高齢者の骨軟骨疾患の発症病理及び再生医学的治療に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200274A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の骨軟骨疾患の発症病理及び再生医学的治療に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 研(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 澁谷浩司(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
  • 南 康博(神戸大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
21世紀を迎える現在、我が国はすでに先進各国の中でもいち早く超高齢者社会へと突入しつつある。そういった中で、高齢者の運動能力を著しく阻害する骨軟骨疾患は、「寝たきり」の引き金であり、また、臥床状態の持続はさらに骨軟骨の構造的かつ機能的減衰を助長し、最悪のシナリオを作り出す原因であると考えられる。このような現状で、効果的な骨軟骨組織の機能維持・回復技術の開発により、高齢患者が完全社会復帰とは言わずとも、「寝たきり」から脱却し、家庭生活に復帰できる状態にまで回復させることは、とりもなおさず超高齢者社会において極めて重要な課題の一つであるといえる。本研究では、骨粗鬆症や変形性関節症、ならびに骨折治癒遅延等、高齢者のかかえるさまざまな骨軟骨疾患が、加齢に伴う骨軟骨形成および再生能力の低下を特徴的な病理・病態とする点で共通していることに着目する。また、酵素阻害剤等の機能抑制系が中心である薬物療法の体系において、機能回復・機能賦活化を作用とする治療法の開発は新しいカテゴリーに属し、それだけに網羅的かつ高度な分子メカニズムの理解なくして実用性は望めない。そのため、本研究課題においては、分子レベルの基礎研究に重点を置くことにより、細胞分化から組織再生に至る分子基礎についてできるだけ多くの知見を得ることをめざす。そこで、組織形態形成・再生に関する分子機構の解明をin vitroからin vivoにわたる研究体制によって進めることにより、高齢者の骨軟骨疾患の病理・病態に対する分子レベルでの理解ならびに組織機能維持・回復に関する知見を得ることを目的とする。渡辺は骨格系組織構築に必須である骨芽細胞の分化について、分子レベル・細胞レベルについて解析を行うとともに、加齢動物ならびに早老モデルマウスをもちいて、加齢と幹細胞の増殖・分化に関する知見を得ることを目的とする。澁谷は、骨軟骨組織形態形成に必須である骨形成因子(BMP)ならびにWntのシグナル伝達機構の解明により組織構成細胞分化の分子メカニズムを明らかにする。南は、新規の骨軟骨形態形成疾患モデルならびに骨折モデルの病理・病態解析を行い、組織形態形成に関する情報を得る。骨折モデルを用いた組織修復機構の研究は、組織再生から機能回復を導くといった新しい再生医学の基礎となることが期待される。本研究では、骨軟骨組織維持機構の解明は、予防医学的にも有効であると考えられ、超高齢社会を迎えて、高齢者の生活・医療・福祉に貢献するものと考えられる。
研究方法
ATM (ataxia telangiectasia mutated)のヘテロ接合体(+/-)同士の交配より、野生型(WT)、ヘテロ型(He)、ノックアウト(KO)の産仔を得て、新生児の頭骸冠ならびに尾部より、それぞれ骨芽細胞ならびに線維芽細胞を調製し、解析に用いた。また、ATMKOマウスより骨髄を取り出し、6ウェルプレートにウェルあたり1.5×107細胞(CFU-F)もしくは2.5×107細胞(CFU-OB, CFU-Adip)を撒きこみ、15%FCS及び1 mM Asc-2-Pを含むPhenol Red-free ?MEM培地(CFU-OB)もしくは15%FCS及びDMI (dexamethazone/ methylisobutylxanthine/ insulin)を含むPhenol Red-free ?MEM培地(CFU-Adip)で培養した。培地は5日毎に交換し、培養10日目にalkaline phosphate活性染色(CFU-F)を行い、ALP陽性コロニー数をカウントした。一方、培養28日目にAlizarin Red染色を行い、陽性コロニー数をカウントし、骨芽細胞分化指標CFU-OBとした。また、脂肪細胞分化指標であるCFU-Adipは、oil red-O染色し、油滴染色コロニーをカウントした。前年度までに
