育研究所)
  • 加我君孝(東京大学)
  • 清川 尚(船橋市立医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
聴覚障害児を早期に発見し早期支援を行うことが、言語発達に効果があることが示されている。聴覚障害児の約半数は他の症状認めず、スクリーニング無しには、これらの児の聴覚障害を早期発見することは不可能である。我々はこれまでの研究において、自動聴性脳幹反応(自動ABR)を用いて行う新生児聴覚スクリーニングが有効であることを示した。また、より簡便で経済性が高い耳音響放射法(OAE)によるスクリーニングも検討したが、自動ABRに比して偽陽性率が高かった。そこで、本年度は両方法を組み合わせた二段階スクリーニングの有効性を検討する。また、スクリーニング後の児の追跡調査、早期療育・支援の体制の調査、早期支援方法、療育の評価方法に関して検討を行う。また、平成13年度から開始された新生児聴覚検査モデル事業の実施状況を調査する。
研究方法
1.新生児期の効果的な聴覚スクリーニング方法の検討として、(1)イアープローブを使用する自動ABRとDPOAEの検討を5施設において実施し、(2)第1段階はOAEを使用し、要再検例に自動ABRを行う二段階方式による新生児聴覚スクリーニングを2病院及び千葉県船橋・鎌ヶ谷地区において実施した。(3)日本産婦人科医会会員を対象にスクリーニングの実施状況の調査を行った。2.新生児聴覚スクリーニングにより発見された聴覚障害例の追跡調査を行った。スクリーニングの感度を求める目的で、1歳6か月及び3再に到達した被検児を対象に、聴覚、言語、認知の発達に関する調査を郵送法により行い、偽陰性例の有無を検討した。また、フォローアップの重要性から、1歳6か月健診時の聴覚健診実施について検討した。3.聴覚障害児の早期支援に関する研究として、(1)早期支援体制を検討するために難聴幼児通園施設と聾学校幼稚部の調査を行った。(2)ホームトレーニング実施児の言語獲得の時期を検討し、早期支援について検討した。(3)早期支援の有効性を評価するために、聴覚障害児の聴能・言語能力の評価方法の検討を行った。(4)聴覚障害児の言語発達について基礎的な検討を行った。4.難聴児の家族支援検討のために、家族の意見を調査した。5.新生児聴覚検査試行的事業の進行状況の調査を行った。6.新生児聴覚検査事業の実施のために、実施基準検討委員会を結成して新生児聴覚検査実施の手引きを作成し、関係機関へ配布した。
結果と考察
1.新生児期の効果的な聴覚スクリーニング方法の検討として、(1)歪成分耳音響放射(DPOAE)とイアープローブ使用自動ABR一体型スクリーナーを用いたスクリーニングの検討では、DPOAE要再検率3.73%、自動ABRの再検率0.36%で、従来の報告による要再検率とは差がなかった。また、経験が少ない施設は要再検率が高い結果となり、スクリーニング実施に際し、検査に習熟することの重要性が示唆された。(2)正常新生児の出生数が多い医療機関の場合、ローリスク児対象の第一段階としてTEOAEを使用し、要再検例には自動ABRを用いる二段階聴覚スクリーニングは、短時間で検査が可能であり、速やかに要再検児の再検を行え、検査費用も少なく、最終的な要再検率を低くできる有効な方法と考えられた。地域での二段階聴覚スクリーニングを船橋・鎌ヶ谷地区の13産科医療機関で実施した結果、連携も良好で、地域での運用が可能であった。今後、広範囲に普及を図る上で有用であると考えられた。一方、OAEをスクリーニングに用いた場合には、Auditory Neuropathyを見逃す危険がある。今後病態の解明と共に、ローリスク児からの発症頻度の検討が必要であり、また、スクリー
ニング後も乳幼児期を通じて聴覚障害発見のための体制・方法の検討が必要と考える。(3)日本産婦人科医会の調査では、産科施設の26%で聴覚スクリーニング検査を実施しているが、実施している施設の月平均出生児数は65.4名であり、年間分娩数が800に近い施設でスクリーニングが実施されていた。
2.新生児聴覚スクリーニングにより発見された聴覚障害例の追跡調査を行った。精査により診断された両側聴覚障害例は最重度難聴(>91dB)4例、重度難聴(71-90dB)11例、中等度難聴(41-70dB)13例であったが、両側聴覚障害例中、9例はローリスク児であり、その内3例は最重度難聴であったことは、スクリーニングの重要性を示すものである。合併症がない場合の補聴器装用は4~6か月と早期になっており、スクリーニングの効果が示されていた。1歳6か月および3歳時の追跡調査により、スクリーニングの偽陰性例は認めなかった。しかし、2例の進行性難聴例が発見され、スクリーニング後のフォローアップの重要性が示唆された。
