アグリカン遺伝子ノックインマウスの作製による軟骨破壊機序の解析(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200275A
報告書区分
総括
研究課題名
アグリカン遺伝子ノックインマウスの作製による軟骨破壊機序の解析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 秀人(愛知医科大学分子医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 木全弘治(愛知医科大学分子医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、「軟骨破壊の決め手となるアグリカンIGDドメインの分解機序を、最先端の遺伝子操作技術の駆使により同ドメインを人為的に変化させたノックインマウスモデルを用いて解明すること」である。
慢性関節リウマチ、変形性膝関節症等の進行性関節破壊疾患に於ける最も重要な問題は関節軟骨の破壊に伴う運動機能の低下である。軟骨組織の主成分であるプロテオグリカン会合体は、水分を貯溜し硝子様形態と弾力性を軟骨に与えている。この会合体は、アグリカンのアミノ側球状ドメイン(G1)でヒアルロン酸とリンク蛋白の両者と結合し、これら三者の結合によって会合体が安定化する。会合体の保水作用に基づく軟骨の耐久性は、アグリカンの有する多数のコンドロイチン硫酸鎖によるものであるが、G1ドメインに隣接するIGDドメインの切断によって会合体の構造は破壊され、その機能は失われる。関節破壊は、蛋白分解酵素のIGDドメイン切断による会合体構造の破壊によって進むと考えられる。慢性関節リウマチや変形性膝関節症患者の関節液中のアグリカン分解産物の解析から、IGD内の前半約三分の一のEGE|ARGの部位を切断する酵素の存在が提唱されていたが、近年、その酵素がA Disintegrin and Metalloproteinase with Thrombospondin Motif、ADAMTS)-4、別名アグリカナーゼ1としてクローニングされた。その後の生化学的研究により、同酵素がアグリカンIGDの特異的部位の他に、そのC-末端側のコンドロイチン硫酸付加ドメインの4カ所で切断することが明らかとなった。しかし、アグリカンの主たる機能はIGDよりC-末端側のCSドメインに存在するので、IGD内の特異的部位の切断がアグリカン分解の最も重要なプロセスと考えられる。そこで私は、IGD内のアグリカナーゼ切断部位を除去したアグリカンを産生するマウスをノックインの技法を用いて作製し、生体内における、同酵素のアグリカン代謝、および軟骨破壊性疾患における役割を明らかにする研究を立案した。
種々の蛋白分解酵素によるアグリカンの分解に関する研究はもっぱら生化学的手法によるものであった。今後、関節破壊の機序を解明するためには、生体内という統合的微小環境下における各分子の機能を解析していかなければならない。従って、最先端の遺伝子操作技術を駆使したマウスモデルを用いた解析が不可欠であると考えている。
研究方法
初年度(平成12年度)はノックインコンストラクトの作製、ES細胞への同コンストラクトの導入、相同組換えを有するES細胞株のスクリーニング、さらにはキメラマウスの作製までを行った。次年度、本年度(平成13、14年度)は引き続きキメラマウスの作製と生殖細胞系列への伝搬(germ line transmission)をめざした。
初年度に得られた相同組換えを有するES細胞クローン4種、IGDKI-14、IGDKI-78、 IGDKI-106、 IGDKI-189)のうちIGDKI-14とIGDKI-78を用いて胚盤胞導入法によるキメラマウスの作製を日本エスエルシー株式会社に委託した。また、これらのうちIGDKI-106の胚盤胞導入法によるキメラマウスの作製を同様にオリエンタル酵母株式会社に委託した。
得られたマウスの遺伝子型はPCRおよびサザンブロット法にて解析した。
(倫理面への配慮)
当研究施設においては、動物愛護の観点から定められている愛知医科大学動物実験センターの「動物実験のガイドライン」に則って当該研究を行った。また、委託先の日本エスエルシー株式会社は動物愛護に関する独自のガイドラインに従って実験を行っている。
結果と考察
委託先の日本エスエルシーでは、まずIGDKI-14を胚盤胞に導入しキメラマウスを作製したところ、キメラ率70>>50%のキメラマウスが2匹得られた。これらのキメラマウスをC57Bl/6Cr雌マウスと各々計18回と10回、交配したが、germ line transmissionは得られなかった。並行してIGDKI-78の胚盤胞導入よりキメラマウスを作製したところ、キメラ率100>>70%のキメラマウスが3匹、70>>50%のキメラマウスが1匹得られた。これらを同様にC57Bl/6Crと交配したがgerm line transmissionは得られなかった。委託先の日本エスエルシーでは、動物センター内に感染が検出され、除感染に相当の労力を費やしており、胚盤胞導入の追加依頼が難しい状況にあったので、本年度(平成14年度)はオリエンタル酵母株式会社に胚盤胞導入によるキメラマウスの作製を委託することにした。再び、上記の4クローンを再解凍し、細胞の状態を形態学的に確認し、日本エスエルシーにて高いキメラ率のマウスが得られたIGDKI-78と細胞の状態が最も良好と思われるIGDKI-189の胚盤胞導入を依頼し、ほぼ100%までのキメラマウスを得ることができた。これらのマウスとC57Bl/6マウスを交配させ、現在F1マウスの遺伝子型を解析中である。
本年度は、引き続きキメラマウスの作製を行い、germ line transmissionを試み、約100%のキメラ率を有するマウスが得られた。germ line transmissionが確認され、現在F1マウスの遺伝子を解析中である。研究計画は著しい遅延を余儀なくされたが、germ line transmissionが得られたので、以降の行程は滞りなく進めることができるものと期待している。本研究は目的の達成まで期間後も引き続き行う予定である。
結論
3年間の事業として立案された本研究の二年目にあたる平成13年度では、キメラマウスの作製と相同組み換え遺伝子の生殖細胞系列への伝搬(germ line transmission)をめざした。キメラ率70%以上のマウスが3匹得られたにもかかわらず、germ line transmissionは得られなかった。現在、別の委託先に胚盤胞導入を依頼中である。研究計画は著しい遅延を余儀なくされたが、germ line transmissionが速やかに得られれば、以降の行程は滞りなく進めることができるものと期待している。作製されたノックインマウスを用いた今後の研究によって、軟骨破壊機序が解明されるものと期待される。

公開日・更新日

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