高齢者の寝たきりの原因の解明と予防に関する研究-情報ネットワークを利用した介護保険特定疾病の症例データベースによる病態解析・治療法・介護技術についての研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200261A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の寝たきりの原因の解明と予防に関する研究-情報ネットワークを利用した介護保険特定疾病の症例データベースによる病態解析・治療法・介護技術についての研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
福原 信義(国立療養所犀潟病院)
研究分担者(所属機関)
  • 荒川健次(国立療養所筑後病院)
  • 伊藤博明(国立療養所箱根病院)
  • 乾俊夫(国立療養所徳島病院)
  • 今井尚志(国立療養所千葉東病院)
  • 加知輝彦(国立療養所中部病院)
  • 小川雅文(国立精神・神経センター武蔵病院)
  • 木村格(国立療養所山形病院)
  • 木村隆(国立療養所道北病院)
  • 後藤公文(国立療養所川棚病院)
  • 小牟禮修(国立療養所宇多野病院)
  • 齋藤由扶子(国立療養所東名古屋病院)
  • 島功二(国立療養所札幌南病院)
  • 高田裕(国立療養所南岡山病院)
  • 中島孝(国立療養所犀潟病院)
  • 福永知(国立療養所南九州病院)
  • 望月廣(国立療養所宮城病院)
  • 吉野英(国立精神・神経センター国府台病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
介護保険における神経系特定疾病(パーキンソン病、脊髄小脳変性症、筋萎縮性側索硬化症など)は原因不明で重篤な身体機能障害を呈するため早期に寝たきりになる特徴がある。治療法、介護・看護技術なども十分に解明されていない。これら特定疾病患者のQOL向上と寝たきり予防を目指した、医療、在宅療養のためには、医学データの情報だけでなく、日常生活動作やQOLなどの低下を社会医学的データとして十分に収集し解析することが必要である。そのために特定疾病患者の病歴、症状、所見、検査データ、画像データなどの医学データを患者情報の保全を行いながら十分なデータのデータベース化を行うことが必要だが、介護度や介護サービスの利用状況を調査することが重要である。HOSPnetは全国に張り巡らした唯一の医療専用国立イントラネット網であり、プライバシーなども含めた患者情報の情報保全上適しており、このネットワークに特定疾病データベースを構築することで、全国の国立病院療養所センターの専門医のデータを容易に集め解析することが可能となる。これにより、各疾患の症例の検査(遺伝子診断データ)、治療、リハビリテーション、臨床的評価尺度(ataxia rating scale、 ALS functional rating scale)、日常生活障害度(Barthelindex)、介護度、在宅介護・看護技術などを総合的に収集、評価、分析することが可能である。介護保険制度のなかで介護・看護法を標準化し、寝たきり予防とQOLの向上を目指したケアシステムの確立に寄与可能である。オーファンドラッグ開発や薬剤臨床試験の対象となる症例を明確化し効率よい臨床試験を促進することが可能である。本年度は研究領域における個人情報の保護の観点からデータベースセキュリティの再検討をおこなうと同時にヒト臨床研究全体の整合性から、研究班の全体倫理委員会について検討をおこなった。
研究方法
研究班全体に対して全体倫理委員会を作り、倫理的な側面から審査助言をしていただいた。個々の臨床情報を収集するために患者から書面でインフォームドコンセントを得ることを原則とした。ロータスノーツデータベースとして脊髄小脳変性症に加えて筋萎縮性側索硬化症のデータベースを完成させることとした。個人情報保護の立場から、データベース本体には患者名、住所などの基本情報は入力せず匿名化し、登録時の番号のみを入力した。生年月日、性別、出身県については症例データとともにサーバに保存し分析できるようにした。個人情報をデータベース上に物理的にもたないこととした。脊髄小脳変性症の臨床診断を可能にするために、遺伝子診断技術をPCR-キャピラリ電気泳動法などを利用し、臨床的に容易な技術として確立した。現在、常染色体優性遺伝性を示す脊髄小脳変性症はSpinocerebellar ataxia 1(SCA1), SCA2, MachodoーJoseph病(SCA3), SCA6, SCA7, SCA8, SCA17, DRPLAが高速に遺伝子診断可能で、異常なCAG反復配列などを
