子育て時における両親の相談ニーズ把握及び保健医療福祉スタッフ支援モデル研究事業(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200343A
報告書区分
総括
研究課題名
子育て時における両親の相談ニーズ把握及び保健医療福祉スタッフ支援モデル研究事業(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
日暮 眞(東京家政大学児童学科小児学第二研究室教授)
研究分担者(所属機関)
  • 多田裕(東邦大学医学部新生児学教室教授)
  • 五十嵐隆(東京大学大学院医学系研究科小児医学講座教授)
  • 保科清(東京逓信病院小児科部長(日本小児科医会理事))
  • 古井祐司(三菱総合研究所研究員(東大病院非常勤講師))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年の核家族化や地域コミュニティの機能低下などに伴い、子育て時の相談ニーズなどは高まっている。また、女性の就業率の向上や生活スタイルの多様化に伴い、従来の画一的なサービスだけでは対応が困難となっている。一方、少子化に伴い小児科医師及び施設が減少している中、両親からの相談対応など、現場の保健医療福祉スタッフに多大な負担がかかっている。このような背景から、子育て時の両親の相談ニーズを把握するとともに、小児科医など保健医療福祉スタッフへの支援策を検討することは、子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の軽減という観点から重要と考えられる。本研究では、①核家族化や地域のコミュニティ機能の低下、女性の就業率の向上、生活スタイルの多様化といった環境下における子育て時の両親のニーズの把握、②小児科医などのスタッフの相談対応などの現状・問題点の把握、③子育て時の相談体制のあり方(民間資源の活用を含む)を検討し、小児科医など小児科スタッフの支援に資することを目的とした。
研究方法
(1)研究の推進にあたって、主任研究者・分担研究者4名、協力研究者(小児科医・助産師・GI専門家・IT専門家・健康保険組合・弁護士・NPO)のメンバーからなる委員会を設置、定期的に開催し、委員会での意見や議論を活用して、具体的かつ実証的な研究を行った。(2)研究の狙い、実施内容及び方法、体制、スケジュール等を検討し、研究計画を作成した。(3)子育て時の相談に関する事業や子育て時における両親の不安や問題点、医療サービス利用などに関する既存文献・資料(他厚生科研の研究結果を含む)のレビューを行い、両親のニーズ及び関連事業の位置づけについて整理した。(4)「(3)子育て時の両親のニーズに関する既存文献・資料の整理」で概要は整理されると考えられるが、定性的なニーズ、特に4点目の調査内容に関しては、アンケート調査だけでは浮かび上がらない可能性が大きいため、ヒアリング調査を実施した。対象は、①一般の子ども両親:企業の健康保険組合の協力による、②小児科外来受診の子どもの両親:小児科医の協力による。調査方法は、FG(フォーカスグループ)法に基づくグループインタビュー方式によるヒアリングである。対象者は4~8名の単位で、司会(コーディネーター)、専門家(医師など)により進行。調査の実施にあたり、グループインタビューの実施計画書・実施マニュアル・募集要領・事前アンケート調査票を作成した。調査内容としては、①子どもの属性(性・年齢・健康状態・既往歴)、②両親の属性(性・年齢・家族構成・居住年数)、③医療サービスの利用状況、相談方法、④子育て時にどのような不安・問題点を抱えているか、医療機関の利用に関してどのような意識・要望を持っているか、どのような支援があれば不安・問題解決につながる可能性があるかな。また、事業評価アンケートを実施し、①グループインタビュー(意見交換・相談会)に関しての感想として、意見交換(前半1時間)について、小児科医を交えた相談会(後半40分)について、開催場所・保育サービス等について、②本日の会への参加に関しての感想、③今後、小児医療や子育て支援を専門とするNPOが子育てや小児医療に関する情報提供などを行う場合、どのような情報があったら利用したいかなどを把握した。(5)調査結果を整理した。倫理面への配慮として、ニーズ把握のための調査結
果は氏名を外すとともに、個別集計などは行わないこととした。
結果と考察
結果(1)既存文献・資料の整理により、子育てに関する相談事業のポジショニングが、対象や実施方法などにより把握された。(2)FG法に基づくグループインタビューから、子育て時の両親の相談ニーズが把握された。本調査では、アンケート調査や個別ヒアリング調査に比較すると、同じ年代の乳幼児を持つ両親が集まった中で意見交換がされるため、自分の意見や不安・疑問が他の両親も持つ悩みであるとか、他の意見を聞いて潜在的な自らの悩みやニーズに気づくなどの相乗効果が見られた。自分達の子育て環境を他の両親と比較して冷静に見直すきっかけでもあるようだ。また、日常の生活に忙殺されている子育てについて、夫婦で意見交換ができる場ともなったようだ。(3)今回のグループインタビューは、ある種の子育て相談事業となり得るが、本事業への参加を通じて、両親が外来などでゆっくり話をすることが難しい小児科医と相談する機会を持てたことは有意義であったようだ。また、小児科医が治療だけでなく、子育てに関する種々の悩み、不安を相談し得る存在であることが認識されたことも意義があったと考えられる。(4)今回の研究で活用したグループでの意見交換・相談会が、子育て相談事業のモデル的な事業スキームとなる可能性が示された。両親のニーズがあり、かつ既存事業と連携・補完関係となる事業スキームの可能性が考えられる。
考察(1)医療機関による医療サービスや行政機関による保健・福祉分野のサービス、民間やお母さん達の子育てサークルなど、これまでも子育て時の相談事業は多岐にわたる。一方、近年の核家族化や女性の就業率の向上、地域における子育て支援機能の低下などの社会環境の変化により、世帯ごと、またひとり一人のニーズも多様化している。このような背景の中で、本研究では、民間資源と専門家が連携した相談事業の有用性が示された。グループ相談では、小児科医にゆっくり相談できることだけでなく、子育てという取組みは共通であるが、それぞれ異なる環境で子育てを実践中の両親が集まって意見交換する意義、不安や楽しみを共有し自分の取組みや経験を客観化する意義が示された。一方、事後アンケートからは、健康や医療などの質問に対する専門家のQ&Aの紹介などのニーズが高いことがうかがえた。(2)今回の研究で活用したグループ形式の意見交換・相談会は、子育て相談事業のモデル的な事業スキームとなる可能性が示された。既に協力研究者(研究フィールド)である健保組合では、来年度より保健事業として採用予定となっている。このように事業が制度に位置づけられることは、単に金銭的な手当てだけではなく、利用者が利用しやすくなり、サービスに対して評価の目が入り、質の評価・確保につながる点で有意義である。(3)今回の研究で活用したグループ形式が、単にニーズの吸い上げにとどまらず、実際の相談事業に活用できるツールとなることが望まれる。今後、どのような特徴・武器を持ち得る相談事業となるか、具体的なツールの検討及び検証を行うことが重要となる。①小児科医など専門家と民間資源との連携型ツール、②子育て実践者のGDグループディスカッションへの参加型ツール、③Face to faceのGDとフォロー(健康・医療Q&A情報提供)の組み合わせ型ツールなど。
結論
従来の子育て関連相談事業のポジショニングと、FG(フォーカスグループ)法により子育ての経験(者)に関する相談ニーズ、子どもの健康・医療に関する相談ニーズが把握され、同時に、今回の研究で活用したグループ形式のNPOのコーディネートによる新たな子育て相談が、単にニーズの吸い上げにとどまらず、実際の相談事業に活用できるツールとなる可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-