大腿骨頚部骨折の発生頻度および受傷状況に関する全国調査(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200273A
報告書区分
総括
研究課題名
大腿骨頚部骨折の発生頻度および受傷状況に関する全国調査(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
萩野 浩(日本整形外科学会,鳥取大学)
研究分担者(所属機関)
  • 阪本桂造(昭和大学)
  • 中村利孝(産業医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国における大腿骨頚部骨折発生の現状を把握し、受傷状況を明らかにすることで、本骨折予防の手段を得ること目的とした。また、治療方法の調査結果に基づいて、わが国における本骨折治療の現状を明らかにすること試みた。さらに大腿骨頚部骨折治療を中心的に行っている施設を定点観測病院として選択し、大腿骨頚部骨折の予後を含めた詳細を、経年的に調査することを目的とした。
研究方法
[大腿骨頚部骨折の発生頻度および受傷状況に関する全国調査] 1.調査対象施設:日本整形外科学会より認定された研修施設2,291および臨床整形外科有床診療所1,493の3,784施設を調査対象とした。2.調査期間および対象骨折:対象の医療機関を受診した患者の中で、平成13年に受傷した大腿骨頚部骨折(大腿骨近位端骨折)の患者を解析対象とした。
[大腿骨頚部骨折の治療実体に関する研究]1.定点観測施設の選定:大腿骨頸部骨折治療に造詣の深い施設158施設を調査対象とした。2.調査項目:受傷時の状況、治療法、退院先、合併症、骨折の既往などに加えて日常生活活動(ADLと略す)自立度を術前と術後1年で評価した。
結果と考察
[大腿骨頚部骨折の発生頻度および受傷状況に関する全国調査]1.回収率:日整会認定研修施設では51.5%、臨床整形外科医会有床診療所では55.4%から調査票が返送された。
2.患者数:合計46,289例の登録があり、このうち35歳以上の症例44,469例が登録された。性別は男性9,193例、女性35,097例(性別記載なし179例)であった。受傷側は右が21,650例、左が22,565例(受傷側記載なし254例)、左右両側骨折例473例であった。
3.性・年齢階級別発生頻度:性・年齢階級別の患者数では、男性は80-84歳が1,595例と最も多く、次いで75-79歳が1,506例で多かった。女性では80-84歳が7,839例、85-89歳が8,217例と多く、80-89歳の患者が全体の46%を占めていた。
4.骨折型別患者数:骨折型別では内側骨折が19,027例、外側骨折が24,926例(骨折型不明516例)であった。内側骨折は70歳代前半までは外側骨折患者よりも多いが、70歳代後半からは外側骨折の方が多くなり、高齢になると外側骨折が多くを占めるようになっていた。
5.骨折日:受傷月別の患者数では1月が4,351例と最も多く,次いで11月の3,876例と多かった。全体として冬季に多発する傾向が見られた。
6.受傷の場所:受傷の場所は屋内での受傷が30,095例、屋外が12,172例(不明2,202例)と屋内での受傷が約7割以上を占めていた。
7.受傷原因:受傷の原因は立った高さからの転倒が33,095例と最も多く、超高齢者ほど、また前期高齢者より後期高齢者で、軽微な外傷が原因となっていた。介護時に発生するおむつ骨折は、全症例中97例(0.22%)に認められた。
8.治療法:治療法に関する調査結果では、内側骨折・外側骨折でそれぞれ93.0%、93.7%に観血的治療が選択されていた。このうち内側骨折では人工骨頭置換術が71.4%に、骨接合術が28.1%に施行されていた。外側骨折では全症例の97.9%で骨接合術が選択されていた。
9.入院期間:入院期間は1~364日(平均53.4±35.9日)であった。年齢群別に入院期間を比較すると、90歳未満が平均54.0日であるのに対して、90歳以上では49.9日で、90歳未満群の入院期間が長かった。
[大腿骨頚部骨折の治療実体に関する研究]1.退院転帰と退院先:回答空白であった542件を除外した回答合計3,641件の退院転帰調査では、3,280名(90.1%)が軽快となり、192名(5.3%)が不変、169名(4.6%)が死亡していた。3,949件の退院先(状況)は、1,948名(49.3%)が自宅へ帰り、療養型病床群へ690名(17.5%)、特別養護老人ホームへ366名(9.3%)、老人保健施設へ306名(7.8%)などであった。
