快適な妊娠・出産を支援する基盤整備に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200339A
報告書区分
総括
研究課題名
快適な妊娠・出産を支援する基盤整備に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
中村 好一(自治医科大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、妊娠・出産に関する管理について、根拠に基づく医療および医療技術評価の枠組みに基づき、わが国における問題点の把握から、対策の優先順位の決定、有効性の根拠の系統的評価、インフォームド・コンセントのためのガイダンス作成まで、総合的な評価を行いたいと考えた。
研究方法
妊娠・出産の管理に関する有効性、安全性、適切性について、わが国で改善すべき問題点について、優先順位の決定を行った。管理に関連する多様な関係者による評価パネルを設定し、構造的フォーマットに従って問題点をリストアップするとともに、デルファイ法により優占評価点数を算出した 把握された問題点について、国際的なデータ・ベース(Cochrane Libray、MEDLINEなどを主に利用)により、根拠の系統的な把握を行った。把握した根拠については批判的吟味を行った。また、こうした国際的な情報とともに、わが国での根拠について、医学中央雑誌のデータ・ベースにより情報を把握し、評価を行った。これらの結果を比較し、わが国の問題点と特徴を評価した。
結果と考察
わが国の状況を研究班で検討した結果、次の24項目を課題として取り上げ、現状の評価を行った。(1)妊娠中毒症の予防のための食事制限:過度のエネルギー制限や塩分制限については妊娠中毒症の発症予防としての効果が疑問視されている。(2)妊娠後期または陣痛開始後のX線撮影による骨盤計測:十分な検討なく使用されている。(3)扁平または陥没乳頭に対して、分娩前のホフマン操作:ホフマン操作が、乳頭の状態を改善する証拠はない。(4)扁平または陥没乳頭に対して、分娩前のブレストシールド:ブレストシールドが、乳頭の状態を改善する証拠はない。(5)子宮頸菅熟化または分娩誘発を目的としたエストロゲン投与:以前のことで詳細は不明である。(6)子宮頸部熟化のためのプラステロン硫酸ナトリウムの与薬:妊娠37~38週で頸管熟化程度が低い正常妊婦に対して投与する医学的に合理的根拠はない。(7)周産期予後を改善するためのストレステスト:オキシトシンチャレンジテストはノンストレステストと比較して、胎児仮死および低アプガー値の感度および特異度は高く、診断能力は高く有用であると思われるが、入院設備を有し、緊急手術が可能な一部の限られた施設でしか行えず、現時点で有用性を評価するのは困難である。(8)周産期予後を改善するためのノンストレステスト:分娩前および分娩中の胎児の健常性を評価する手段として現在、中心的な役割を担っている。しかしながら、施行の時間・頻度などは施設で異なっているため、周産期予後を改善する目的で有用性を評価するには十分な検討を要する。(9)周産期予後を改善するための乳頭刺激試験:胎児仮死の補助的診断法のひとつとして乳頭刺激試験は作用機序が不明で刺激(作用)―効果が不確実であるため、行われるべきでない。(10)分娩開始前の破水に対しての計画的分娩:破水後24時間経過した症例に対して、子宮内感染の予防という観点から、計画分娩を行うことは医学的処置として妥当であると思われるが、予防的抗生剤の投与、分娩誘導の開始時期・方法、胎児の未熟性や頚管の熟化の問題があり、個々の症例によって管理方針が異なるため、本テーマを解決するガイドラインの成立は困難であると思われる。(11)胎児頭皮採血を併用しない分娩時の連続的胎児心拍監視:RCTでは有効性は支持されていないが、急遂分娩できる環境では有利。(12)羊水過少症に対する分娩時の予防的羊水注入:羊水過少による臍帯圧迫あるいは羊水混濁の症例をのぞき、実施する利益はない。(13)子宮頸管熟化のための経口プロスタグランジン製剤の使用:無効、または有害。(14)分娩第Ⅱ期にルーチンに砕石位を
とらせる:メリットの根拠はなく、むしろ座位、側臥位のほうが好ましいとする研究結果が示されている。分娩第Ⅱ期に仰臥位を強制することは避けるべきである。(15)分娩第Ⅱ期に仰臥位をとらせる:座位、側臥位のほうが好ましいとする研究結果が示されている。分娩第Ⅱ期に仰臥位を強制することは避けるべきである。(16)分娩第3期のオキシトシンに替わるエルゴメトリン予防投与:エルゴメトリン使用の利点とリスクの評価は十分ではない。(17)ルーチンに母児接触を制限する:ルーチンに母児接触を制限することに関しては、少なくとも効果を示す根拠はなく、むしろ母児接触を推奨する根拠が積み重なりつつある段階である。(18)ルーチンに新生児室でケアする:母児同室が母乳育児促進に対して効果がある。少なくとも、母児同室より新生児室でのケアのほうが優れているという根拠はない。(19)定時に授乳する:定時授乳のメリットを支持する根拠はなく、むしろ不都合が生じる可能性を示唆する研究結果がある。現段階ではほしがるときに与える頻回授乳が妥当性のある授乳方法である。(20)母乳栄養中の母親に乳頭クリームまたは軟膏:乳頭の痛み、傷の治癒、母乳栄養の持続期間に良い効果があるとは認められない。(21)母乳哺育児に水分(水、糖水)または人工乳のルーティンな補充:医学的適応がない場合、新生児に母乳以外の水分(水、糖液)や人工乳を補充すべきではない。(22)母乳哺育児の体重測定テスト:授乳前後に体重測定を行なうと、母乳哺育の持続期間を減少させる可能性がある。(23)授乳時の清浄綿の使用:清浄綿の使用は細菌感染予防に無効である。(24)乳房症状改善のための母乳哺育をしない母親に対するブロモクリプチン投与:判断保留(未定)
結論
妊娠・出産の管理に関する有効性、安全性、適切性について、わが国で改善すべき問題点について、優先順位の決定を行い、国際的なデータ・ベースにより、根拠の系統的な把握を行い、把握した根拠については批判的吟味を行った。検討した24の項目の多くで、「実施するべきではない」あるいは「有効であるという根拠に乏しい」ということが判明した。

公開日・更新日

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