川崎病の発生実態及び長期予後に関する疫学的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200367A
報告書区分
総括
研究課題名
川崎病の発生実態及び長期予後に関する疫学的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
柳川 洋(埼玉県立大学)
研究分担者(所属機関)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 薗部友良(日本赤十字社医療センター)
  • 上村茂(和歌山県立医科大学)
  • 石井正浩(久留米大学)
  • 鮎沢衛(日本大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
川崎病患者は、毎年約6,000人発生しており、年間の患者発生数および罹患率は増加傾向を示しているので、今後も継続的に患者発生の実態に関する情報収集を続けることにより、疫学像の変化を注意深く監視する必要がある。本疾患は全身性の血管炎であり、長期間の経過観察が必要であり、以下の研究を実施した。
(1)川崎病全国調査の実施及びデータベース構築、(2)川崎病患者追跡調査と親子例の追加調査、(3)川崎病不全例の冠動脈障害発生頻度の解析、(4)生後60日以内に発症した川崎病患者の追跡調査成績、(5)川崎病心後遺症の危険因子に関する研究、(6)川崎病死亡例の疫学特性、(7)川崎病ガンマグロブリン治療と冠動脈障害発生との関係、(8)川崎病ガンマグロブリン治療における早期投与患者の背景分析
研究方法
1.川崎病全国調査の実施及びデータベース構築:2001年、2002年の2年間に発生した患者を対象に、第17回目の全国調査を実施し、新たに報告される患者も加えてデータベースを更新する予定である。2.川崎病患者追跡調査と親子例の追加調査計画:全国の医療施設のうち、協力が得られた52病院から報告された川崎病患者6,576人を追跡しているが、今回2001年末までの生死及び死亡原因を確認した。親子例については、第17回全国調査においても、両親の川崎病既往歴の情報を得る。3.川崎病不全例の冠動脈障害発生頻度の解析:川崎病不全例の頻度を急性期及び後遺症期(発病後1か月以降)について観察する。4.生後60日以内に発症した川崎病患者の追跡:最近4年間に報告された該当患者126人の追跡調査を行う。5.川崎病心後遺症の危険因子に関する研究:危険因子といわれる状況(年長例、低Na値、治療遅延例)の臨床像および心後遺症について解析する。6.川崎病死亡例の疫学特性:川崎病死亡例の性、年齢、ガンマグロブリン治療、、合併症、心後遺症などの疫学特性を明らかにする。7.川崎病ガンマグロブリン治療と冠動脈障害との関係:ガンマグロブリンの投与状況と心障害の発生頻度を観察する。
結果と考察
1.川崎病全国調査の実施及びデータベース構築:1970年以来2000年末までの30年間の患者169,117人のデータベースを作成したが、今回2001年、2002年の2年間に発生した患者を対象に、第17回目の全国調査を実施した。新たに報告される患者も加えて、データベースを更新する予定である。2.川崎病患者追跡調査と親子例の追加調査:今回2001年末まで追跡した。2000年及び2001年の2年間で新たに2例の死亡が確認された。死亡原因は脳出血と2輪車による交通事故であった。親子例の追加調査については、現在実施中の全国調査で症例が確認されたら、その都度、追加調査票を発送し、生年月日、発病年(月)、発病時住所、受診施設名、発病時年齢などを調査している。3.川崎病不全例の冠動脈障害発生頻度の解析:川崎病不全例(主要症状6項目のうち、4項目以下の症状ありの者)を対象に追加調査票を送付し、冠動脈障害の出現状況を急性期及び後遺症期(発病後1か月以降)について観察した結果、急性期では確実例で21%、不全型で28%、後遺症期では確実例で5%、不全型で8%であり、いずれも不全型に冠動脈障害出現の頻度が高かった。4.生後60日以内に発症した川崎病患者の追跡調査成績け生後60日以内の患者の臨床所見を調査した結果、主要症状4以下の患者は37%と高かった。発熱期間は4日以下の例が27%と多く、急性期の四肢末端の変化及びリンパ節腫脹の頻度は低く、消化器症状、尿沈渣の白血球増多、髄液の単核球増加、神経症状などの頻度が高かった。5.川崎病心後遺症の危険因子に関する研究:年長例ではガンマグロブリン投与の割合は低く、初診時病日及び投与開始時は遅かった。また、投与量も少なかった。一方心後遺症の合併率は高かった。Na値の分布をみた結果、初診時Na値が低い患者は男、年長例で多かった。また、低Na血症の患者では心後遺症の頻度が高かった。ガンマグロブリン投与が遅れた患者では、定型例が少なく、年長例の割合が多く、心後遺症を残す例が多かった。6.川崎病死亡例の疫学特性:川崎病死亡例の疫学特性を観察した結果、ガンマグロブリン投与者のうち44%は追加投与を受け、死因の48%が心合併症であり、19%が心筋梗塞であった。心臓以外の合併症では、急性脳症、SIDS、多臓器不全、溺水、白血病などがみられた。7.ガンマグロブリン投与量、投与病日と冠動脈障害発生との関係:ガンマグロブリンの低投与量群では心障害発生頻度は高かった。また、早期投与群と遅延投与群でも高かった。
結論
1.今
回第17回川崎病全国調査を実施した。すでに1970年以来16回にわたる調査で把握している169,117人に新しく2年間の患者情報を加えることになる。このデータベースを用いて、疫学像の再解析、長期予後の追跡がてきる。
2.川崎病既往者の追跡調査で合計29例の死亡を明らかにした。第17回川崎病全国調査に合わせて実施する親子例調査について、方法を検討した。
3.この調査でも広義不全型例(4主要症状以下例)の方が確実A例よりも冠動脈障害の頻度が高かった。臨床的には4主要症状以下でも確実A例と同様な検査・治療が必要であることが再確認された。
4.生後60日以内に発症した川崎病患者の特徴として、主要症状は出揃いにくく,特にリンパ節腫脹の頻度は極めて低いかった。一方、主要症状以外の症状(消化器症状・尿所見陽性・神経症状など)の出現が多く,川崎病の診断が困難である例が多いと考えられた。
5.年長例で心後遺症の頻度が高い要因として、ガンマグロブリン使用頻度、量が多く、治療開始時期が遅いことが考えられた。
6.初診時の血中Na濃度が低い患者では、心後遺症の頻度が高く、Na値は心後遺症の予測因子となりうると考えた。
7.ガンマグロブリン治療が遅れた患者では、定型例が少なく、6歳以上の年長例の割合が多く、心後遺症を残す例が多かった。
8.川崎病致命率は激減し、心筋梗塞が死因になる危険も減少した。最近の観察から、急性脳症、SIDS、多臓器不全などの死亡原因の頻度が高く、川崎病との関連について観察する必要性が示唆される。
9.心障害の発生頻度、死亡率の減少にはガンマグロブリン大量投与を受けた者の増加と低量投与を受けた者の減少が大きく寄与していて、初回投与量は1,000-2,000mg/kgの投与が望ましいと考えられた。
10.早期投与群で冠動脈障害が多い理由として、この群に0-5か月発症の男の患者が多く含まれていることがあげられた。

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