地域における子育て支援システムの構築と普及に関する研究

文献情報

文献番号
200200360A
報告書区分
総括
研究課題名
地域における子育て支援システムの構築と普及に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山口 規容子(恩賜財団母子愛育会 総合母子保健センター愛育病院 名誉院長)
研究分担者(所属機関)
  • 前川喜平(日本小児保健協会)
  • 伊藤雅治(全国保健センター連合会)
  • 松永敏子(全国保健師長会)
  • 三宅亨(全国児童相談所長会)
  • 加藤曜子(児童虐待防止協会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
子どもの心の問題・母親の育児不安・子どもへの虐待等は、いずれも20世紀終盤に顕在化し、21世紀に更に深刻化することが予想される問題で、子どもの心の発達は親の養育態度と関係し、虐待は親の育児不安と関係しているなど、互いに関連性がある。
健やか親子21の第4課題のテーマは、「子どもの心の安らかな発達と育児不安の軽減」であり、これを達成するために種々の方策を検討し、具体的な育児支援システムを構築し、課題の遂行に取り組む。
研究方法
研究は次の4段階で行われる。①モデル地区の設定:この課題に関心があり、既に育児支援のための活動を活発に行っている地区をモデルとして設定し、普及活動の拠点とする。②モデル地区の普及と育児支援・虐待防止システムの構築および充実:各々のモデル地区の地域的特徴およびシステムを分析検討し、班員の協力を得て、その地域の実情に合った育児支援・虐待防止システムを構築し、全国各地に普及し、実際に活動する。さらにモデル地区のシステムの充実を計り、評価を行う。③プレネイタルビジットによる周産期情報の活用、および地域の育児支援ボランティア団体の活性化を積極的に行う。④第4課題、到達目標の達成度について調査を行う。
研究結果=①育児支援モデル地区の設定:全国で活発に育児支援活動を行っている地区について、研究班内で十分調査を行い、検討し、次の5市町村(埼玉県吉川市・江南町・玉川村、山梨県六郷町、兵庫県山南町)を当該年度のモデル地区として設定した。これら3県は、長年の育児支援地域活動に実績があり、行政担当者と密接に連携し、周囲の市町村の模範となるような評価を受けている。
②育児支援モデル・地域ネットワークにおける軽度育児不安から養育機能不全に対する対応モデルの収集。
a.住民参加型支援モデル
1.隣近所が分かる郡部タイプ-母子愛育班活動-
住民参加型子育て支援の1つである母子愛育班活動。モデル地区に選定した兵庫県山南町は昭和32年、乳児死亡が多く母子保健について町民の関心が高かった時代背景を受け、柏原保健所(当時)の協力の下、婦人会の協力を得て幼稚園入園までの乳幼児を持つ母親を中心に、兵庫県下で最初に愛育会が発足した。
現在は、「こんにちは 笑顔でつなぐ 愛育の輪 ~一人で悩まないでね 地域の見守り はげみの力~」をスローガンに、乳幼児から小学生の児童を持つ家庭を中心にひとり暮らしの高齢者や高齢者夫婦家庭へも輪を広げ、地域に根ざした声かけ活動を行っている。子育て中の母親が会員となり、活動していることが大きな特徴である。
地域とのパイプ役でもある保健師からの大きな支援があり、健康で暮らしやすい地域づくりをするために、自分達の声を形にするために愛育会という「組織」を活かしている。
愛育班活動は各都道府県に支部を置き、母子愛育会を本部として子育て支援ボランティア活動を各地で展開している。
2.隣近所がわからない都市タイプ-子育てコミュニティスペース-
子育てコミュニティスペースを活用したボランティア活動で、子育ち・親育ち・関係育ちの手助けを行うひだまりの会は、住民参加型の子育て支援の好例である。平成10年に活動を始めた子育て支援のNPOで、主な活動は「ひだまりサロン」の運営、各地域でスペースを立ち上げる支援を行っている。会員はボランティアスタッフ25名(利用者は非会員)。
