配偶子・胚提供を含む統合的生殖補助技術のシステム構築に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200338A
報告書区分
総括
研究課題名
配偶子・胚提供を含む統合的生殖補助技術のシステム構築に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
吉村 泰典(慶應義塾大学医学部産婦人科)
研究分担者(所属機関)
  • 久保春海(東邦大学医学部第1産婦人科)
  • 鈴森 薫(名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 平原史樹(横浜市立大学大学医学部産婦人科)
  • 石原 理(埼玉医科大学産婦人科)
  • 齊藤英和(成育医療センター)
  • 苛原 稔(徳島大学医学部産婦人科)
  • 柳田 薫(福島県立医科大学産婦人科)
  • 久慈直昭(慶應義塾大学医学部産婦人科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は今後の配偶子・胚提供を含めた統合的生殖補助技術利用の我が国における枠組み構築を目的とした。
研究方法
具体的な方法として、第一に今後臨床応用される可能性のある卵子・胚提供技術を加えた生殖補助技術の配偶子・胚の提供基準・適応選択基準についての指針を生殖医学的見地より作成した。その際、新たな生殖医療を実施するために必要な倫理的及び法整備も含めて各種のアンケート調査を行い、その結果や海外での臨床応用の実態・その規制状況を考慮した。第二に、わが国における生殖補助技術全体の人的資源の運用、とくに患者に必要十分な情報を提供し、その自己決定権を尊重するためのシステム構築と、患者情報の保管、コーディネイト業務を含む指針を作製した。第三に今後開発されてくる新しい生殖補助技術を社会に対し明らかにし、迅速に対処するためのシステム構築を検討した。
結果と考察
1.配偶子(精子および卵子)及び胚提供を受けるための医学的適応基準の設定
①卵子・精子および胚提供を受けるための医学的適応基準
(1)卵子提供を受ける者は、患者の体内に卵子が存在しないか、存在しても排卵刺激に反応しない法律上の夫婦に限り、妻の年齢は45歳以下とする。卵子を提供する者は35歳以下の健康な女性であることが望ましい。
(2)精子提供を受けるものの医学的適応は、原則として成熟した精子が得られない場合であり、卵管性不妊症などそれ以外の方法では妊娠が成立しないと考えられる場合提供精子による体外受精を行うことができる。
(3)胚提供の適応は、夫婦ともに卵子提供・精子提供をうける適応がある場合の他、卵子提供をうける適応があるが一定期間卵子の提供者が現れない場合等を含む。なお提供胚は余剰胚に限り、胚提供を行うための体外受精は認めない。
②世界における生殖補助医療の動向調査
これまで調査を行った英国、スウェーデン、デンマークにおいては、異なる社会・文化的背景のもとに、生殖補助技術に対する独自の法的規制が存在し、特に配偶子提供、体外受精型代理母に対する対応には、国による差が大きい。生殖医療に関する国家的・社会的な規制は、基本的に個人の権利と幸福を守る視点で行われ、伝統的な家族に対する価値観を守ろうとする社会防衛的な色彩や視野はない。しかしその一方で規制の強い国から規制の弱い国への、患者の越境輸出が現実に問題となっている。
③配偶子提供における告知と出自を知る権利に関する両親の意識調査
第三者の配偶子・胚提供において、告知・出自を知る権利について当事者の意識を調査するために、非配偶者間人工授精(AID)において実際に子どもを得た受容者夫婦にアンケート調査を行った。告知については、夫婦とも75%以上が「絶対に話さない方がよい」と答え、また実際に子どもにこの事実を打ちあけている夫婦はなかった。将来も告知する意志をもつ夫婦は極めて少数であり(2%、5%)、仮に告知した後子どもが出自を知る権利をもつとしても、やはり大多数が告知を行わないと回答した(95%、95%)。しかし子どもの出自を知る権利に対して、子どもが偶然AIDの事実を知って精子提供者を探したいと考えた場合、約半数の両親が遺伝上の親を捜す子どもの意志を尊重すると答えた(49%、52%)。
2.生殖補助技術全体の安全管理を含めた運営指針策定
①生殖医療機関における情報管理及びコーディネーションの必要性とその具体的実施案配偶子・胚提供を含む生殖補助医療システムでは、生殖補助医療実施機関と公的管理運営機関の2機関が独立して存在し、実施機関は管理運営機関により適切に評価指導を行われるべきである。また第三者からの配偶子・胚提供の技術を用いた生殖補助医療において必要となる受容者・提供者の厳重なデータ管理と、今後必要になる可能性のある生まれた子からの開示請求(出自を知る権利)への対応や近親婚の懸念に対する対応は管理運営機関の業務とする。
②カウンセリング、インフォームドコンセントの実際
生殖医療のカウンセリングに関して、人的資源確保のため日本看護協会は「不妊看護認定看護師」制度をすでに発足させており、将来生殖補助医療を希望する夫婦には専門知識をもつカウンセラーからの適切な生殖遺伝カウンセリングの機会も保証されるべきである。配偶子・胚の提供による生殖補助医療を実施する際には、今までの治療経過が十分に妻および夫に説明されていることに加えて、適応、提供者に課せられる条件、費用負担、受容者・提供者の権利と義務、を含めた詳細な説明が必要であり、説明手順・インフォームドコンセントの書式案を作製した。
3. 新しい生殖補助技術への対応
卵子の加齢とそれに対する治療の研究状況について調査した。卵子に問題があるために不妊となっている夫婦では、女性の加齢により卵子はできるがその細胞としての活性が低い場合(加齢卵子)と、女性が卵子そのものを全く作れない場合(卵巣不全)、の二つの場合があり、加齢卵子に対しては細胞質移植・卵核胞期核移植、卵巣不全に対しては女性の体細胞からドナー卵子を用いて人工卵子を作製する方法が現在研究されている。しかしこれらの方法は加齢卵子で増加する胚染色体異常の低減効果は明らかでなく、また移植されたドナー卵子のミトコンドリアは子供に伝播する可能性があり、生まれてくる子供自身の危険性と共に人類に対する集団遺伝学的危険性も存在する。
結論
精子・卵子・胚提供技術を加えた生殖補助技術の配偶子・胚の提供基準・適応選択基準についての指針を作成した。海外での調査から自分たちが欲する生殖医療を求めて国境を越えて治療を行う夫婦の存在が確認された。我が国での精子提供によって挙児を得た夫婦は告知を避ける傾向が強く、その一方で子供の出自を知る権利を考慮していることが示された。配偶子・胚提供を含む生殖医療では実施機関の監督指導、開示請求を含む提供情報の保管・管理、コーディネイト業務を行う管理運営機関が必要であり、その要綱を作製した。専門化した看護師を中心に不妊夫婦へのカウンセリング体制整備は始まっているが、生殖遺伝カウンセリングが今後必要となる可能性がある。クローン技術を基礎とする細胞質移植・卵核胞期核移植、人工卵子による治療技術は生まれてくる子供自身の危険性と共に人類に対する集団遺伝学的危険性も存在するため、法的規制を含む厳重な管理が必要である。

公開日・更新日

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更新日
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