確立したMsx2活性制御系をマウス骨芽細胞株KUSA-A1細胞に導入し、脱分化を観察するとともに誘導後、24時間、48時間後のRNAを調製した。また、同様にERTMの系を、骨芽細胞分化に必須であるZn型転写因子Osterix(Osx)に応用し、骨芽細胞分化におけるOsx下流分子についてマイクロアレイ法を用いて探索を行った。Xenopus NLK (xNLK) mRNAの発現が、神経胚から初期尾芽胚において、眼、前頭部を含む神経領域に観察されたことから、xNLKが神経誘導に関与する可能性が考えられた為、Xenopusを用いた実験を行った。Ror2及びWnt5a遺伝子ノックアウトマウスの詳細な表現型解析を行った。また、Wnt5a, Ror2及びFrizzleds (Fzs)の物理的・機能的共役について、生化学的・発生生物学的解析により検討した。さらに、Ror2と会合するアダプター分子Dlxin-1/NRAGEについて、生化学的・細胞生物学的手法により両分子の機能的連関解析を行った。また、Cre/Loxpシステム (flox/flox Ror2マウスとProtein-O/Creトランスジェニックマウスの交配により)を用いて、神経堤細胞特異的Ror2ノックアウトマウスの作成を行った。なお、時期・部位特異的ノックアウトマウスの作成に当たり、Ror2(およびRor1)に特異的なポリクローナル抗体の作成を行った。(倫理面への配慮)動物実験は各所属動物実験施設指針等に則り、動物愛護上の配慮をもって行った。
結果と考察
渡辺は、早老症モデルマウス(ATMKO)の骨病態について細胞レベルの解析を行った。骨髄細胞より基質接着性により分離した間葉系細胞について、コロニー法(CFU-F, CFU-OB, CFU-Adip)により評価を行った。ATMKOマウス骨髄由来細胞は、CFU-F及びCFU-OBいずれにおいても顕著な低値を示したが、頭蓋冠由来骨芽細胞では分化・石灰化に差が見られなかったことから、骨病態は間葉系幹細胞のself-renewalに問題があり、組織再生不良による老化・老年病様病態を呈している可能性が示された。また、Msx2による多分化能を有する間葉系幹細胞誘導・活性化系を確立した。一方、Wntシグナルは多様な生物活性を制御しており、最近、Wnt/?-catenin経路の因子LRP5が、高骨密度家系で変異があることがわかり、Wnt/?-catenin経路が、骨形成に対して促進的に作用していることが、ヒト遺伝学ならびにマウスの発生工学の実験から明らかにされた(Cell 2002, N Engl J Med 2002)。澁谷はMAPキナーゼ様分子NLKがWnt/?-catenin経路に対して抑制的に機能することを示してきた。本研究ではNLKのさらなる機能解析を行い、予定外胚葉領域にxNLKを発現させると、前頭部の神経マーカー遺伝子Otx-2の発現が誘導されることがわかった。また、?-cateninとの結合能を持つHMG型転写因子であるSoxタンパク質に着目し、NLKとの機能的相互作用について検討した結果、xSox11がChordinにより発現誘導されること、xNLKとxSox11が協調して神経誘導を行うことが示され、また、xNLKとxSox11が複合体を形成することが確認された。さらに、xSox11やChordinによる神経マーカー遺伝子の発現誘導は、キナーゼ活性欠損変異型であるxNLK-KNの発現によって抑制されることがわかった。南は、Ror2, Wnt5aノックアウトマウスの病態解析ならびに分子・細胞レベルの解析から、Ror2がWnt5aの受容体として機能し、JNKの活性化を介してPCP経路に関与することが明らかとなった。また、CKI?によるRor1, Ror2のチロシン自己リン酸化・チロシンキナーゼ活性化の機序が示された。また、Ror2がチロシンキナーゼ活性非依存的にアダプター分子Dlxin-1/NRAGEの細胞内局在を制御し、Msx2による転写を調節することが明らかになった。
結論
加齢マウス同様、骨粗鬆症様病態を示す早老マウスモデルにおいても、組織再生不良による骨形成不全が老化・老年病症状の原因である可能性を示した。正常な骨形成に必須であるWnt/?-catenin経路がNLKにより抑制的に制御されている事を組織形成系を用いて明らかにした。軟骨形態形成に必須であるRor2のリガンドがWntであることを証明するとともに、Msx2の転写調節制御のメカニズムを明らかにした。

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