小児難治性疾患登録システムの構築に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200342A
報告書区分
総括
研究課題名
小児難治性疾患登録システムの構築に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
秦 順一(国立成育医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤忠明(国立成育医療センター研究所)
  • 味木和喜子(大阪府立成人病センター)
  • 掛江直子(早稲田大学人間総合研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児難治性疾患のほぼ全例を高い診断精度をもって登録し、その発症数を把握することは、疾病構造の理解、費用対効果の評価等、医療政策決定に欠くことができない基盤事業である。疾病登録システムとして、学会による登録、地域による登録、そして国として法制化された制度を利用する登録等の方式がある。しかし前者二方式のような研究費ベースで行われる登録では研究費が廃止されるとその貴重なデータを維持・継続する仕組みが途絶えてしまう恐れがある。そこで、全国的かつ縦断的な疾病登録システムとしては、小児慢性特定疾患治療研究事業(以下、小慢事業)を基盤として構築することが効率的かつ効果的と考えられる。本研究では、現行の小慢事業で提出されている医療意見書の疾患診断をより精度の高い、根拠のあるものとし、これらを活用してわが国における小児難治性疾患の発症数の把握を基盤事業として企図するものである。
研究方法
本年度は小児難治性疾患のうち、効果的な治療法の標準化と病態の把握が急務である小児悪性腫瘍(がん)を中心に検討した。小慢事業における情報把握率ならびに今後の情報把握可能性について大阪府地域がん登録資料を用いて検討した。また、小慢事業による小児悪性腫瘍登録情報をより精度の高いものとするため、腫瘍診断コードならびに部位コードの改善を試みた。さらに、今後の小児難治性疾患登録システム構築を目指し、システムのあり方、ならびにそれに対応した同意のあり方について倫理的な視点も含めて検討を行った。
結果と考察
大阪府地域がん登録資料を用いて小児がん患者の登録情報源を調査したところ、小慢事業で74.6%、在阪の医療機関からの自主届出40.2%、「がんの子供を守る会」による小児悪性新生物全国登録で39.8%であった。この結果から、小慢事業によって75%に及ぶ症例が把握可能であることが実証された。因みに、これに加えて小児悪性新生物全国登録および死亡調査を追加すると93%の小児がんを把握できることが判明した。
次に、可能な限り精度の高い診断の下に疾患登録を行うという目的のため、悪性新生物医療意見書の診断項目について検討した。その結果、現状ではICD-10に従って登録されているため、疾患概念の変遷に必ずしも対応しておらず正確な診断名がつけにくいことが判明した。そこで、小児がんについてはICD-O-3に準じて、病理診断名と原発臓器名の両者で登録するシステムを構築することを試み、小児がんに特化したコード表を作成した。その際、現場の医療機関や保健所での混乱を避け、またコンピュータ登録上も問題がないように配慮しながら、悪性新生物コード表の様式を考案した。具体的改善点としては、血液疾患に関して免疫学的形質を明記する。従来、内分泌疾患に区分されていた副腎腫瘍、下垂体腺腫、血液疾患に区分されていたランゲルハンス組織球症等を悪性新生物に再区分した。このコード表は小慢事業研究班に提案し検討を依頼した結果、ほぼ同意を得た。
結論
以上、わが国においてエビデンスに基づいた小児がんの実数を把握するため基盤整備の準備が完了したので、所期の目的に対して、小慢事業を通じてどの程度実効性が発揮できるか、また改善点などについても詳細に検討を続ける必要がある。
次の課題は、このような基盤事業から得たデータをより詳細な二次調査研究にどのように結びつけるかである。そのためには個人情報保護という観点から十分な倫理への考慮が必要となる。基盤事業として公的医療費助成をどのような疾患患児に行ったかという基礎データ(個人情報を含まない)は、事業統計として同意・非同意に関わらず把握するシステムを構築する。この基盤事業によって全国の小児疾患の発症数を把握し、より有効な医療政策の立案に活かすことができる。しかし、このシステムでは、個人を識別できず縦断的研究はできない。そこで、治療研究としての縦断的研究の必要性を患児家族に説明し同意を得た上で、疾患名に加え地域コードや受給者番号等の個人識別情報を登録し、データを蓄積・解析するというシステムを新たに提案する必要がある。本研究では、今後これらの点も追求したいと考えている。

公開日・更新日

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更新日
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