保育所と幼稚園の合同保育に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200358A
報告書区分
総括
研究課題名
保育所と幼稚園の合同保育に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
金子 恵美(日本社会事業大学)
研究分担者(所属機関)
  • 石井哲夫(社会福祉法人嬉泉・白梅学園短期大学)
  • 森上史朗(子どもと保育総合研究所)
  • 増田まゆみ(小田原女子短期大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
8,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、保育所と幼稚園の様々な形で実施されている合同保育の内容・方法について、“子どもの最善の利益を守る"という視点から検討し、その質的向上を図ることを目的とする。
研究方法
①合同保育実施園を継続的に訪問、観察、検討を行い、合同保育のマニュアルを作成する。
(スタイルの異なる合同保育実施園(2園)を選択し、保育園児と幼稚園児との合同保育の状況について観察及びビデオ撮影とを継続的に行い、これをもとにして保育者とともに保育内容・方法等について検討する。また、その際に保育者・保護者の意見をアンケート調査等により把握し、合同保育に際して配慮すべき点をマニュアルとしてまとめる。)
②事例集の作成
合同保育実施園の事例を収集する。
③研修方法の提言
合同保育実施園においてビデオを撮影し、合同保育に関する研修のためのビデオとそのテキストとを作成する。
結果と考察
合同保育を実施する際に、検討し、充分に配慮すべき事項として、次の諸点を挙げる。
1.合同保育を実施する際の基本的な考え方や実施体制
合同保育の実施にあたっては、自治体がビジョンを持ち、取り組むことが重要である。下記のような理念・目的などの基本的な考え方や実施体制などについて、事前に充分な検討が必要である。さらに、合同保育実施園は評価の指標を持ち、特に“子どもの最善の利益を守る"という視点から保育の自己点検を行い、質の向上を図ることが求められる。
①理念と目的
②財政面の検討
③利用者の経費負担(保育料、給食費、教材費等)
④建物と環境(教材・備品を含む)、
⑤合同保育のスタイル
⑥保育時間等(夏期休暇等を含む)
⑦クラス編成(年齢・集団規模・保育園児と幼稚園児の割合など)
⑧保育者の配置・勤務体制等
⑨食事・おやつ等(給食・お弁当等)
⑩子どもの服装・持物・教材等
⑪評価と質の向上
2.合同保育の目標・内容・方法・環境など
保育園児と幼稚園児は共通のニーズと異なるニーズとを併せ持つが、これまでの合同保育についての検討では、ややもすると共通点のみが強調される傾向がみられた。共通基盤の上に立ちながらも、個別のニーズに対応できる柔軟性ときめ細やかさを持たねば、結果として子どもに負担がかかることとなる。具体的には下記の事柄について充分な検討が望まれる。
①保育計画・教育課程等、年間計画(行事等)の検討
②ディリープログラム等一日を通した生活のデザイン
③環境の構成
④合同保育の保育内容(自発的・主体的な活動、選択の機会、子どもの自己発揮、多様な活動の機会、創造性・発展性・継続性・柔軟性など)
⑤早朝保育・延長保育の充実、
⑥養護の重視(豊かな生活体験、生活リズムの違いへの配慮、情緒安定への配慮)
⑦保育園児と幼稚園児とを分断しない配慮(保育園児と幼稚園児の呼び方・降園時の配慮など)
⑧子ども同士の関係への援助(自己主張、親密・共感的な関係、思いやり、ルールを守る、協働関係など)
⑨保育者と子どもとの関係(一人一人の子ども理解、受容的・共感的な関係、一人一人の個性・発達の違いへの配慮など)
⑩配慮を必要とする子どもへのきめ細やかな保育、
3.保育士と幼稚園教諭の連携・資質向上
保育士と幼稚園教諭とは、その専門性に共通点を持ちながらも、これまで異なる制度・ニーズ・機能の中で、それぞれの“文化"を醸成してきた。合同保育を行うにあたっては、相互理解を深め、双方の専門性から学びあい、連携を深めることが必要とされる。具体的には下記の事柄等が望まれる。
①相互理解(保育所と幼稚園の子ども・保護者のニーズ、機能・役割、保育の特色・配慮事項等)
②合同保育に関する研修・実習等(保育士の幼稚園での実習・幼稚園教諭の保育所での実習等)
③連携(役割分担・チームワーク等)
④保育計画・教育課程、指導計画等
⑤保育記録
⑥打合わせ・会議
4.子育て(家庭)支援
ニーズの異なる保護者間の相互理解・連携を深めるためには、園による支援が不可欠である。さらに今日、地域・家庭の養育力の低下が進む中で、保育所と幼稚園のそれぞれが行なってきた子育て支援の方法や内容を検討・連携し、異なる個々の家庭のニーズに対応できる専門性が確保されねばならない。
①保育園児と幼稚園児、それぞれの家庭への理解
②個々の家庭のニーズへの対応(家庭養育の補完・支援)
③保護者の園への協力・行事・保育参加等への配慮と工夫
④保護者間の相互理解と連携の支援
⑤地域交流の活性化
⑥子育て支援(育児力の育成等)
5.関係機関・施設等の連携(地域ネットワーク)
地域ニーズを理解すると同時に、地域住民の側にも合同保育への理解を得て、協働してこれを進めていくことが不可欠である。そのためには、実施以前に地域住民との話し合いや、合同保育についての学習会等を持つことが望まれる。さらに、保育所と幼稚園の連携とともに、地域において子どもに係わる機関・施設が緊密な連携をとることが求められる。
結論
合同保育実施園の継続的な訪問・事例検討を通して浮き彫りとなったことは、保育所と幼稚園がこれまで育んできた文化の違いであり、合同保育によってそれぞれの保育や子育て支援について気づきを得たり学びあうことが重要となる。このように、保育所と幼稚園の合同保育を行う場合は、これまでそれぞれが独自に展開してきた保育や子育て支援の内容・方法について、新たに見直しや検討を行うことが不可欠とされる。
本研究からは、主として保育所が幼稚園から学ぶことが多い点として「保育内容の充実」を挙げることができる。逆に主として幼稚園が保育所から学ぶことが多い点として、「豊かな生活体験」「養護的なかかわり(家庭養育の補完)」「個別的なケア」「家庭支援」などが挙げられる。
このようにみてくると、合同保育の検討は、「家庭養育の補完と教育との関係」「豊かな生活体験や情緒安定のための条件」「発達の基盤としての保育者との愛着関係や個別的配慮」など、保育の基本的な課題を改めて問いかけている。

公開日・更新日

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