非行・ひきこもり等の児童問題対策に関する研究

文献情報

文献番号
200200355A
報告書区分
総括
研究課題名
非行・ひきこもり等の児童問題対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
菅原 ますみ(お茶の水女子大学文教育学部)
研究分担者(所属機関)
  • 本城秀次(名古屋大学発達心理精神科学教育研究センター)
  • 石浦章一(東京大学大学院総合文化研究科)
  • 猪子香代(東京都精神医学研究所)
  • 菅原健介(聖心女子大学文学部)
  • 木島伸彦(慶應義塾大学商学部)
  • 酒井厚(山梨大学教育人間科学部)
  • 金子一史(名古屋大学発達心理精神科学教育研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、児童・思春期の子どもの問題行動および精神疾患の発現に関して、生物学的要因と社会文化的要因の両者を包括した病態の発達精神病理学的な解明と、これらを予防していくために有効な家庭や学校での環境設定のあり方に関する新たな知見を得ることを目的としている。2年計画として、1年目には基礎的研究を実施し、2年目は1年目の基礎的研究から得られた知見をもとにした施策立案のための調査を企画している。1年目である平成14年度には、発達心理学・児童精神医学・行動遺伝学・社会心理学・性格心理学・臨床心理学という関連諸領域の主任および分担研究者が、長期縦断サンプル(対象児童を妊娠中より中学生期までの長期縦断サンプル、N=300)を含む2種類のサンプル集団(臨床サンプル、N=615及び大規模双生児サンプル、N=2,135組)を共有し、多側面からの解析・検討をおこなった。
子どもたちの様々な不適応的な行動(非行・ひきこもり、各種の精神疾患、自殺、不登校、いじめなど)の出現に、親子関係を中心とした家庭要因や、学校適応の問題、さらに子ども自身の持つ行動特徴など、様々な要因が複雑なメカニズムによって関与していることは既に様々な先行研究から指摘されてきている。しかし、従来の研究デザインは、そのほとんどが臨床例検討型(不適応行動の出現を見たケースについてのみ検討する)であったり、統制群を設定しても横断研究や遡及的な資料収集であることが多く、危険因子や防御因子や因果関係の同定を含めたメカニズムの解明が困難であった。これらの問題を克服するためには、こうした従来型のアプローチに加えて、発達科学的手法を用いたプロスペクティブ(前方向視的)な検討が必要不可欠であると考えられる。そこで、本研究では1990年代以降欧米を中心に発達心理学の領域に芽生えてきた発達精神病理学的アプローチ(developmental psychopathology)による実証的な検討をおこなうことにした。
発達精神病理学の領域では、非臨床サンプルを縦断的に追跡するという研究デザインの中で、諸変数の因果関係同定を可能にする方法論や統計的手法が開発されつつある。本研究ではこうした方法論に準拠して、臨床例の追跡による深い分析とともに比較的大きな一般人口中の児童サンプルでの縦断的検討を同時に試み、それらを統合的に解析することを第一の目的としている。非行」や引きこもりなどの児童の発達に重篤な影響を及ぼし得る不適応行動を予防していくためには、リスク要因を抱えつつも適応に成功した一般人口中のケース・パターンを分析し、不適応の発現を抑制する防御因子(protective factors)の同定や、悲劇的な結実を回避するための防御過程(protective process)を知ることが有効であると考えられる。本研究では、こうした観点から得られた結果をもとに、家庭や学校・地域において子どもの発達段階に沿ってどのような環境設定や配慮が必要かエビデンス・ベースドな提案をおこなっていく予定である。
研究方法