3.早期支援に関する研究として、(1)療育・指導体制の整備状況、早期支援の状況等を調査するために、難聴通園施設および聾学校幼稚部における早期指導の現状に関する調査を行った。難聴幼児通園施設25施設中21施設(84%)、聾学校幼稚部98校中92校(94%)の回答を得た。この結果、0歳児の指導数は平成11年度調査時より25%増加しており、スクリーニングにより発見された児が0歳児の38%、1歳児の13.3%を占めていた。スクリーニングで発見された児の補聴器装用は約6か月で、従来に比して著明に早期になっていた。スクリーニングが実施された場合、難聴通園の60%、聾学校の33%は担当地域内の受け入れは可能としている。乳児初期の指導は、母子・父子関係の確立が支援の中心になり、医療・福祉・教育が一体となった支援が必要とされる。地域による特殊性を考慮しつつ、長期的な視野のもとで、全国的な早期支援体制を速やかに作成する必要がある。(2)ホームトレーニング(HT)実施児の言語獲得時期を検討したところ、2歳前にHTに参加した30例では22例(約73%)は2歳1カ月までに言語獲得が始まり、その時期はHTに参加した月例に関係なく1歳9カ月から2歳1カ月の間に集中していた。一方言語獲得が2歳2カ月以後になった8例についてみると、多くは難聴が重く、しかも言語指導が聴覚口話に限定していた。これらの例は手話や指文字を導入したところ1週間前後で言語獲得が始まった。聴覚障害児の言語発達は、言語指導法および指導者の力量が大きく関係するが、これに携わる良質の人材が絶対的に不足している。質の高い人材の養成が急務である。
(3)早期支援の有効性を評価するために、聴覚障害児の聴能・言語能力の評価方法の検討を行った。各種発達検査表等を参考に乳幼児発達評価表案を作成し、新生児聴覚検査事業によって発見された難聴児を対象に聴覚、言語、認知の発達を定期的に聴性反応、言語理解、言語表出について言語聴覚士が保護者への問診で確認し評価した。また、両親も評価に加われる方法として、評価は個々の発達の目安となるもの、プラス評価や効果が両親にとってもわかりやすいものであることが望ましい。補聴開始を基点とする初期段階の評価を、・補聴・聴覚反応 ・母子関係 ・コミュニケーションの素地 ・ものごとに関わる力 ・遊び・生活習慣 の5つの観点で、具体的な観察項目を設けた。保育と家庭の養育場面での観察評価を行なう。今後更に検討し、全国共通に使用できる標準的な評価法を作成したい。(4)標準的喃語、指さし行動と有意味語は、難聴児では出現頻度が低く、出現月齢が著しく遅れた。音声の音響分析では、難聴児の発声はイントネーションが乏しく、唇音化と鼻音化の傾向があることが特徴であった。健聴児との音声の発達の差は標準的喃語の時期から出現することが示された。難聴児の早期聴能教育にあたっては、喃語の種類とその出現年齢についての正しい認識が必要である。
4.保護者の要望として、早期発見・スクリーニングの重要性、小児難聴の診断機関の増設、療育・指導機関の拡充・増設が挙げられている。また、聴覚コーディネーター、就学以降もフォローアップを行う機関も求められている。また、家族全体への支援が必要であり、多胎児の場合や幼い兄弟がいる場合、兄弟が病気の時、有職の母など、家族の負担を軽減のために在宅指導の推進を含め、各家庭のニーズに応じた支援が必要である。
5. 平成13年度には岡山県、秋田県、神奈川県、栃木県で新生児聴覚検査モデル事業が開始され、平成14年度には北海道、埼玉県、東京都(豊島区、立川市)、佐賀県で開始された。岡山県、秋田県では全県対象であるが、スクリーニング機関、診断機関、療育機関の連携も良くとれ、行政も広報、研修会の開催など熱心に推進しており、現在まで非常にうまく実施されている。岡山県は現在出生の75%がスクリーニングされているが、範囲の拡大が今後の課題とされる。
結論
新生児聴覚スクリーニングの方法に関して、ローリスク児に対しては、OAEと自動ABRを使用する二段階スクリーニングが有用と考えられた。また、成育過程での聴覚障害発生も早期に捉えるためには、乳幼児期を通しての聴覚健診体制を作ることも必要である。スクリーニングにより発見された例が療育・指導機関でも増加している。早期支援に携わる有能な人材養成が急務である。また、家族支援の面から、在宅指導など家族の負担が少ない指導形態が求められる。平成13年度に開始された新生児聴覚検査モデル事業は現在8都道県で実施されているが、今後更に拡大することが必要である。

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