2.治療方法と手術術式:治療方法は、空白548件を除いた回答合計3,635件中3,414名において手術的治療が選択され非手術は220名であった。非手術例220名の退院時転帰を調べると、記載の無いのが36件で、軽快した者70名、不変が80名、死亡した者33名、その他1名であった。なお死亡例の内訳は男性においてやや外側骨折が多いが女性ではあまり差がなく、老健施設や病院など何等かの介助を受ける施設での頸部骨折発生が解析人数29名中16名であった。また死亡例は合併症を多く有し、女性の外側骨折において平均4.2疾患があった。解析可能であった内側骨折手術例及び外側骨折の術式別手術法は内側骨折においては人工骨頭置換術が1,028名(70.1%)と最も多く、次いでスクリュー固定が304名(20.7%)と人工骨頭置換術が最も好んで使用された。外側骨折はCHSスクリューが1,215名(64.4%)、ガンマネールが397名(21.0%)と続き、エンダー釘は60名(3.2%)に止まっていた。
3.骨折前のADL自立度:解析可能回答合計4,119件、解析除外空白例64件をもとに骨折前のADL自立度を調べた。「交通機関等を利用して外出する」完全自立状態であったのは1,245名(30.2%)、「隣近所へなら外出する」助力を要しない自立度であったのは1,072名(26.0%)、と頸部骨折を受傷した56%の人達の受傷前は、自立し活動性が比較的高かったといえる。「介助により外出し、日中はほとんどベッドから離れて生活する」720名(17.5%)を加えれば、頸部骨折例は73.7%となり比較的元気な人達であったことが伺える。
4.治療1年後のADL自立度
治療1年後の予後調査(一部1年未満の症例も含む)では回答合計3,402件中、2,994名(88.0%)が生存し、407名(12.0%)が死亡していた。1年後のADL自立度は完全自立である「交通機関等を利用して外出する」は798名(22.5%)と外傷前より7.7ポイント低下、「隣近所へなら外出する」は580名(16.4%)とこれも9.6ポイント低下、一方「介助により車いすに移乗する」は367名(10.4%)と6.4ポイント増加し、明らかに自立度の低下と介護度の増加が認められた。手術前後のADL自立度を前期高齢者と後期高齢者に分け、個々の自立度変化は、621名の前期高齢者で術後に術前と同じADLが完全自立である1を維持した人は39.6%で1より低下した人は13.0%また不明が2.6%。解析可能であった3,179名の後期高齢者で術後に1を保持できた人は30.0%・1より低下した人11.0%・不明1.9%。術前高齢者の2から1へ改善した人が前期高齢者で0.6%、後期高齢者で0.8%・術前と同じ2のレベルに留まっていた人は前期高齢者で10.3%・後期高齢者で13.1%、2よりADLが低下した人は前期高齢者で8.4%・後期高齢者で14.2%・不明が前期高齢者で1.3%・後期高齢者で3.1%。レベル3から2や1と改善した人は前期高齢者で0、後期高齢者で0.4%・現状維持であった人は前期高齢者で5%・後期高齢者で7.9%・ADLが低下した人は前期高齢者で3.7%・後期高齢者で8.7%・不明が各々1.9と2.8%、と術前のADLレベルが低い例であっても改善された例があった。改善した人が占める割合は前期高齢者で1.2%、後期高齢者で1.7%であった。
5.頸部骨折と死亡率:非手術221名のうち予後調査が完備していた169名を調べると、114名は生存していたが、55名は死亡し、死亡率は32.5%であった。非手術例は、保存的療法が選択されたと考えるよりも手術不可能なほどリスクの悪い症例であったと考えられる。治療1年後の予後調査で記載の完備した3,401件より手術術式別死亡率を調べた結果、術式だけを考えれば、人工骨頭置換術7.1%、人工股関節置換術7.1%、スクリュー固定7.8%が死亡率7%台と低く、次いでエンダー釘と続き、総平均死亡率は10.3%であった。
6.頸部骨折1年後の生存率:生存率の最低は95歳時の47.4%で、80歳超で生存率低下傾向を示した。なお39から40歳時の生存率低下は高度外傷が示唆された。
結論
大腿骨頚部骨折の患者数は80歳台がその大半を占め、高齢となるに従い外側骨折の比率が高まる。高齢者ほど屋内で軽微な外傷が原因で受傷する。本骨折の治療は93%の症例で手術療法が行われ、平均入院期間は53日であった。骨折前のADL自立度は56.2%の者が自立していたが、1年後の自立は38.9%と17.3ポイントの低下が観察された。1年後生存率では80歳を超えると悪化傾向を示した。

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