廃用性骨萎縮のメカニズムと治療法の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200269A
報告書区分
総括
研究課題名
廃用性骨萎縮のメカニズムと治療法の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
池田 恭治(長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 高垣裕子(神奈川歯科大学)
  • 中村利孝(産業医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者における運動低下や寝たきり状態は、骨の粗鬆化を加速させる大きな要因である。こうした力学的刺戟の受容やシグナル伝達は主として骨細胞によって行われると考えられている。骨代謝を営む細胞として、破骨細胞や骨芽細胞の機能や発現する遺伝子群については数多く知られ、一部は骨代謝のマーカーとして臨床にも応用されているが、第三の細胞といわれる骨細胞osteocyteについては、特異的な遺伝子産物は知られておらず、in vivoでの機能も謎である。本研究では、骨細胞が果たす役割をin vivoで解明しまた骨細胞特異的な分子マーカーを包括的に同定するためのシステムとして、マウスがジフテリア毒素に対して抵抗性を示すことを利用し、骨細胞にジフテリア毒素に感受性をもつヒト型受容体を発現させたトランスジェニックマウスを作成し、任意のタイミングで骨細胞のないマウスを樹立するシステムの開発を試みた。一方、既知の遺伝子の荷重・非荷重に対する骨反応における役割を知る目的で遺伝子改変モデルマウスなどを用いて廃用性の骨萎縮のメカニズムを解析した。
研究方法
Mouse genomic library Lambda FIX II(Stratagene社)よりマウスDMP1遺伝子のプロモーター領域を単離した。予想される転写開始点下流230bpから転写開始点上流1.0 kb 1.5 kb 1.7 kb  2.5 kbまでの長さのプロモーター領域をpGL3-Lusiferase basic vector (Promega社) に組み込み、DMP1を発現するMC3T3-E1 細胞に導入して転写活性を調べた。標的とする骨細胞特異的に働くことが予想されたマウスDMP1 プロモーター転写開始点上流1.5 kb および9.523 kb 下流翻訳開始点(ATG)の3bp手前までを含んだDNAそれぞれをpBluescript II SK(+)プラスミドベクターのマルチクローニングサイトであるNot I サイトに導入した(以下pDR1.5、pDR9.5)。次にpDR1.5については、β-globinイントロン配列下流にHB-EGF cDNA、SV40poly (A)signal 配列を連結したDNA断片をマルチクローニングサイトであるBam HI/EcoR Vサイトに導入した。また、pDR9.5はDMP1イントロン1を含んでいるためHB-EGF cDNA、SV40poly (A)signal 配列連結したものを同様に導入した。蛋白合成阻害率を評価した。培養細胞の系で毒素感受性獲得を確認したトランスジーン( pDR1.5 , pDR9.5)よりplasmid を制限酵素Sac II /Cla I で消化しアガロースゲル抽出した後マウス受精卵へ注入した。離乳後、尻尾よりDNAを抽出し、トランスジーンの有無をPCR法にて確認した。
30週齢の雌Wistarラットを、大学動物舎の基準下に自由活動させる(フリー)か、狭めたマウスケージ内で飼育する(運動制限)条件でそれぞれPTHとプラセボ投与下に6週間飼育し、骨密度、骨形態のパラメータならびに骨中タンパク・mRNAの発現を検討した。PTHは旭化成(株)より供与された酢酸テリパラチドを、10μg/kgないしそれ以下の濃度で週三回皮下に投与した。体重あたりの摂餌量は、粉砕したペレットを1/2量の蒟蒻と混ぜて寒天で固化したものを摂餌量の多い個体に必要量与えて調節した。 p53遺伝子欠損マウスを飼育、交配、繁殖した。後肢を不動化した状態でも、ケージ内をある程度自由に移動でき、摂食、飲水は自由に可能である。正常対照群も同じデザインのケージで飼育した。食餌は、標準的なCE-2(Clea Japan Inc.、東京)であり、1.25%カルシウムと1.06%リン、2.0 IU/gビタミンD3を含有している。8週齢の雄性マウスを実験に用いた。摂餌量はすべての実験群間でマッチさせた。なお、実験のプロトコールは、産業医科大学動物実験倫理委員会において承認されている。 8週齢の雄性、p53遺伝子欠損マウスp53(-/-)、野生型マウスp53(+/+)をそれぞれ2群に分けた。グループ1は、1週間の不動化(後肢を膝関節伸展位でバンデージ固定)を行った群である。グループ2は、1週間、正常荷重を行った群(対照群)である。それぞれのグループにおいて、p53(-/-)とp53(+/+)を比較した。各遺伝子における各グループあたりのマウス数は、組織形態計測用に6匹、骨髄細胞培養実験用に6匹、RT-PCR用に3匹の計15匹であり、p53(+/+)30匹、(-/-) 30匹の合計60匹である。脛骨近位二次海綿骨で骨形態計測を行った。