特徴は、①非会員制度・②いつでも気軽に利用できる・③ノンプログラムがプログラムで、参加のハードルが低いことが挙げられる。当初、子育てから手が離れた人で活動を始めたが、2年を過ぎたころから、サロンを利用した親たちが「自分の地域でもぜひ開きたい」と会の運営に携わり、各地域に広がっていった。
誰もが孤立しがちな環境の中で、「子どものしつけの仕方がわからない」という状況が一般化している。しかし商業ベースの育児情報が氾濫し、子どもを健やかに育てるための情報は手に入りにくい。サロンでは生きた多様な情報とともに、食事・睡眠・遊びの重要性をファイルという形で提供し、子どもを健やかに育てるために必要な情報を得られる。子どもが変わると親も元気になり、子どもへの関わり方も変わる。育児に子どもの発達に悪影響を与える可能性があるものが持ち込まれやすいという現況の中、親子が自由に集い、仲間と情報を得られる場の広がった。
3.保健センターを拠点とする連携活動-絵本と出会う・親子ふれあい事業-
絵本を通じ、親子のふれあいを育む「絵本と出会う・親子ふれあい事業」。この事業は子どもの心のやすらかな発達の促進と育児不安の軽減、親子ふれあいの推進や地域育児ネットワークづくりが目的である。
この事業を先駆的に行ってきた福島市の母子保健施策の基本理念は、「親子が健康で生き生きと生活できるまち」で、医療・福祉・教育との連携を図りつつ、子育て・子育ち支援の推進に力を入れて取り組んでいる。
平成4年度に図書室担当者と保健師とが共同で、「赤ちゃんから絵本のある子育て」をめざしたコーナーを10ヵ月健診に企画。問診の待ち時間を利用し、絵本の紹介・絵本の読み聞かせ・手遊びを実施。一時中断したが、平成11年度に市立図書館と共同で4ヵ月児健康診査にて再開をした。その後、平成13年度に「絵本と出会う・親子ふれあいモデル事業」のモデル指定を受け、「福島子どもの絵本を広める会」の協力の下、実施。平成14年度には健やかな発育・発達の支援「育児不安軽減対策事業」の一環として事業を継続中である。保護者からも好意的な声が聞かれ、図書館・公民館等、親子で出かけられる場所が広がった。これからの課題としては他の事業の中に取り入れ、一貫した取り組みとしての展開等を視野に入れている。
モデル事業指定は、本事業を推進している全国保健センター連合会に設置された同事業推進委員会により全国92カ所が実施。モデル事業実施にあたっては、関連機関・住民組織活動との連絡会の設置を条件とし、子育てネットワークづくりを図っている。また、モデル事業の成果をフォーラム・事例報告等で広報して全国での実施を進めている。
b.周産期からのハイリスク家庭の発見を支援
1.医療機関からスタートする連携-周産期センター新生児部門の試み-
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センターは、母体胎児部門と新生児部門からなり、母体および新生児の救急患者を24時間体制で受け入れを行っている。
昨今、未婚や妊婦健診未受診での出産、経済的問題を有する症例等が多く、退院後も注意深いフォローが必要となった。そこで出産後の母親だけでなく、家族を含めた面談を実施し、必要な症例では小児科医から保健所への連絡を取り、入院中に保健師に来院してもらうなどの母児支援を開始した。また症例連絡票を活用し、問題点を記入した上で、看護師の協力のもと、担当医に提出することとした。
提出された症例連絡票には未婚や妊婦健診未受診等の症例が多く、ほぼ全例に対して母親の入院中に面談を行った。地域保健師の協力を得ながら、必要に応じて父親や祖母との面談や保健所への連絡し、新生児訪問を依頼した。保健所からは次第に訪問の報告が送られるようになり、なかには乳児健診の予約日に合わせて頻繁に情報を送ってくれる保健師もいた。そのため、小児科医は家庭での様子を知った上で乳児健診をすることができた。
