要介護老人の摂食障害発生要因に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200263A
報告書区分
総括
研究課題名
要介護老人の摂食障害発生要因に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
石井 拓男(東京歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 宮武光吉(鶴見大学歯学部)
  • 山根源之(東京歯科大学)
  • 岡田眞人(東京歯科大)
  • 今村嘉宣(東京歯科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
これまでの本研究により、要介護高齢者で歯科治療を望む人は、要介護となった原因疾患の発生後の1年以内に歯科疾患の主訴が発生する割合が最も多いことと、義歯についての治療希望が圧倒的に多いことが認められた。さらに、歯科の訪問治療を希望する患者の要介護となった原因疾患では、脳血管疾患が特に多いことが確認された。急性期入院患者に対する口腔ケアについては、回答を寄せてきた病院のほとんどにおいて口腔ケアの必要性を感じていることが認められた。さらに病床数の多い病院ほど必要性を高く感ずる傾向が確認され、さらに歯科界が発した口腔ケアの必要性を受け止めていることが認められたが、歯科診療スタッフや近隣の歯科医療機関と有機的に連携して口腔ケアを実施していることを明確に示す結果は得られなかった。看護職員へ歯科衛生教育は必要なことは解っているが実施できないという現状が明らかとなった。また、歯口清掃の面からの口腔ケアの状況は把握できたが、摂食についての情報が少なかったことから、平成13年度の調査に回答を寄せた病院に対し再度、急性期入院患者の口腔機能評価について実態調査を行った。さらに、看護職と本研究班との研究集会を開催し、入院患者の口腔ケアと食事開始期の義歯の取り扱いについて検討した。さらに、脳血管疾患患者の急性期における口腔内状況の変化について、実際に入院患者の口腔内の変化について時間を追った調査を実施した。
研究方法
1.昨年度のアンケート調査に対して回答のあった病院(2444施設)のうち、施設名および住所の記載のあった2045施設に郵送によるアンケート調査を行い、病床数、診療科名数、都道府県別等との関係を昨年度と今年度の回答を比較し、回答病院の偏りと特長を分析した。2.2045施設に、① 経口摂取に関する機能評価と機能訓練および食事の実際、② 咀嚼機能に関する評価、治療の実際、③ 舌の機能に関する評価、④ 義歯に関する評価、についてアンケート調査を行い、脳血管障害発症直後の患者に対する口腔機能の評価の実施状況について分析を行った。3.上記の調査4項目について、急性期入院患者の経口摂取に関する機能評価と機能訓練および食事の実際、咀嚼機能に関する評価、治療の実際、舌の機能に関する評価、義歯に関する評価の状況と平均入院期間、経口摂取開始時期、摂食嚥下機能訓練指導者等29項目との関係を分析した。4.平成13年度と14年度の調査項目について、病院の規模と口腔機能評価の状況、口腔ケアの開始期、実施状況等と義歯の取り扱いや、咀嚼機能評価等の40項目の関連を検討した。5.研究集会を開催し、本研究班員によるこれまでの研究成果の発表と看護教育に携わっている教員と病院勤務で口腔ケアを実践している看護師による発表の後、質疑応答と総合討論の形式により、入院患者の口腔ケアと食事の開始における義歯の取り扱いについて問題点の明確化と対応について論議を深めた。6.横浜市立脳血管医療センターにおいて、協力が得られた有床義歯を装着あるいは所有している急性期を脱し慢性期病床へ入りたての脳卒中患者対象に、発症直後の口腔内の変化を客観的データを収集し、同時に患者ならびにその家族から聞き取り調査を行った。
結果と考察
1.昨年度実施した病院へのアンケート調査に回答のあった病院(2444施設)のうち、施設名および住所の記載のあった2045施設に郵送によるアンケート調査を実施した。今回の回答施設は口腔ケアに対する関心度が高く、これを基本看護として十分行なっていることがわかった。歯科衛生教育を行っている施設は少なかったが、口腔ケアの
