児童福祉施設における地域支援のあり方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200356A
報告書区分
総括
研究課題名
児童福祉施設における地域支援のあり方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山縣 文治(大阪市立大学大学院生活科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 岩間伸之(大阪市立大学大学院生活科学研究科)
  • 農野寛治(大谷女子大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
養護系児童福祉施設は、入所した児童の自立を支援することを中心に大きな役割を果たしてきたが、今後は、地域福祉の推進を視野に入れ、これまで培ってきた子育てのノウハウやサービスを地域社会に還元し、地域における子育ての拠点施設としての機能の充実を図ることが望まれている。本研究は、養護系児童福祉施設と在宅福祉サービスとの関係について、事業実施主体として期待される市町村との関係を含め、明らかにし、今後の方向を検討するものである。
研究方法
本研究は、児童養護施設、乳児院、母子生活支援支援施設、情緒障害児短期治療施設、児童自立支援施設、児童家庭支援センター全数を対象とした、郵送による養護系児童福祉施設の地域支援活動の実態に関するアンケート調査、全市区町村を対象にした、郵送による市町村における児童福祉施設を活用した地域支援事業の実態に関するアンケート調査、児童福祉施設および市町村の訪問事例調査の、大きく3つのプロジェクトで実施した。
結果と考察
[施設調査の結果] 1.短期入所生活援助事業を実施している施設は半数強にすぎない。また、そのうち半数は、所在地の市町村としか契約を結んでいない。短期入所生活援助事業が進んでいない理由としては、市町村行政が十分理解していない、市の財政問題、ニーズが少ない、虐待ケースで受け入れる余裕がない、母子生活支援施設ではDVケースが増え、一般の利用を控えざるを得ない、などがあげられている。2.児童夜間養護事業を実施している施設は4分の1にすぎない。そのうち半数以上は、所在地の市町村としか契約を結んでいない。児童夜間養護事業が進んでいない理由としては、前項の短期入所生活援助事業と同じものが少なくとも指摘されているが、それに加え、保護者による送迎が困難、放課後児童健全育成事業や夜間保育所がかなりカバーしている、夕方以降毎日迎えにくる状況は他の子に精神的負担が大きい、などの指摘がある。3.児童養護施設・乳児院・情緒障害児短期治療施設・児童自立支援施設の入所手続きについては、児童相談所のままでよいという施設が51.1%とほぼ半数である。児童家庭支援センターの設置については、すべての市区町村まで拡大が3割、すべての市まで拡大が3割弱である。今後のサービスのあり方については、現在のままでよいというものが4割を超えるが、見直しがあってもよいというものもほぼ同数ある。見直しの方向として最も多いのは措置在宅とも市区町村というすべて市区町村で統一するというものである。[自治体調査の結果] 1.短期入所生活援助事業を実施しているという市町村は6分の1にすぎない。契約が結ばれている施設種では、児童養護施設83.5%、乳児院38.8%、母子生活支援施設17.9%であり、施設数の絶対値からみると、乳児院との契約率が高く、母子生活支援施設との契約率が低い。また、所在地外の施設との契約は少ない。2.児童夜間養護事業を実施しているという市町村は1割にもみたない。契約が結ばれている施設種では、児童養護施設85.0%、乳児院19.0%、母子生活支援施設12.2%であり、児童養護施設が圧倒的に多い。また、所在地外の施設との契約は少ない。3.児童養護施設・乳児院・情緒障害児短期治療施設・児童自立支援施設の入所手続きについては、児童相談所のままでよいという市町村が6割を超える。施設調査の結果と比べると、市町村には、やや現状維持という考え方が強い。児童家庭支援センターの設置については、都道府県・指定都市のままというものが4割台半ば最も多い。児童家庭支援センターに対する考え方については、施設
と市町村との間に、大きな違いがみられる。4.今後のサービスのあり方については、現在のままでよいというものが5割弱で、見直しがあってもよいというものもほぼ同数ある。見直しの方向として最も多いのは新たに福祉事務所で統一という、実質的には、市と県で行うという考え方である。施設調査との関係では、現在のままでよいという回答についてはあまり大きな差がないが、見直しの方向としては、施設の場合、全て市区町村化という考え方が多いが、市町村の場合、市と県型が多いという違いがみられる。[事例調査の結果] 1.短期入所生活援助事業による利用を受け入れることで、子どもの混乱を避けるために、ショートステイ専用施設や専用空間を設けるという工夫がみられる。空間的、人的余裕が必要であるが、入所児童の混乱を避けるためには有効な対応方法と考えられる。2.児童家庭支援センターが設置されている場合、市町村との関係や地域住民との関係が強くなりやすい。児童虐待防止ネットワーク事業も、促進される傾向がある。したがって、施設、行政ともに、児童家庭支援センターは少なくとも市レベルまでは拡大してもいいのではないかと考えている場合が多い。3.短期入所生活援助事業や夜間養護事業の契約していない市町村からの利用申し込みがあった場合、受け入れようとすると一時保護委託か自主事業となり、財政的に負担が大きくなる。契約されていないことを理由に断ると、利用者が不利益を被るし、施設にとっても評価が下がる。ニーズの少ない(と考えている)市町村では事業実施が少なく、この事業を少なくとも町村まで拡大するのは困難ではないかと、行政、施設ともに考えている。4.虐待を受けた子どもの入所が多くなり定員枠の余裕がなくなっていたり、ケアが困難になっているなかで、在宅型の児童福祉サービスの実施は困難となりつつある。また、DVケースや児童福祉法28条に基づく入所ケースなど、入所児童のプライバシーを保護する必要があるケースが増えており、これも在宅型の児童福祉サービスの実施を困難にさせる要因となっている。5.行政、施設ともに町村まで措置権を委譲するのは困難ではないかと考えている。財政的な問題、専門性の問題などがその理由で、自治体間格差が拡大するはよくないと考えているものが多い。
結論
1.対象施設が市町村内にあるかないかが、子育て支援短期利用事業の実施率に影響している。事業実施率をあげるためには、一様な指導ではなく、市町村の実情に合わせた具体的な推進方法を示すことが望ましい。また、施設に対しても、周辺市町村に対しても、契約の働きかけを積極的に推進するような啓発が求められる。2.子育て支援短期利用事業に関する契約が市町村と施設の間に結ばれていない場合、利用者が我慢する、一時保護委託で利用する、施設が全面負担するという3つの選択肢になる。もともと一時保護委託費は低いと言われており、契約促進の意味も含め、一時保護委託費の改善が望まれる。3.子育て支援短期利用事業による利用児童と、措置におる入所児童の共同生活については、家庭イメージの構築や退所に向けてのプロセスの認識などのプラス面もあるが、多くは心身の負担が大きいと指摘されている。実践レベルでも別空間の工夫などがある。本事業の法定化もあり、老人福祉法による老人短期入所施設に準ずるような専用施設の設置も含め、制度的にもショートステイ専用棟や専用空間の確保への支援が考えられる。4.児童家庭支援センターの設置が事業実施率や事業効果に影響しており、児童家庭支援センターの拡充方法を検討する必要がある。また、児童家庭支援センターについては、その有効性もあり、設置を福祉事務所設置レベルまで委譲することを早急に検討する必要がある。

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