望まない妊娠、人工妊娠中絶を防止するための効果的な避妊教育プログラムの開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200348A
報告書区分
総括
研究課題名
望まない妊娠、人工妊娠中絶を防止するための効果的な避妊教育プログラムの開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 郁夫(自治医科大学医学部産科婦人科学教室名誉教授)
研究分担者(所属機関)
  • 宮崎 文子(大分県立看護科学大学)
  • 佐藤郁夫(自治医科大学)
  • 戒能民江(お茶の水女子大学)
  • 北村邦夫(社団法人日本家族計画協会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
避妊の実行には自分の意志とともに、パートナーとの関係性や周囲からの情報などが大きく影響すると考えられている。確実な避妊を実行できないで望まない妊娠をし、やむなく人工妊娠中絶を余儀なくされた場合にも、社会や学校、身近な家族や友人、パートナーなどが中絶をどう捉えるかによっては外傷後ストレス症候群(PTSD)の原因ともなり得る。本研究班では、(1)望まない妊娠をどう予防するか、(2)中絶後の心のケア、(3)望まない妊娠であっても出産という選択もあり得るのではないか、(4)パートナーとの関係性を含めたコミュニケーション・スキルの向上、など4つの課題を設定し取り組むものである。1年次は各分担研究班に共通した広い年齢層での性・性意識・性行動・男女の関係性、避妊法の選択、中絶経験などを把握するための調査を実施し、新しい知見を得るとともに、各班先行研究論文などを収集し、現状の把握と問題点を明らかにした。望まない妊娠や意図しない出産に悩む女性達が少なくないわが国にあって、行政がどう施策を講じるべきか、個々人へのアプローチをどうしたらいいかなど、貴重な資料を提供することになると確信している。
研究方法
本研究班は3年計画の初年度として、現状を正確に把握することを目的に、3件の大規模調査と1件のパイロット研究を実施するとともに、4つの分担研究班とも、それぞれのテーマに沿った国内外の先行研究文献などを中心に収集、分析した。
(1)望まない妊娠の防止に関する研究(宮崎班)
日本看護協会、日本助産師会などの協力を得て、全国の受胎調節実地指導員の活動実態を把握しその課題を明らかにするために、特に、現在働いている助産師の資格を持つ受胎調節実地指導員2850名を対象にアンケート調査を行った(有効回答数1105部、有効回答率38.8%)。分析は統計的手法を用いた。また、受胎調節に関する意見・要望の自由記述はKJ法によりまとめた。加えて、受胎調節実地指導による家族計画指導の推進要因と停滞要因を分析し、いかにして受胎調節実地指導員の資格を有効活用するかを考察した。
(2)人工妊娠中絶後の心のケアの在り方に関する研究(佐藤班)
2001年に栃木県内で行われた10代妊婦に対するアンケート調査の結果から、特に、「中絶後の心の問題」に特化して分析した。この調査は、栃木県内109の対象医療施設に調査票を配布し,54施設(49.5%)より回収されたたものである。さらに、2003年1月に産科を標榜する医療機関に対して、「人工妊娠中絶後の心のケアについてのアンケート調査」を実施した。調査を依頼した医療機関は9施設(病院:2施設、診療所:7施設)で、栃木県内が6施設、茨城県・群馬県・静岡県が各1施設であった。
(3)出産を可能にする環境整備に関する研究(戒能班)
現状を把握するために、①「ひとり親」家庭の家庭に関する国および地方自治体の統計資料、②地方自治体のひとり親家庭施策資料、③厚生労働省母子世帯等実態調査、④民間、NPO等が実施した調査、⑤中絶関係の調査、など各種統計資料を収集した。さらに、研究の視点を明確化するために、十代の中絶、出産と学校等の支援、シングルマザー、婚外子を中心に英語および日本語文献を収集するとともに、出産した場合の選択肢の一つである「ひとり親」家庭についてのパイロット調査を実施した。
(4)男女間のコミュニケーション・スキルに関する研究(北村班)
現状を知る目的で、「男女の生活と意識に関する調査」を実施した。個人のプライバシーに十分留意しつつ、層化二段無作為抽出法という調査手法を用いて3,000人を対象とし1,572人(52.4%)からの回答を得た。調査項目は性意識、性教育、初めてのセックス、親と子の関わり、妊娠、避妊、中絶、性感染症予防など、多岐にわたっており、本研究を進める際の国民から寄せられた声として貴重な資料を得ることができた。国として初めて実施した性関連調査であること、50%を超える回収率が得られたことは異例とも言える。
結果と考察
以下、本研究班が取り組んでいる4つのテーマに沿って研究結果の概要をまとめた。
(1)望まない妊娠の防止に関する研究