効果や方法、頻度など担当する看護師の知識やレベルの高さが伺われた。口腔ケアに関する歯科からの情報提供の有無と口腔ケアないしは口腔機能に関する関心度については一概に相関しないことが示唆された。口腔ケアや口腔機能に関心のある施設ほど口腔ケアが看護師主導で行われており本調査の結果は現在の口腔ケアや口腔機能に関する看護師の対応を表していることを示唆していると思われた。2.本年度の調査に回答した施設は脳卒中急性期患者の口腔機能と口腔ケアに関心の高い施設であることが推測された。平成13年度の調査よりも都道府県よる偏りは減少した。経口摂取開始時期について明確な基準が確立されていないことが推測された。脳卒中急性期患者の口腔機能の回復、維持にもっとも関与しているのは看護師であった。一方、経口摂取開始の決定を行っているのは医師であったが、根拠に基づいた経口摂取開始の決定に関しては検証の必要があった。経口摂取開始に関して参考にしている項目で「嚥下造影検査」は13.6%と低い値であった。経口摂取開始時の食形態の決定方法や基準に関して適切な方法が提示される必要があると思われた。看護師が口腔機能の維持管理と観察評価を行っていた。ほとんどの患者は退院時ほぼ摂食嚥下機能を回復しているようであったが、従前の調査結果との整合性の検討が必要と思われた。脳卒中患者の咀嚼機能と舌の評価にくらべ義歯の評価は高い値を示した。3.医師や看護師が摂食嚥下機能訓練指導者となっている施設では言語聴覚士ないしは機能訓練士といったリハビリ専門スタッフが摂食嚥下機能訓練指導者となっている施設と比較して経口摂取開始の決定にRSSTや嚥下造影検査が用いられている割合が少なく、意識レベルや水のみテストが主に参考とされていた。嚥下機能の評価に対する情報提供を十分に行っていく必要性が示唆された。入院期間が短い施設ほど、義歯を早期から使用させている傾向があり、早期に義歯の使用を開始することが早期退院につながる可能性が示唆された。また、口腔機能の評価を行い、義歯を積極的に使用させている施設では早期に経口摂取が開始される傾向があった。口腔機能の評価を十分行い、義歯の使用を含めできる限り早期に元の状態に近づけることで、より早く機能回復が得られ、早期退院と社会復帰が可能となることが示唆された。4.歯科および歯科衛生に関する情報が多い病院および、口腔ケアを積極的に行い、それに関心のある施設ほど、口腔機能の評価を十分行っていた。脳卒中急性期患者の口腔機能の評価が広く行われるようになるには、看護職員に対し口腔ケアを含めた歯科および歯科衛生に関する情報提供を行っていくことが肝要であることが示唆された。
5.急性期、ことに脳血管疾患の急性期の患者に対する口腔ケアと義歯のとりあつかいについて、研究班と看護職との間で研究集会を持った。その結果、歯科領域と看護領域で各々の行っている口腔ケアについて、これまで情報の交換が無く、実態を認識していなかったことが明らかとなり、相互の取り組みのレベルを確認することが出来た。義歯については、食事のためだけの道具ではないとの認識のもと、意識レベルが回復したら早期に装着させることも良い場合があることが確認された。しかし、これらのことを確実に根付かせるには、回復期、慢性期、在宅での口腔ケアと摂食指導を明らかにするために、歯科の係わりをクリティカルパスに入れ、評価を行う時期と評価の判断基準を作る必要があるとの意見の一致をみた。6.横浜市立脳血管医療センターにおいて、脳血管疾患による入院患者の口腔内状況の変化と摂食機能について調査した。急性期の患者では種々口腔についての訴えがみられ、急速に義歯の適合が悪くなったものが見られた。病院における義歯の管理、患者家族の口腔衛生に対する意識等に課題が見られた。
結論
今回の回答施設は口腔ケアに対する関心度が高く、これを基本看護として十分行なっていることがわかった。急性期入院患者の経口摂取開始時期について明確な基準が確立されていないことが推測された。脳卒中急性期患者の口腔機能の回復、維持にもっとも関与しているのは看護師であったが、経口摂取開始の決定を行っているのは医師であった。経口摂取開始に関して参考にしている項目で「嚥下造影検査」は13.6%と低い値であった。入院期間が短い施設ほど、義歯を早期から使用させている傾向があり、口腔機能の評価を行い、義歯を使用させている施設では早期に経口摂取が開始される傾向があった。歯科に関する情報が多い病院や口腔ケアを積極的に行っている施設ほど、口腔機能の評価を行っていた。研究班と看護職との研究集会で、歯科領域と看護領域の情報の交換が無く、実態を認識していなかったことが確認された。歯科の係わりをクリティカルパスに入れ、評価を行う時期と評価の判断基準を作る必要があるとの意見の一致をみた。市立の脳血管医療センターにおいて、脳血管疾患による入院患者の口腔内状況の変化と摂食機能について調査した。急性期の患者では種々口腔についての訴えがみられ、急速に義歯の適合が悪くなったものが見られた。病院における義歯の管理、患者家族の口腔衛生に対する意識等に課題が見られた。

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