「閉じこもり」高齢者のスクリーニング尺度の作成と介入プログラムの開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200265A
報告書区分
総括
研究課題名
「閉じこもり」高齢者のスクリーニング尺度の作成と介入プログラムの開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
安村 誠司(福島県立医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 竹内孝仁(日本医科大学)
  • 金川克子(石川県立看護大学)
  • 芳賀 博(東北文化学園大学)
  • 阿彦忠之(山形県村山保健所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は地域の高齢者における「閉じこもり」に関する包括的な研究の実施を目的とする。地域での「閉じこもり」高齢者のスクリーニングに役立つ簡便な測定尺度の開発を目指す。また、同一の尺度で調査を実施することで、地域高齢者の「閉じこもり」の一般的な傾向と地域格差が明らかとなり、その地域特性を考慮した「閉じこもり」予防の取り組みが展開できるものと期待される。また、今回の研究から、「閉じこもり」のリスクファクターが明確にできると考える。リスクファクターの解明は、高齢者の「閉じこもり」へのなりやすさ、つまり、ハイリスク者の同定やその評価や総合的な予防プログラムの開発にも役立つ。さらには今後の訪問指導、機能訓練という保健サービスの他、各種サービスの効果的な実施方法も明らかにできる。従来のサービスを含めた「閉じこもり」高齢者を寝たきりにしない総合的な予防プログラムの開発は、増大する医療費や介護保険負担の削減や地域高齢者全体のQOLの向上点で重要かつ、喫緊の課題である。以上のように、本研究は、我が国において介護予防の効果的な対策を推進していくために、地域保健活動に極めて重要な位置を占める「閉じこもり」の実態の解明とその予防プログラムの提供を目的とした。
研究方法
1.「閉じこもり」スクリーニング尺度の開発とその妥当性の検討:欧米等の
Homebound等に関する先行研究の質問項目を参考に外出頻度を基準としたスクリーニング尺度を作成し、この尺度を用いた面接調査をおもに後期高齢者を対象に実施し、スクリーニング尺度の信頼性、妥当性を検討する。信頼性は平行テスト法を用い、妥当性検討のため必要な情報として、①障害老人のための自立度判定基準(厚生省,1991)、②日常生活動作能力(ADL)、③生活時間・外出頻度などを用いる。2.「閉じこもり」高齢者の追跡調査:13年度と同じ調査地域で同様の調査票に基づき追跡調査を実施する。「閉じこもり」の発生率を明らかにするとともに、身体・心理・社会環境要因に関する項目の解析により「閉じこもり」の発生要因を解明する。対象地域としては都市部、農村部、また、対象者としては後期高齢者、一人暮し高齢者なども含めることによって、地域、対象者の特性別の「閉じこもり」の特徴を明らかにすることができる。3.総合的な介入プログラムの開発と評価:「閉じこもり」高齢者の自立度と主観的QOLを向上させるための身体・心理・社会的側面からの総合的な介入プログラムを平成12,13年度に作成したものをもとに、実施可能な複数の地域で介入研究を実施する。なお、このプログラムには可能な範囲で保健サービス等を含めるものや、住民参加型の介入プログラムを行うものなど複数のバージョンを考える。介入後、対象者の自立度を含む身体・心理・社会的能力を測定し介入効果の評価を行う。
結果と考察
