日本における女性医療の課題に関する医療社会学的研究ならびに性差を加味した健康度および生活習慣の測定手法の評価に関する研究

文献情報

文献番号
200200346A
報告書区分
総括
研究課題名
日本における女性医療の課題に関する医療社会学的研究ならびに性差を加味した健康度および生活習慣の測定手法の評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
天野 恵子(千葉県衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木 敏(国立健康・栄養研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本における性差を考慮した医療(Gender-Specific Medicine: GSM)の確立を目指し、医学・薬学研究、保健・医療、製薬、医療・薬剤行政における女性の健康に関するデータ、女性の医療への配慮の現状を調査・研究し、医療分野や政策の指針作成に関わる政府、機関、個人に対し、分析、助言、情報を提供する。
研究方法
性差医療に関する文献検索と米国National Centers of Excellence in Women's Health現地調査、女性専用外来開設の推進と女性専用外来、保健所健康相談室等における事業実績の分析とアンケート調査による実態調査。
結果と考察
性差を考慮した医療は、欧米では既に約10年の歴史を経て、確立されている。GSMは重要な科学研究分野であり、近年、多くの性差に関する知見が得られ、医学教育に組み込まれ、地域に対する啓蒙教育のシステムも出来上がっている。日本では2001年5月鹿児島大学で、9月に千葉県立東金病院ではじめて性差医療を目指す「女性外来」が立ち上げられた。千葉県では知事の主導の下、予算措置もなされ、県立病院のみならず公・私立総合病院でも女性外来が開設され、15の県保健所を拠点とした性差を考慮した女性健康支援の地域活動も開始された。根拠に基づいた医療と施策展開のための疫学調査も開始された。これらの施策は多くの女性の賛同と支持を得て、大きな成果を上げつつある。女性外来受診者の多くは更年期世代であり、主訴も更年期症状と考えられるものが一位で、精神・心療内科系主訴、産婦人科系主訴と続く。全く初診であるものは2割弱であり、複数の医療機関を受診するも、これまでの説明や治療に納得できていない者が受診したと考えられる。治療としては漢方薬が主体で、4割で処方されている。女性外来はこれまで診療の場がなかった女性に特有な症状・疾病に始めて診療の場を提供し、臓器別対応で解決し得なかった疾患(線維筋痛症、慢性疲労症候群等)を治療可能とし、女性外来担当医以外の医師も、女性特異的な疾患に関心を持ち、医療の実践が行われるようにもなった。また、女性外来は乳がん、子宮がん、骨粗しょう症に対する検診機会を大幅に上げた。加えて、千葉県での成功は、県外の行政主導型女性外来設置に火をつけた。本年3月現在で21都道府県の基幹病院に女性外来が開設済みまたは2003年の開設が予定されている。女性外来は女性のニーズに合致し、その需要は高まる一方であるが、多くの課題も浮き彫りにされている。①個の医学、統合医学を担当しうる女性医師の確保と予算②個の医学、統合医学に対応する医学教育の欠如③一人一カルテの徹底の不備④地域医療との連携の不備⑤多岐にわたる疾患、ならびにその背景に存在する社会的側面の解決に不可欠な社会福祉担当者、コメデイカル(臨床心理士、看護し、保健士、栄養士、作業療法士、鍼灸士、薬剤師等)との連携の欠如⑥一般女性患者と医師の間の医療情報共有が有効に機能するための一般向け啓蒙教育の不足⑦女性医療の診療に必要なエビデンスの欠如である。
結論
日本における性差を考慮した医療は今、始まったばかりである。現段階では、女性医療を提供する医師・コメデイカル側のGSMに対する正しい理解の普及とGSMに基づいた医療の継続のための基礎ならびに臨床研究、教育、啓蒙のシステムの構築が必須である。

公開日・更新日

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