また、精神疾患を有する母親が次第に増加しており、精神科の医師の協力を得るようになった。さらにケースワーカーが設置されており、臨床心理士も設置される予定である。それぞれの症例の問題に合った連携や対応が必要であり、その中で児の発育発達の観察や母親の病状に即した母児支援を行うという点で小児科医の役割は重要である。
2.ハイリスク予防・対応システム-児童虐待防止ネットワーク-
大阪府泉大津市では、周辺都市で悲惨な児童虐待ケースが急増していることを危惧した市内の児童養護施設長からの提案や若い世代の流入、核家族化などにより、育児上の問題が保育所、幼稚園、小学校で発生し、その現場から関係機関の連携の必要性を唱える声に応えるかたちで、児童虐待防止ネットワーク(愛称:CAPIO)を設立した。
特徴としては、保健・福祉・教育等の13機関でのネットワークである。会議については、管理職で構成する代表者会議とケースワーカー等で構成する実務者会議という2段階で実施。
敏速な対応や多面的・組織的な対処が功を奏し、虐待の早期発見や把握率については全国の数倍という効果を生んでいる。また、児童相談所と連携強化により専門的な判断、助言により各機関が安心感を持って対応できるという長所も兼ね備えている。さらに対処療法的対応から予防的対応へという観点から、CAPIOを利用したハイリスク予防・対応システムが構築されている。
今後の課題としては、虐待した親や保護者への継続的な援助・カウンセリングや夜間・休祭日の援助体制の整備、民間機関や地域住民との連携、個人情報の保護等を挙げている。
結果と考察
子どもの心の問題、育児不安、子どもの虐待に関する問題は、今後ますます深刻化することが予想される。これらの問題は親の養育態度、子どもの養育環境と密接に関連し、各々の問題を切り離して考えることはできない。したがって「健やか親子21」の第4課題のテーマである「子どもの心の安らかな発達」「育児不安の軽減」の目標を達成するためには一つ一つの課題に対応するよりも、地域社会全体の子育て機能を改善する方がはるかに効率的である。
そこで、すでに子育て支援を実践活動している市町村からモデル地区を設定し、その活動内容を分析検討、評価することからスタートした。当該年度の5市町村のほか、今後この数を増やし、全都道府県の60%以上に設定の予定。その育児支援モデルにおける地域ネットワーク構築の取り組み方を分析すると、地域の特殊性、育児支援の必要度を考慮したさまざまな方法があることが明らかになった。
また、軽度育児不安から養育機能不全まで特徴のある育児支援モデルが存在し、それぞれ実績をあげていることが判明した。すなわち大きく分けると、住民参加型支援モデルとハイリスク家庭の発見および支援モデルであった。前者は、さらに隣近所のよくわかる郡部タイプと隣近所のわからない都市タイプに2大別され、行政に期待される役割も従来とは違った支援が求められている。後者は周産期センターからの取り組みと、地方都市の行政を中心とした虐待防止ネットワークによる取り組みの実績が報告され、多くの機関・団体の連携が実効を上げている。
養育環境を改善するためには、育児支援システムの充実・普及が目下の急務である。育児支援システムは、地域の特殊性・育児支援の必要度・年齢を考慮したさまざまな構築方法が必要であり、それらの具体例を収集した。今後もモデルとなる支援システムの収集に努めるとともに、そのシステム構築と活動についてのデータベースの作成により、各システムの特徴の入力、分析、子育て支援ネットワークの関係者によるシステム構築の条件の検討等が、今後推進すべき重要な課題である。
さらに、支援システムの構築と活動に実際に関わるキーパーソンを交えた検討会にて現場の声を聞き、それをもとにした地域に適した支援システムの構築のためのガイドブック及び養育機能不全家庭の早期発見システムの構築に関するガイドブックの作成を進め、ノウハウの普及を図る必要がある。また、マネージメントリーダー養成も課題となるであろう。
結論

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-