高齢者の生活障害の要因と評価に関する研究

文献情報

文献番号
200200266A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の生活障害の要因と評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
古池 保雄(名古屋大学医学部保健学科)
研究分担者(所属機関)
  • 岩瀬 敏(名古屋大学環境医学研究所)
  • 平山正昭(名古屋大学医学部附属病院)
  • 祖父江元(名古屋大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
A)高齢者の自律神経機能について
1)静脈系と筋交感神経活動(muscle sympathetic nerve activity; MSNA)との関係や,その加齢による影響はいまだ明らかではない.そこで,下腿静脈容量と血管運動神経であるMSNAの関係と,下腿静脈の充満・虚脱に体液移動が及ぼす影響および.加齢がこれらに及ぼす影響を検討する事を目的とした。 2)在宅自立高齢者における生活機能の障害に大脳循環代謝機能が関連するか否かを明らかにすることを目的とした。 3)高齢者における、めまい・失神の病態は不明な点が多い。めまい・失神の血圧調節機構を評価することを目的とした。
B)睡眠中及び食事中の自律神経活動
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)における呼吸中枢感受性については検討が乏しく、一致した見解が得られていない。高齢者の夜間呼吸における呼吸中枢の変動を検討する目的で、疾患対象としてOSASにおける高二酸化炭素に対する換気応答と血圧の変化を検討した.
C)自律神経不全症関連病態
薬物と低血圧との関連を検討する目的でパーキンソン病における起立性低血圧(OH)につき,L-dopa静注の影響を治療群,未治療群に分けて検討した.自律神経が高度に障害された臨床例を検討することにより、高齢者に発生し得る自律神経障害を予測する目的で、臨床的にPAFと診断された臨床例を検討した。
研究方法
A)高齢者の自律神経機能について
1)健康男性若年者9名(年齢31±1歳)と高齢者9名(年齢69±1歳)を対象とし,安静時,-5mmHg,-10mmHg,-15mmHgの下半身陰圧負荷(lower body negative pressure; LBNP)を施行し,MSNA,血圧,心拍数,末梢静脈圧,下腿血流量,下腿血管抵抗,下腿静脈容量,静脈伸展指数,静脈虚脱半減時間を測定した.
2)アンケートにより高次ADL機能、抑うつ状態を評価するとともに近赤外線分光法を用いて起立時における大脳循環代謝応答を測定した。 3)脳循環障害の関与が疑われた,めまい・失神患者20例(74±9歳)において, 5分間の能動的起立試験後,75gブドウ糖を負荷し,再び5分間の能動的起立試験を施行した.血圧・心拍数を連続測定し,最初の起立前後で血漿noradrenaline (NA),arginin asopressin (AVP),reninを測定した.
B)睡眠中の自律神経活動
OSASを対象に高二酸化炭素に対する換気応答と血圧の変化を検討した.
C)自律神経不全症関連
1)受動的起立試験( head-up tilt:HUT)時の筋交感神経、血圧、脈拍を連続測定し、HUTの反応性について、パーキンソン病をL-dopa治療群,未治療群に分けて検討した. 2)全例head-up tilt試験とNA静注試験を施行、2例では経過を再検。臨床的にPAFと診断され観察期間5年以上の8例(男/女=7/1;平均73歳)につき 症状を自覚した時点を初発とし臨床症状の推移を検討。
結果と考察
A)高齢者の自律神経機能について
1)高齢者では,若年者に比較して,1.安静時のMSNAが亢進し,2.下腿静脈容量および静脈伸展指数が低値を示し,3.虚脱半減時間が低下していた.このことは,静脈の構造的な変化のほか,MSNA亢進による機能的な変化の影響も考えられた.LBNP負荷では,MSNAは増加し,下腿静脈容量,静脈伸展指数および虚脱半減時間は低下した.しかし,高齢者では,静脈系のLBNP負荷に対する反応は消退した.高齢者では,血圧調節障害をきたしやすい可能性が示唆され,その要因として,静脈系の加齢による構造的変化のみならずMSNAにより調節を受ける機能的変化が重要であると考えられた. 