高齢者慢性閉塞性肺疾患の遺伝的病因と病態解明ならびに新治療戦略の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200267A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者慢性閉塞性肺疾患の遺伝的病因と病態解明ならびに新治療戦略の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
松瀬 健(横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 木村 弘(奈良県立医科大学)
  • 桑平一郎(東海大学)
  • 植木 純(順天堂大学)
  • 東本有司(和歌山県立医科大学)
  • 寺本信嗣(東京大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease;以下COPDと表記)は1999年の厚生省の死因順位にて第10位にランクされている。2020年には全世界的にみてCOPDの重要性は第3位になることが推定されている。わが国においても超高齢化社会に向け、今後高齢者COPDが急増することが予測され、高齢者COPDの治療戦略の策定とその地域医療における普及が重要と考えられる。昨年度までにおいては地域における各医療機関の医師における高齢者COPDの診療における実態調査ならびにわが国における肺容量減少手術(LVRS)の実態調査を行った。また包括的内科治療および初年度に作成した呼吸リハビリテーションプログラムの高齢者COPDにおける有効性につき検討を行った。本年度の研究においては1)高齢者COPDの特徴を明らかにし、また2)前年度までに検討した吸入療法に加え、薬物治療としての経口製剤の有効性を、3)包括的リハビリテーションプログラムの高齢者における有用性を検討。4)肺炎球菌ワクチンの有効性の検討、5)肺容量減少術LVRSの5年生存やその死因につき調査を行うとともに、6)COPD患者における栄養学的側面からの評価を行うことを目的とした。
研究方法
75歳以上高齢者COPD(54名)と75歳未満COPD(58名)ならびに一般高齢者(44名)の2群において、胸部CT画像所見、気道反応性、Body mass index (BMI)と肺機能との関連、在宅酸素療法の有無、合併症につき比較検討した。また、経口徐放性キサンチン製剤の高齢者COPDにおける呼吸生理学的検討を行った。さらに、包括的リハビリテーションプログラムの効果につき70歳未満(17名)と70歳以上(14名)の2群間比較を行った。COPD(42名)患者の血中抗酸化vitamin濃度の評価を実施し、正常対照群(38名)と比較検討を行った。一方、LVRSの予後調査として、回答が得られた相当数のLVRSを実施しているわが国の主要11施設の手術死亡の背景因子、5年生存率と5年間の死因の調査を行った。COPDの病態研究として、アデノウイルスの潜在持続感染の関与が指摘されているが、前年度に引き続き、アデノウイルスのE1A遺伝子を導入した肺由来細胞にて、抗プロテアーゼ阻害物質であるSLPIの産生能への影響を検討した。また前年度に引き続き解毒酵素であるglutathione S-transferase P1(GSTP1)の肺由来細胞におけるアポトーシス防御能について、HFL-1細胞を用いアンチセンスベクターのtransfectionを行い検討した。
結果と考察
高齢者COPDでは、CT上LAAがなくとも閉塞性換気障害がみられる症例が多く、加齢に伴う細気管支から肺胞までの中間領域の気腔の拡大が伴うことが特徴として示唆された。また、気道反応性にばらつきが大きく、また高齢者ではるいそうを伴うCOPD症例の頻度が多く、栄養治療の必要性がより高いことが示唆された。高齢者COPDにおいて肺炎球菌ワクチンを接種した群の方が接種未実施群に比して平均在院日数が少ないことが示され、その有効性が示された。また徐放性キサンチン製剤内服は高齢者COPDにおいて運動時呼吸困難感の改善が示された。包括的呼吸リハビリテーションプログラムは70歳以上と70歳未満との比較において、高齢者においてもコンプライアンスが良好で、両群で呼吸困難感、運動耐容能(6MWD)、QOL(SGRQ)の有意な改善が得られ、両群間で改善度に差は認められなかった。栄養カウンセリングはむしろ70歳以上群においてのみ有意な増加がみられた。また高齢者において、全身持久力トレーニング、筋力トレーニングの有用性が示された。安定期COPD患者と正
常者との比較において、抗酸化vitamin類の血中濃度を比較検討した結果、COPD患者ではretinolは禁煙指数と相関した。βカロチンはFEV1%predと相関しCOPDの進展、呼吸機能の低下に抗酸化vitamin類の関与が示唆された。全国調査におけるLVRSの手術死亡例8例中6例において死因が評価可能であったが、1例は肺血栓塞栓症で、他の5例が肺感染症と敗血症が直接死因であった。5年生存率は、57-69%と施設間で若干の差はあった。5年間の死亡原因は60%は呼吸不全、17%は悪性腫瘍、13%が心血管疾患、10%がその他ないし不明であった。アデノウイルスのE1A遺伝子を導入したヒト肺由来細胞(気道上皮細胞、肺胞上皮細胞)では、コントロールに比し有意に、抗プロテアーゼ阻害物質であるSLPIの産生が抑制されることが示され、プロテアーゼ、抗プロテアーゼの不均衡をもたらし、末梢気道肺におけるCOPDへの進展に関与していることが示唆された。GSTP1のHFL-1細胞における発現量をアンチセンスベクター導入により減少させることにより、アポトーシスが亢進することが示された。しかしJNK活性には影響が認められなかった。
結論
高齢者COPDにおいては、成人COPDと異なる特徴を有する可能性が示唆されたものの、吸入療法に加え、経口徐放性キサンチン製剤もQOLの改善に関しての有効性が示された。また非薬物療法としての包括的リハビリテーションは高齢者においても適応可能であり有効である。また高齢者COPDにおいては特に栄養カウンセリング及び栄養療法が重要と考えられた。急性増悪の予防の観点からは肺炎球菌ワクチンも重要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-