結果と考察
マウスDMP1遺伝子プロモーターを単離した。スクリーニングにより得ら
れた配列から転写活性に必要な領域を、DMP1を発現することを確認したマウス骨芽細胞株(MC3T3-E1)を用いてルシフェラーゼアッセイ法によって調べた結果、転写開始点から上流1.5 kbおよび 2.5 kb を含むフラグメントで高い転写活性が見られた。さらに転写開始点1.0 kb以下に欠失すると転写活性は著しく低下した。またハムスター線維芽細胞
株(CHO)ではどのフラグメントにも転写活性が見られなかった。このことからマウスMC3T3-E1細胞で転写活性を示すのに必要なマウスDMP1 プロモーター領域は1.5 kb以内に存在することが分かった。方法に記載したジフテリア毒素受容体(HB-EGF)遺伝子のcDNAを二種類のDMP1プロモーター(1.5 kbおよび9.5kb)の下流に連結したトランスジーン(pDR 1.5 kbもしくはpDR 9.5 kb)をMC3T-E1細胞にリポフェクション法で導入しジフテリア毒素に対する感受性を調べるたところ、両トランスジーンを導入した細胞ともに、コントロールとして用いた遺伝子導入していない細胞に比べて、最大70%の蛋白合成阻害が見られた。またマウス骨髄由来ストローマ細胞株(ST2 )を用いた場合には顕著な蛋白合成阻害は見られなかった。以上の結果から構築された二種類のコンストラクトは少なくともDMP1遺伝子を発現する細胞特異的に機能的なジフテリア毒素受容体を発現する能力があることが分かった。pDR 1.5 kbは、1回目は受精卵215個にDNAを打ち込み、離乳子数は6匹(♂4匹 ♀2匹)、うちtransgeneの存在を確認したのは3匹(♂2匹 ♀1匹) である。これらは、PCR法より DMP1promoter からβglobinの配列の一部を増幅することで確認した。2回目は受精卵100個にinjectし、産子数は13匹で4月上旬までには離乳の予定である。DR 9.5kbに関しては、受精卵216個にinjectionを行い、3月中ごろに出産の予定である。
拘束開始後7日目未明の血中コルチゾール濃度の比較より、本実験系による運動制限の条件はラットにいわゆるストレスを与えないと考えられた。比較のために測定した尾部懸垂条件においては血中コルチゾールは有意に高値で、ラットがストレス下にあることが判った。脛骨近位端近傍の皮質骨において、骨密度は運動制限個体で最も低かった。フリー、フリー/PTHの順で有意に高かった。運動制限個体の骨密度に運動とPTHそれぞれに由来する上昇分を加えた値よりも、両者の存在下に飼育したフリー/PTH個体のBMD値が有意に高かった。骨中の細胞がアナボリックな応答で発現するCOX-2やIGF-IのmRNAレベルは運動制限下で特に低く,PTH投与と歩行により回復し、フリー/PTHにおいては前項と同様相乗的な昂進が見られた。逆にカタボリックな応答で破骨細胞が発現するTRAPは,運動制限個体の骨にのみ見られた。皮質骨を細分化して検討したところ、運動制限群と比してコントロール群では歩行によってあまり大きな負荷のかからない部位でPTHによる骨形成BFRの増大が顕著に見られ、そのような部位では骨細胞が活性化されていた。大きな負荷のかかる部位ではBFRは大きく、PTHによる更なる増大は顕著でなかった。 固定していないマウスの脛骨では、海綿骨構造、骨形成、骨吸収は、p53(-/-)とp53(+/+)で差はなかった。p53(+/+)では、海綿骨量(BV/TV)は、不動後1週で、正常対照群の77%にまで有意に減少したが、p53(-/-)では、減少しなかった。Calceinによる二重標識面、骨石灰化速度(MAR)、骨形成率(BFR/BS)は、p53(+/+)では、不動後1週で、正常対照群に比べて有意に減少したが、p53(-/-)では、減少しなかった。不動化後の破骨細胞数(Oc.N/BS)と破骨細胞骨接触面(Oc.S/BS)は、p53(+/+)では、有意に増加したが、p53(-/-)では、増加しなかった。TUNEL染色で陽性の骨細胞と骨髄細胞が、p53(+/+)では不動化後に増加していたが、p53(-/-)では変化がなかった。骨髄細胞培養実験で、アルカリフォスファターゼ陽性CFU-fとmineralized noduleの形成が、p53(+/+)では、有意に減少したが、p53(-/-)では、減少しなかった。不動化した脛骨の骨髄細胞では、p53 mRNAの発現が亢進していた。
結論
In vivoで任意の時期に骨細胞の死滅を誘導できる実験システムの開発を試み、そのようにデザインされたマウスを作出した。このマウスは、骨細胞を標的とした診断・治療法の開発に有用と思われる。ストレスの少ない不動化ラットモデルを開発し、軽度の運動とPTH投与が骨代謝の維持に効果があることを示した。不動化に伴う骨の減少にはp53が関与しており、p53を欠くマウスでは非荷重による骨萎縮が見られないことを明らかにした。NOやp53は廃用性骨萎縮の治療のターゲットになる可能性がある。

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