乳幼児突然死症候群の診断のためのガイドライン作成およびその予防と発症率軽減に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200335A
報告書区分
総括
研究課題名
乳幼児突然死症候群の診断のためのガイドライン作成およびその予防と発症率軽減に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
坂上 正道(人間総合科学大学学長)
研究分担者(所属機関)
  • 齋藤一之(埼玉医科大学医学部法医学)
  • 澤口聡子(東京女子医科大学医学部法医学)
  • 高嶋幸男(国立医療福祉大学大学院)
  • 高津光洋(東京慈恵会医科大学医学部法医学)
  • 戸苅 創(名古屋市立大学大学院医学研究科・先天異常・新生児・小児医学分野)
  • 中山雅弘(大阪府立母子保健総合医療センター)
  • 仁志田博司(東京女子医科大学母子総合医療センター)
  • 平林勝政(國學院大学法学部)
  • 藤田利治(国立保健医療科学院疫学部疫学情報室)
  • 的場梁次(大阪大学医学部法医学)
  • 宮坂勝之(国立成育医療センター手術集中治療部)
  • 横田俊平(横浜市立大学医学部小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究事業においては小児科医、病理医、法医病理医の協力のもと、新生児・乳幼児の突然死例の神経病理学的検討、解剖施行例における死亡原因の調査、解剖の有無により比較検討したリスク因子の解明、新生児科医に対するうつぶせ寝に関する意識調査、諸外国での診断のガイドラインの有無とその内容調査などにより我が国での現状を把握し、診断のためのガイドラインを作成することを目的とした。また、我が国における新生児・乳幼児の突然死を巡る問題点を明らかにすることを目的として、最近の判例の解析検討および諸外国における裁判事例との比較検討を行った。発症率軽減とその予防としては、各国での啓蒙活動についての調査、SIDSに対する新たな予防法確立を目的とした研究、さらには子どもを亡くした家族へのサポート・システム確立を目的とした研究を行った。
研究方法
本研究は主任研究者を含めて13人の研究者からなり、分担研究者は以下に示すそれぞれの専門分野における研究課題について研究を行い、主任研究者は分担研究の総括を行うとともに、最終的には乳幼児突然死症候群の診断のためのガイドラインを完成させ、乳幼児突然死症候群の発症率軽減に関しての提言を行うものとする。
齋藤一之「新生児・乳幼児の突然死例の診断に関する臨床法医病理学的研究」
澤口聡子「新生児・乳幼児の突然死裁判例及びガイドラインについての国際比較に関する研究」
高嶋幸男「乳幼児突然死症候群の病態解明のため新生児・乳幼児の突然死例の診断に関する神経病理学的研究」
高津光洋「新生児・乳幼児の突然死例の診断に関する神経病理学的研究」
戸苅 創「新生児・乳幼児の突然死例の診断に関する病態生理行動学的研究」
中山雅弘「新生児・乳幼児の突然死例の診断に関する臨床病理学的研究」
仁志田博司「新生児・乳幼児の突然死の予防についての啓蒙活動の国際比較に関する研究」
平林勝政「新生児・乳幼児の突然死例の診断についての法的環境の整備に関する研究」
藤田利治「新生児・乳幼児の突然死例の診断に関する疫学的研究」
的場梁次「新生児・乳幼児の突然死例の診断に関する死亡経過ならびに死因調査方法についての研究」
宮坂勝之「新生児・乳幼児の突然死リスク因子に関する呼吸生理学的研究」
横田俊平「乳幼児突然死症候群における小児科医の診断力向上と突然死例の家族支援に関する研究」
結果と考察
「新生児・乳幼児の突然死例の診断に関する臨床法医病理学的研究」
1歳未満の突然死症例で最終確認体位と死亡発見時の体位とを比較した結果、体位が変換した症例は29.4%であったが、いずれも剖検所見上、死因を説明できるような所見は認められなかった。何らかの異常が生じた結果、体位変換が生じるのか、体位変換の結果、異常事態となるのか、病態生理学的に検討していく必要がある。
「新生児・乳幼児の突然死裁判例及びガイドラインについての国際比較に関する研究」
SIDS診断は定義と標準化された剖検プロトコールあるいは死亡状況調査プロトコールにて診断を行っている国が多かった。SIDS訴訟論点はアメリカ、ニュージーランドではSIDSか虐待か、オーストラリア、イギリスではSIDSか他殺か、日本ではSIDSか窒息か、ベルギーでは訴訟はなかった。日本におけるSIDS訴訟と類似の論点もみられた。
「乳幼児突然死症候群の病態解明のため新生児・乳幼児の突然死例の診断に関する神経病理学的研究」
SIDSの脳では、子宮内での形成異常、慢性または反復性低酸素・虚血、呼吸循環調節中枢の発達遅滞、神経伝達物質・受容体またはネットワークの発達異常、神経伝達遺伝子の異常、心機能調節遺伝子の関与などを示唆する小さな病変が報告されていた。これらの所見から診断に役立つ因子を追求していく必要がある。
