地域在宅高齢者の「閉じこもり」に関する総合的研究

文献情報

文献番号
200200284A
報告書区分
総括
研究課題名
地域在宅高齢者の「閉じこもり」に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
新開 省二(財)東京都老人総合研究所地域保健部門)
研究分担者(所属機関)
  • 工藤禎子(北海道医療大学)
  • 本橋豊(秋田大学)
  • 甲斐一郎(東京大学)
  • 浅川康吉(群馬大学)
  • 河野あゆみ(東京医科歯科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者が要介護状態になることを予防する上では、いわゆる生活習慣病
などの疾病対策のみでは不十分である。加齢にともなう心身機能の減弱、それに伴う転倒などの事故、あるいは「閉じこもり」や低栄養といった、疾病ではないが老化を進行させ要介護状態への促進要因として働く、高齢期特有のヘルスリスクに対する対応も重要となる。しかしこのうち、「閉じこもり」については、未だ解明されていない点が多い。また、地域における閉じこもり予防事業の取り組みも不足しており、閉じこもり予防に向けた効果的な戦術の開発が遅れている。そこで、地域在宅高齢者における「閉じこもり」の実態と特徴、さらには「閉じこもり」の予後とその原因を明らかにしつつ、「閉じこもり」の改善に向けた効果的な介護予防プログラムを提案することを目的に、本研究事業がスタートした。平成14年度は、平成12年度に調査した地域在宅高齢者の2年後の追跡調査を行い、タイプ別閉じこもりの予後とその原因を明らかにすることに重点を置いた。また、これまで展開してきた地域在宅の閉じこもり高齢者への介入事業をさらに継続し、その総括的な評価を行った。さらに、「閉じこもり」高齢者の生活行動量リズムの解析を、症例数を増やして検討した。
研究方法
1.タイプ別「閉じこもり」の予後:65歳以上の在宅高齢者を対象とした初回調査に応答した1,544人を対象に、2年後の追跡調査を実施した。初回調査で「非閉じこもり」、「タイプ1」、「タイプ2」であった3群間で、2年間の死亡率、追跡調査時の生活機能や認知機能のレベルなどを、初回調査時の潜在的交絡要因を調整して比較した。2.タイプ別「閉じこもり」の原因:同初回調査時点でランクJかつ「非閉じこもり」であった高齢者1,322人について、2年後の追跡調査における「閉じこもり」の有無およびそのタイプを調べた。次に、「非閉じこもり」と「タイプ1(あるいはタイプ2)」を従属変数に、初回調査時の諸変数を独立変数においた、多重ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を行い、タイプ別に閉じこもりの予知因子を求めた。3.虚弱高齢者における外出頻度別にみた予後:在宅虚弱高齢者137人に対して20か月後の追跡調査を行い、身体・心理社会的変化を初回調査時の外出頻度別に検討した。4.「閉じこもり」予防事業の展開とその評価 1)閉じこもり予防事業の参加者48人に対して、参加者からみた参加効果、交流の項目を中心に、それに関連すると思われる要因について聞き取り調査を行い、事業の評価を行った。2)在宅虚弱高齢者119人を介入群59人と対照群60人に無作為割付をし、介入群には保健師による訪問指導(約2ヶ月に1回の頻度)を実施した。一年半後に追跡調査を実施し、両群における身体・心理社会的側面の変化を比較した。3)長寿センター、通所リハ・訪問リハ・訪問看護の施設を利用していた在宅高齢者155人を対象に訪問面接調査を実施し、障害の程度と理学療法、補装具や住宅改造のサービス受給の有無との関連を調べるとともに、外出に関する不安や困難性に係わる要因を検討した。5.「閉じこもり」高齢者の行動量リズムの解析:保健師の訪問で閉じこもり傾向があると判断された独居高齢者37人を対象に、携行行動量計アクティウォッチを用いて行動量リズムを1分間隔で1週間連続的に測定し、そのリズム解析を行った。
結果と考察
1.タイプ別「閉じこもり」の予後:初回調査時にランクJであった高齢者においては、「タイプ2」(n=59)は性、年齢、初回調査時の歩行能力、生活機能(老研式活動能力指標)や認知機能(MMSE)のいずれを調整しても、「非閉じこもり」(n=1,133)に比べると、歩行能力、生活機能、認知機能が有意に落ちやすかった。この結果は、生活自立状態であっても閉じこもりそのものが要介護状態化のリスク要因であることを示している。介護予防対策においては、閉じこもり状態そのものの改善をはかることが重要であることが示された。一方、初回調査時にランクA以下であった高齢者においては、「タイプ1」(n=78)は性、年齢、初回調査時の慢性疾患の保有個数を調整しても、「非閉じこもり」(n=39)に比べると、2年間の死亡率は有意に高かった(ハザード比は3.94 [1.24-12.59] )。2.タイプ別「閉じこも