「週1度未満の外出しかしない状態」を「閉じこもり」と定義とした「閉じこもり」スクリーニング尺度の開発をした。本尺度の信頼性と妥当性を後期高齢者を対象に検証した。本尺度は、ある程度の信頼性とおおむね良好な妥当性を示し、本尺度は実用性を有していることが示唆された。この尺度を用いた「閉じこもり」の出現頻度は新潟県中里村では、男性13.1%、女性21.1%であり、女性に有意に高かった(p< .01)。今後、地域保健の現場で混乱していた「閉じこもり」のスクリーニングの有用な尺度として用いられることが大いに期待される。「閉じこもり」の予防、要介護者の自立回復を目的に行われた神奈川県K市における介護予防モデル事業「パワーリハビリテーション」を、22名の要介護認定者を対象者として12週間施行した。精神的に安定し睡眠が十分とれるようになった、動作が楽になった等により行動変容が観られる事例が多く、パワーリハビリテーションは要介護者の心身の活動性を改善する有効なプログラムであることが示唆された。平成15年度から新規事業として加わった「高齢者筋力向上トレーニング事業」が傍証されたと言えるが、今後、有効性についての確認が必要であろう。一人暮らし高齢者における外出頻度、生活場所の意義を明らかにする目的で、石川県T町の一人暮らし女性高齢者を対象に、2年後の転帰について、身体的・精神的・社会的要因と外出頻度、生活場所との関連を検討した。その結果、一人暮らし女性高齢者では、生活空間の狭小化が死亡に関連する可能性が示されたことから、一人暮らし高齢者の「閉じこもり」を把握する場合、生活場所に着目する必要がある。体力の維持・向上を目指した介入プログラムによる「閉じこもり」への影響を2年間の縦断研究から検討した結果、介入前(2000年)と介入後(2002年)の対象地区における「閉じこもり」の割合は、それぞれ21.3%、21.0%と有意な変化は認められなかった。また、介入により「非閉じこもり」から「閉じこもり」となる者がいる一方で、「閉じこもり」から「非閉じこもり」へと好転している者もいたことから、本介入プログラムが副次的な効果として、「閉じこもり」の改善に影響を及ぼす可能性があると推察された。「非閉じこもり」から「閉じこもり」への悪化割合をいかに逓減していくかが今後の課題である。縦断的な分析から、「閉じこもり」の頻発する年齢として後期高齢者の中でも特に「85歳以上」の高齢者が注目されたことから、個々の体力や体調にも十分配慮した介入プログラムの開発が必要であると考える。高齢者が家に閉じこもることなく、はつらつと社会参加できる「地域づくりプログラ
ム」の開発をめざした。プログラム開始から実質1年余りという短い間隔であったためか、実施の前後で「閉じこもり」高齢者の割合に有意な変化はなかったが、日中おもに「敷地外」で過ごす者の割合は増加を認めた。高齢者に対する若い世代の意識等については、有意な変化は認められなかった。地域づくり型プログラムについては、評価項目の検討や中長期的な評価も必要と考えられた。
結論
老人保健事業第4次計画における介護予防対策の重要な柱の一つである「閉じこもり」の定義が不明確であるため、「閉じこもり」のスクリーニング尺度の開発が必要と考え、スクリーニング尺を作成し、概ね地域において使用可能であることを明らかにした。リハビリテーション手法としてのパワーリハビリテーションが、要介護度の改善に有効であることが明らかになり、「閉じこもり」防止のための効果的な手法であることが示唆された。この手法は介護保険上の経済効果も大きい可能性が示された。基礎理論の研究と実施形態での効果の比較、病態別手法の妥当性等、今後の研究課題も示された。一人暮らし女性高齢者の「閉じこもり」の評価では、外出頻度よりも生活場所に着目する必要性が推察された。今後は、対象数を増やし、長期間の観察を実施し、また、入院、入所などの転帰や、男性高齢者を含めた調査研究も重要な課題であることが明らかになった。体力の維持・向上を目指した介入プログラムにより「閉じこもり」から「非閉じこもり」へ)する者もいたことから(p<.05)、介入の影響の可能性が示唆された。地域全体への対策としては、絶対数として大きな割合を占める「非閉じこもり」である高齢者をいかに「閉じこもり」とならないようにするか、つまり一次予防が極めて重要であることが示された。高齢者が「閉じこもり」になりにくく、はつらつと社会参加できる「地域づくり」プログラムを開発した。高齢者、高齢者の子どもの世代、高齢者の孫の世代に対する調査からは、著明な変化は見られなかったが、評価項目の検討や中長期的な評価も必要と考えられた。

公開日・更新日

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