高齢者のターミナルケアにおけるケア及びリハビリテーション技術の標準化に関する研究-「ハイリスク・体力消耗状態」の観点から

文献情報

文献番号
200200278A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者のターミナルケアにおけるケア及びリハビリテーション技術の標準化に関する研究-「ハイリスク・体力消耗状態」の観点から
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
木村 伸也(愛知医科大学リハビリテーション部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
3年間の研究期間において、高齢者のターミナルケアにおけるケア及びリハビリテーション技術を「ハイリスク・体力消耗状態」の観点から標準化することを目指す。今年度は、高齢者のターミナルケアにおけるリハビリテーションプログラムの研究として末期がん患者の障害像の研究、ターミナルケア期のケアアプローチの研究として廃用症候群についての看護職の知識と対応に関する調査を行った。これに基づいて、高齢者ターミナルケアにおけるリハビリテーションとケアの共有すべき目的と技術に関して考察した。
研究方法
(1)高齢者のターミナルケアにおけるリハビリテーションプログラムの研究-末期がん患者の生活機能と障害   
末期がん患者35例の生活機能と障害をWHO国際生活機能分類に基づいて調査した。情報源は診療録、調査領域は心身機能、活動、参加とした。活動については実行状況の第1評価点を評価した。
(2)ターミナルケアにおけるケアアプローチの研究-廃用症候群に対する看護師の知識と対応に関する認識調査
呼吸循環器系、消化器系の末期がん患者あるいはその他の臓器不全でターミナル期にある患者を診療している内科・外科病棟(一般病院)の看護師76名を対象として、アンケート調査を行った。アンケートの内容は①自分の勤務する病棟に廃用症候群の患者はどれぐらいいるか。(頻度についての認識)、②廃用による心身の変化はいつごろから始まるか。(早期対応の重要性についての認識)、③廃用症候群を予防するための全身的活動性向上のアプローチ方法(実際のケアの方法についての知識)、④廃用症候群に含まれる症候(廃用症候群に着いての知識)、⑤廃用症候群への対応のための看護とリハの役割(リハと看護の協力についての意識)を問うものとした。
結果と考察
(1)末期がん患者の生活機能と障害像
心身機能第2レベルでの生活機能では、神経筋骨格と運動に関する機能、感覚機能と痛み、心血管系・血液系・免疫系・呼吸器系の機能がそれぞれ100%と全例に機能障害を認めた。ついで消化器系・代謝系・内分泌系の機能に94.3%、精神機能に88.6%、尿路・性・生殖の機能に82.9%、機能障害を認めた。以上のうち、運動機能における特徴として、脳卒中や脊髄損傷などの運動麻痺を特徴とする疾患と違い、筋持久性の機能100%と全例に障害を認めたのをはじめ、筋力の機能97.1%と高率であったのに対し、歩行パターン機能42.9%、運動反射機能14.3%、随意運動の制御機能11.4%、筋緊張の機能8.6%と頻度は比較的少なくなった。関節拘縮など含む関節と骨の機能についても17.1%と比較的少なかったが、ここに問題が起こっているものは、骨転移による易骨折性を持っている者であった。
活動と参加では、家庭生活、対人関係がそれぞれ100%、運動・移動97.1%、主要な生活領域(教育・仕事・経済)が91.4%、セルフケア88.6%において、比較的高率に障害を認めた。一方、一般的な課題と要求44.4%、学習と知識の応用37.1%、コミュニケーション25.7%と比較的障害の頻度は少なかった。以上のうち、移動・セルフケアに生活機能では、交通機関や手段を利用した移動100%、歩行と移動94.3%と移動に関する項目が最も高率に障害をみとめた。次に、セルフケアをみてみると、自分の身体を洗うこと91.4%、排泄60%、身体各部の手入れ54.3%、更衣51.4%、健康に注意すること48.6%、食べること45.7%、飲むこと40%という結果であった。その他、物の運搬・操作は74.3%、姿勢の変換と保持は68.6%に障害を認めた。以上より末期がん患者の障害増はハイリスク体力消耗状態を中心とするものであることが示された。
(2)廃用症候群に対する看護師の知識と対応に関する調査
局所性廃用症候について多くの看護師が知っているのに対して、全身性廃用症候について知っているものはかなり低かった。廃用症候群としての認識、特に全身性廃用症候の重大性についての正しい知識の啓発は、ターミナル期のケアアプローチを行う上できわめて重要であると考えられた。廃用症候がいつごろから発生すると認識するかについて、自らの病棟には、廃用症候群の患者はほとんどいないと回答した者が49%あったこと、廃用症候群は入院して1週間以上してから発生すると回答した者が38%いたことなどと、先の問題点をあわせて考察すると、対応すべき廃用症候は褥創や拘縮などの局所的なものに偏っているようである。 対応法についての質問では、少量頻回訓練の必要性、車いす自立の有害さなどについて正答した者が多かったが、これは2者択一的選択で問うているので正解率は高めに出たものと思われる。しかしリハ本来病棟で行うという点についての正答率が低かったことは、やはり本格的なリハは訓練室で行うという意識、すなわち本来生活の場こそリハの中心であるという考え方は十分普及していないことを示すものといえよう。
(3)高齢者ターミナルケアにおいてリハビリテーションの目標設定の方法論、ADL訓練、インフォームドコオペレーション、廃用症候群への対応はケアにおいても共有すべき技術と考えられる。
結論
(1)高齢者のターミナルケアにおいても末期がん患者の障害像は、ハイリスク・体力消耗状態の障害像を呈する者が中心になるということが国際生活機能分類によって確認できた。
(2)高齢者のターミナルケアにおける廃用症候群の影響について、さらに詳細な実態の解明が必要である。そのためにケアに従事する看護師などへの廃用症候群に関する啓発活動の重要性が明らかになった。

公開日・更新日

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