り」の原因:2年後の追跡調査時に「非閉じこもり」のままであったのが1,055人(79.8%)、「タイプ1閉じこもり」となったのが30人(2.3%)、「タイプ2閉じこもり」となったのが55人(4.2%)、追跡不可であったのが182人(13.7%)であった。多重ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)によって抽出された予知因子は、タイプ1では、手段的自立(障害あり)、1km連続歩行(障害あり)、就労状況(していない)、聴力(障害あり)の4つであり、タイプ2では抑うつ傾向(あり)、一日中家の中で過ごす(あり)、飲酒(やめた)の3つであった。これらの予知因子は、「閉じこもり」の原因と考えられる。ともすれば、介護予防における閉じこもり予防事業は、現在閉じこもっている高齢者を対象とするものが多い。しかし、本研究によって閉じこもりの一次予防にむけた重点課題が明らかになったことから、今後は全国市区町村において、老人保健事業なども活用した「閉じこもり」の一次予防戦略を具体化していく必要があろう。3.虚弱高齢者における外出頻度別にみた予後:20か月後のADLについては、初回調査時の外出頻度が高かった群は維持しやすく、外出頻度が低かった群は低下しやすいことが示された。昨年度は、在宅の生活自立高齢者においてもふだんの外出頻度が健康指標としての意義を有することを報告した。また、上述のように潜在的交絡要因を調整しても、「閉じこもり」が「非閉じこもり」よりも生活機能や認知機能の低下が起こりやすかった(外出頻度の予測妥当性)。地域高齢者においては外出頻度が健康指標としての意義を有するとみなせる。4.「閉じこもり」予防事業の展開とその評価 1)閉じこもり予防事業:事業参加者の90%以上が参加の効果として、笑い、生活のはりを得ていたが、外出機会の増加など生活への波及に関する効果項目の該当者は少なかった。外出が少ない者や外出意向の低い者も、体調の改善や地域への親しみの増加を効果として自覚していた。
2)訪問保健指導:追跡時に在宅で生活していた高齢者は、介入群では81.4%、対照群では73.3%であった。訪問指導によって各変数に有意な変化はみられなかったが、ADLについては、介入群の方が対照群よりも低下しにくい傾向がみられた。また、84歳以上の高齢者では、介入を受けなかった対照群の抑うつ度が有意に悪化していた。3)理学療法的アプローチ:在宅障害老人のうち閉じこもりの特徴は、障害の重症度が高い、通所リハ施設を利用していない、個別理学療法の機会がない、であった。補装具処方や住宅改造は、閉じこもりの有無にかかわらず多くが行っていた。外出に関する不安や困難性の分析からは、「閉じこもり」において介護技術に関する問題が多い傾向がみられた。これら介入研究の実績を踏まえて、「住民参加型の閉じこもり予防事業マニュアル」、「介護予防のための訪問指導アセスメントシート」、「介護予防のための訪問指導のマニュアル」、「訪問理学療法マニュアル」をまとめた。これらマニュアルは、全国市区町村において介護予防担当スタッフが介護予防事業を展開する上で大いに役立つであろう。5.「閉じこもり」高齢者の生活行動量リズム:37人中「閉じこもり」は17人(45.9%)、「非閉じこもり」は20人(54.1%)であった。「閉じこもり」群の一日平均行動総量は「非閉じこもり」群の約85%で、一日平均行動総量が18万カウント/日 以下の者の出現比率は、「閉じこもり」群で13/17、「非閉じこもり」群で8/20であった(χ2=4.498, p<0.05)。行動量リズム異常の出現比率は、それぞれ4/17、4/20であった。閉じこもりがちな独居高齢者では生体リズム同調が乱されている可能性が示唆され、積極的な生活リズム同調強化の手法導入による行動量リズム異常の改善が必要と考えられた。
結論
1.閉じこもり状態そのものが、生活機能や認知機能低下のリスク要因であり、寝たきりや痴呆の促進要因といえる。
2.閉じこもりの原因としては、歩行障害、IADL障害、難聴、抑うつ傾向、生活リズムの減弱が重要であった。これらは閉じこもりの一次予防にむけ特に考慮すべき課題である。
3.外出頻度は地域在宅高齢者の健康指標の一つである。
4.住民主体型の閉じこもり予防事業は、参加者の生活への波及効果は少ないが、生活のはり、体調の改善、地域への親しみなど心理面への効果を認めた。
5.保健師による訪問保健指導は、虚弱高齢者の在宅生活継続率を上げ、ADLの低下を抑制できる可能性が示唆された。
6.理学療法サービスのなかに、閉じこもりの解消にむけた介護者に対する介護技術指導を含める必要がある。
7.閉じこもり傾向があり、生体リズム同調が乱されている高齢者に対しては、積極的な生活リズム同調強化の手法導入による行動量リズム異常の改善が必要である。

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