上記目的を遂行するために、以下の4つの方法を用いて研究を展開した:①学際研究に使用可能な子どもの不適応行動に関する評価尺度を開発・検討するために、名古屋大学付属病院児童精神科を受診する子どもとその親(6~15歳、面接群84名、アンケート群615名)を対象に、広範囲な精神医学的・心理学的測定尺度の有効性についての検討をおこなった。従来の臨床診断とともに研究用の構造化面接尺度や機能障害尺度を開発・実施し、主症状とともに網羅的な並存症状および対象児の社会適応評価の把握を試みた。また、質問紙による主要疾患に関する症状尺度、学校適応、家族関係評価、パーソナリティ要因などのを測定し、疾患発現に関連する要因やメカニズムの検討をおこなった。②子どもの不適応行動の発現に関与する遺伝的要因と環境要因との関連を知るために、0歳~17歳までの一卵性および二卵性の双生児を持つ2,135家庭を対象とした質問紙調査を実施した。③長期縦断サンプル(出生前~中学生期、N=300)について、非行系の問題行動の発達メカニズムに関する解析を実施する。また中学生期においてひきこもり行動を呈したケースの検討も行った。④子どもの不適応行動の生物学的背景を的確に把握していくために、関連が予想される多型遺伝子に関する文献研究及び研究方法論についての検討をおこなった。
結果と考察
①児童精神科臨床サンプルに関する研究(面接84サンプル、質問紙615サンプル)では、広範囲な子どもの精神疾患の診断および社会適応に関する面接尺度と疾患ごとの各種質問紙尺度、および医師の臨床診断も含めて網羅的に検討された。その結果、プライマリケア時の総括的な症状や適応状態の評価の重要性が示され、体系的な実施策の検討が今後の課題であることが明確になった。②長期縦断サンプルについて、思春期(14歳時点)までの質問紙調査および家族コミュニケーションの解析を実施した。その結果、児童・思春期の問題行動及び精神症状の発現には家族関係を中心とした家庭環境要因が大きく関わることが明らかになった。③大規模双生児サンプル(対象年齢:0~17歳、N=2,000組4000名)の第2回目調査を実施した。2年間隔の縦断データによる単変量遺伝分析および多変量遺伝分析から、乳幼児期から思春期に至るまでの問題行動および精神症状に関する遺伝要因と環境要因の寄与について分析を実施した。その結果、非行系(行動統制不全型)およびひきこもり系(行動統制過剰型)の両者に遺伝要因が関わっていること、また広範囲な子どもの不適応行動の発達に影響しうる共有環境要因の寄与があることも明らかになった。④子どもの不適応行動の発現の背景にある多型遺伝子に関する文献研究およびこれらを含めた上での発達メカニズム解明に関する方法について検討した結果、今後さらに様々な方法論的工夫が必要ではあるものの、実証的な探索の緒につくことが可能であることが示唆された。
結論
本研究より、子どもの不適応行動の発現には多様な環境要因が関与しており、それらは生物学的背景を有する子ども自身の行動特徴と発達早期から相互に影響し合って不適応行動の
発達に関わることが実証的に示された。またこうした発達メカニズムは非行系の問題行動とひきこもり系の問題行動では関連する要因や発達プロセスが異なることが示唆され、今後それぞれに詳細な解析が必要であることが明らかになった。本研究2年目の平成15年度の課題として、①臨床群と一般群のデータを結合した上での総合的解析から危険因子(risk factors)を発達段階ごとに同定していくこと、②追跡調査の続行によって思春期以降の発達メカニズムに関する検討を付加し、乳児期から青年期までの各発達段階での防御プロセスについての知見を得ること、さらに平成14年度の基礎研究から子どもの不適応行動の出現を予防するために必要な視点として示唆された諸点(家庭環境の重要さ・発生メカニズムに関する適切な理解・発達初期からの予防と早期介入の重要さ・関連諸領域の連携など)に関して、行政や関連の諸機関がどのような取り組みをおこなっているか現状把握(日本における全国調査および諸外国の実態に関する文献調査)を試み、平成14年度に得られた知見とともに、今後どのような対策によって子どもたちの不適応行動の発達を抑制していくことができるのか、できるだけ具体的な予防モデルの呈示と提言をおこなっていく必要があると考えられる。

公開日・更新日

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