2)脳疾患既往のない生活自立者182人の解析において、高次ADL低得点者は起立時の組織酸素化指標の低下が有意に小さく、起立5分後の総ヘモグロビン指標の増加が有意に大きかった。脳疾患既往のない生活自立者179人の解析において、抑うつ状態の強い者は起立5分後の総ヘモグロビン指標の低下が大きかった。以上の結果から、高次ADL障害や抑うつ症状は、起立負荷時における脳酸素化指標と関連することが明らかとなり、在宅自立高齢者における生活機能の障害に大脳循環代謝機能が関連する可能性が示唆される。 3)収縮期血圧が20mmHg以上上昇した起立性高血圧(orthostatic hypertensio;OHT) 7例(OHT+群)と,20mmHg未満の13例(OHT-群)に別けて比較検討した.OHT+群は,高齢者に多く,NAの基礎値が高値で,起立による反応性増加が大きく,AVP のそれは保たれていたが,reninのそれは乏しかった.ブドウ糖負荷による血圧低下の程度はOHTの有無に関係なく,明確なOHTはブドウ糖負荷により抑制されなかった。
B)睡眠中の自律神経活動
二酸化炭素負荷によるETCO2の増加と分時換気量の増加の関係を表す回帰直線の傾きはOSAS群でcontrol群より有意に大きかった.また,二酸化炭素負荷による血圧上昇反応もOSAS群で有意に大きかった.したがって,OSAS群では高二酸化炭素に対する呼吸応答はcontrol群より亢進し,二酸化炭素負荷による交感神経緊張反応が高いと考えられた.
C)自律神経不全症関連
1)未治療群ではOHはほとんど見られないが, MSNA導出不能症例が多く,潜在的自律神経障害が存在した。しかし、L-dopa静注でのOHの増悪は確認できなかった.治療群では高率にOHが存在し,L-dopa静注でさらに増悪した.筋交感神経活動(MSNA)が記録できた症例では,L-dopa静注により,MSNAが抑制されてOHが増悪しており,治療群ではL-dopa静注が中枢からの交感神経出力を抑制したと考えられた. 2)全例に高度の起立性低血圧と発汗障害を認め、安静時血中NA濃度は低値,NA静注で過剰昇圧反応を認めた。排尿障害は7例に認め何れも軽度だった。自覚症状の推移は立ちくらみ、発汗障害で初発し、便秘、失神が続き、遅れて排尿障害が見られた。呼吸障害は見られなかった。これらは過去の報告に類似したが、便秘、排尿障害はより高率で、長期PAF例では重要な症状と考えられた。また起立性低血圧も経過と共に増悪し、各症状の程度も緩徐に進行することが示された。しかし末期まで独歩可能例が多く予後は良好と考えられた。 3)Dobutamine(DOB)は心臓β1受容体選択的刺激作用を呈し、自律神経不全を呈する神経変性疾患ではsupersensitivityを呈すると考えられる。心臓自律神経評価法としての高齢者への適応の基礎検討を行った。輸液ポンプにて2γのDOB負荷を行い、負荷開始後3分、4分、5分の血圧を測定した。その平均値から基準値を引いて、2γにおける血圧変動(ΔBP)とした。4γ、6γでも同様にしてΔBPを求めた。疾患群全例における検討で、DOB負荷とNA負荷のΔBPの間には正の相関が見られた(r=0.51、p<0.01)。NA負荷とhead-up tilt試験との間にも負の相関が見られたが(r=-0.39、p<0.05)、DOB負荷とtilt試験との間にはまったく相関を認めなかった(r=0.00、p=0.99)。自律神経不全を呈する神経変性疾患では、心臓と末梢血管における自律神経障害はパラレルに進行すると考えられた。神経変性疾患においてDOB負荷試験を行う場合、安全性、信頼性の観点から4γの負荷が妥当であると考えられた。
結論
A)高齢者の自律神経機能:1)静脈系と筋交感神経活動(MSNA)の検討結果、静脈系の加齢による構造的変化のみならずMSNAにより調節を受ける機能的変化が重要である.2)在宅自立高齢者における生活機能の障害に大脳循環代謝機能が関連する可能性がある。高齢者における、めまい・失神の血圧調節を検討した結果、起立性高血圧群は,高齢者に多く,NAの基礎値が高値,起立による反応性増加が大きい,AVPの反応は保たれていたが,reninの反応は乏しかった.
B)睡眠中の自律神経活動:OSAS群では高二酸化炭素に対する呼吸応答はcontrol群より亢進し,CO2負荷による交感神経緊張反応が高いと考えられた.
C)自律神経不全症関連:長期PAF例では便秘、排尿障害はより高率で、重要な症状と考えられた。

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