「新生児・乳幼児の突然死例の診断に関する神経病理学的研究」
本学の剖検記録から対象として1歳以下の新生児・乳幼児の死亡例323例を抽出した。男児194例、女児129例で生後2ヶ月にピークがあり6ヶ月未満が約70%であった。今後これらの症例について鑑別診断の視点から検討する。
「新生児・乳幼児の突然死例の診断に関する病態生理行動学的研究」
新生児科医の中で健康な新生児がうつぶせ寝により鼻口腔が閉塞して窒息する可能性があると考えるのは24.0%、窒息はしないと考えるのは72.0%であった。新生児科医としての経験年数が増えるほど窒息しないと考える率が高かった。
「新生児・乳幼児の突然死例の診断に関する臨床病理学的研究」
原因不明の早期新生児死亡例の剖検所見を検討した結果、特に脳を含めた検索と病歴、X線、胎盤検査、細菌培養、尿検査、凍結検体の保存により診断が同定できる可能性があった。乳幼児突然死症候群と考えられる事例については強い低酸素に対するストレス蛋白(ORP150)の発現を検討した結果、その多くが低酸素状態にあったことが示唆された。
「新生児・乳幼児の突然死の予防についての啓蒙活動の国際比較に関する研究」
各国においてSIDS予防キャンペーンはSIDS発生頻度を減少させる効果を上げていた。効果的な予防活動のためには行政および研究者と家族の会の三者がどのような役割をもって協力体制を作っていくかが重要と考えられた。
「新生児・乳幼児の突然死例の診断についての法的環境の整備に関する研究」
我が国における乳幼児の突然死判例を検討した結果、基本的には窒息かSIDSかで議論されていることが判明した。SIDSの診断のガイドラインだけでなく、窒息の診断のガイドラインを明確にすることが必要と思われた。
「新生児・乳幼児の突然死例の診断に関する疫学的研究」
解剖率が低いわが国での臨床診断に基づいたSIDSの関連要因の検討に疑念がもたれることもあったが、今回わが国で初めて実施された解剖の有無によるSIDSリスク因子の検討においてSIDSリスク因子の特性には顕著な差異は認められなかった。また、SIDS診断の実態を解明するため乳幼児突然死についての死体検案書(死亡診断書)調査研究計画書を作成した。
「新生児・乳幼児の突然死例の診断に関する死亡経過ならびに死因調査方法についての研究」
大阪府監察医事務所における2歳未満の検案例で、死因としては肺炎、窒息、SIDSがそれぞれ3分の1ずつあった。死亡時体位が普段の体位や最終確認時体位と異なるもの、うつぶせ寝、鼻口腔が圧迫されているものが多かった。児側の要因としては、低出生体重が多かった。
「新生児・乳幼児の突然死リスク因子に関する呼吸生理学的研究」
SIDSハイリスク児に対してパルスオキシメトリを用い、酸素飽和度の推移を観察した結果、酸素飽和度が90%未満を示す時間が全測定時間に占める割合 % desaturation time below 90 (%DT90) は、生後週数とともに低下する傾向にあり、これは呼吸中枢の成熟過程を考える上で重要と思われた。
「乳幼児突然死症候群における小児科医の診断力向上と突然死例の家族支援に関する研究」
救急指定病院などに勤務する小児科医、SIDSで子どもを亡くした家族に対してのアンケート調査の結果、早期からの精神的サポートにより家族のストレス緩和が可能であることが示唆された。また、小児科医も何らかのサポート・システムの構築を望んでいることが判明した。
結論
本年度の研究においては、乳幼児突然死症候群の病態解明を目的とし神経病理学的検討、新生児・乳幼児の突然死の解剖施行例における死亡原因の調査、解剖の有無により比較検討したリスク因子の解明、新生児科医に対するうつぶせ寝に関する意識調査、諸外国でのガイドラインの有無とその内容を調査することなどにより我が国での現状を把握し診断のためのガイドライン作成のための基礎資料を作成した。
我が国における最近の裁判事例を抽出しその特徴を解析するとともに諸外国における裁判事例との比較検討を行った結果、我が国ではSIDSか窒息かで議論されている例が多く、SIDSの診断指針だけでなく、窒息の診断指針を明確にすることも必要と思われた。
効果的なSIDS予防活動のためには行政および研究者と家族の会の三者の協力体制が重要と考えられた。新たなる予防法の確立を目的としてパルスオキシメトリによるモニタリングの可能性を追求した。各施設、家族に対するアンケート調査からは医師・家族の双方がサポート・システムの構築を望んでいることが判明した。
本研究事業によりSIDS発症率の軽減、乳児死亡率の減少が期待され、本研究事業が我が国の将来にとって乳幼児の障害
の予防と健康保持増進対策の一助となれば幸いである。

公開日・更新日

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