助産師の資格を有する受胎調節実施指導員に向けた調査の結果、①受胎調節実地指導員としての意識が希薄、②各種避妊法の理解度は、近代的避妊法(女性用コンドーム、低用量ピル、銅付加IUD、緊急避妊法)において低率、③指導停滞要因の析出として、特に病院助産師の場合、指導技術が伴わない、④助産師自身のもつ性に対する否定的意識がある、⑤受胎調節実地指導が効果的に行われる場としては、若年者の多くいる学校、住民が気軽に集まれる身近な場の要望が多い、などが明らかとなった。
(2)人工妊娠中絶後の心のケアの在り方に関する研究
初年度、先行研究46文献の検討と中絶実施7施設に対する調査を実施した。その結果、先行研究の検討からは、中絶前後の心理的反応と心のケアに関する基礎的研究が必要であり、中絶後の心のケアの現状と問題点の把握をするために、中絶前後の心理的反応と適応に関する調査が必要であることなどが示唆された。また、10代妊娠調査の結果は約2/3が中絶に至っており、保護者に相談した者は約半数、自分自身の気持ちに反して中絶の決定がなされている症例も存在した。中絶後に「からだのこと」に18.3%、「こころの問題」に9.0%の者が不安を抱えており、不安や悩みに関する専門の相談機関を39.3%の者が必要であると回答していた。
(3)出産を可能にする環境整備に関する研究
「ひとり親」家庭についてのパイロット調査では、婚外子出産行動決定に医師、助産婦などの医療機関の対応の影響が大きいこと、親族を含めて周囲の理解が得られない場合が多いが、地域での援助が実際には助かること、母親教室など、パートナーがいることを前提としたサービスでの疎外感、同じ立場同志の自助グループの有効性、行政窓口の偏見やプライバシー侵害などが語られ、母子生活支援施設や母子家庭優先入居制度、家事支援サービス等の公的支援の問題点が指摘され、「ひとり親」支援施策と社会意識の現状が明らかにされた。
(4)男女間のコミュニケーション・スキルの向上に関する研究
「男女の生活と意識に関する調査」は、性意識、性教育、初めてのセックス、親と子の関わり、妊娠、避妊、中絶、性感染症予防など、質問項目が多岐にわたっており、今後の「性」や「親子間のコミュニケーション」などを踏まえた母子保健施策を進める上での、貴重な資料を得ることができた。英語圏論文を中心にした先行研究では、①避妊やSTD予防を可能にするには、親子間の性に関する会話を促進し,親に対してコミュニケーション・スキルを訓練するプログラムが効果的であること等が明らかにされた。
結論
本研究については多角的な取り組みが必要である。以下、結論を列挙した。
(1)科学的、具体的な避妊教育の推進
本来、避妊教育のエキスパートであるはずの、助産師をはじめとした受胎調節実地指導員が十分にその役割を果たしていないことが本研究から明らかになった。これを改善するためには、指導者側の意識の変革が必須であり、中絶前後の援助の在り方、指導スキル向上のための研修プログラムの開発や指導マニュアルなどの作成を急ぐ必要がある。
(2)人工妊娠中絶手術を受けざるを得ない状況におかれた女性あるいはカップルへのサポート
人工妊娠中絶には、心身への影響が大きいというイメージが先行しており、手術を求めた女性がPTSD(外傷後ストレス症候群)に陥る可能性が強い。100パーセント確実な避妊法がない以上、誰でも望まない妊娠を引き受ける可能性があるわけで、このような事例に接した際の指導者中絶をどう捉えるかが重要な鍵である。心身への禍根をのこさないためにもカウンセリング技法の開発と指導マニュアルの作成が必須である。また、望まない妊娠をしたとしても、選択肢は、①出産して育てる、②養子縁組、③Single Motherとして出産する、の3つの選択肢が考えられ、彼らが悔いのない選択ができるように、多方面からの援助が必要となろう。
(3)親子間のコミュニケーションが果たす役割
親が積極的に自己開示し、オープンに話をすることで、子どもが親の性に対する価値観・態度を学び、子ども自身が自分の性行動をコントロールできるようになるという先行研究は興味深い。特に、母親が性に対して肯定的なイメージを持っていることが、性に関する会話を促進させる要因であることが明らかになっており、子どもを対象とした性教育・避妊教育・性感染症予防教育にとどまらず、親に対する教育、介入が重要であることが明らかとなった。さらに、男女間の性に関するコミュニケーションを促すには、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)の啓発と合わせ、感情に左右されずにコンドーム使用や避妊法について話すことを肯定的に受け止められるようなコミュニケーション・スキルを身につけていくことが必要である。

公開日・更新日

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