認めた場合には容易に臨床的な遺伝子診断が可能になった。遺伝子診断の施行目的は遺伝子解析研究目的ではなく各施設担当医が臨床的な必要性に基づき施行した。脊髄小脳変性症、筋萎縮性側索硬化症について、歩行不能、嚥下不能、人口呼吸器装着などの各種のエンドポイントが登録できるようにした。また、介護保険の介護度、それぞれの臨床的評価尺度とADLの評価尺度を縦断的に評価可能とした。表計算ソフトデータを転送可能にし、相関解析やカプランマイヤー法などの解析が可能になるようにした。地域差と臨床症状、臨床的重症度、上記のエンドポイント、日常生活動作の依存度、福祉的な処遇を横断的のみならず、時系列として縦断的に比較検討することを可能にした。
結果と考察
研究結果=介護保険特定疾病についての詳細を調査する目的で臨床データから患者の同意のもとで個人情報の保護のもとで症例データベースが作成できることをしめした。そのための、倫理的手続き方法についてはガイドラインがない。また、個人情報保護法も制定されていないため、研究班でモデルとなるように、全体の倫理委員会だけでなく、各施設ごとの倫理委員会にも審議する方針とした。同時に、技術的にもHOSPnetを利用することで全国的な症例データベースがセキュリティを配慮して構築可能であることを示した。対象疾患として、介護保険の特定疾病である脊髄小脳変性症と筋萎縮性側索硬化症という加齢にともない症状が増悪する疾患群で横断的にまたは縦断的に分析可能であることを示した。本年度はヒト臨床研究全体の整合性から、研究班の合同同倫理委員会を整備し、研究の流れ、患者に対する説明文、同意書の文面などについてアドバイスを受けた。各施設にける症例登録についての倫理審査については、施設長より全体倫理委員会に審査を委任したのが7施設で、自施設の倫理委員会に申請したのが11施設、うち5施設でのみ承認された。集積したデータの分析の主なる結果は、(ア) SCDについて:132例(男71, 女61)を登録、臨床型では、MJD(46), OPCA(30), DRPLA(10)が多く、遺伝子分析でも同傾向。MJDは全国的に分布、SCA1は北海道に多く、SCA6は九州に多かった。ICARSとBarthel indexは必ずしも相関せず、MJDとDRPLAとの比較では同年齢でもDRPLAの方が小脳症状が軽度でもADLは悪かった。(イ)ALSについて:298例の登録があり、73例で分析でき、ALSFRSとADLは比較的相関していたが、ADLが不良なところで、ALSFRS-Rの方が臨床評価の指標としての感度が良好であった。39例で介護保険が未申請であったが、必ずしも年齢が若いためというわけではなかった。胃瘻の造設については、呼吸不全が生じる時期に影響を与えるというデータは得られず、胃瘻の造設時期も、国外の報告とは異なり呼吸器装着の時期より遅い例も少なくなかった。
考察=介護保険特定疾病についての詳細を調査する目的で臨床データから患者の同意のもとで個人情報の保護のもとで症例データベースが作成できることをしめした。データベースの構築に対する倫理審査については、当初、各施設のやり方でインフォームドコンセントが得られた患者について登録することとしていたが、その後の「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」(文部科学省、厚生労働省、2001)「疫学研究に関する倫理指針」(2002、厚生労働省)、「疫学研究を実施するにあたっての倫理指針」(日本疫学会、2002)、「遺伝学的検査に関するガイドライン」(日本人類遺伝学会など8学会、2002)などと整合性を持たせる必要に迫られ、この研究に関する倫理審査の体制を整えた。多施設におけるこのような研究に対する倫理的手続き方法についてはガイドラインがないため、研究班でモデルとなるように、全体倫理委員会だけでなく、各施設ごとの倫理委員会でも審議する方針とし、倫理委員会の整備されていない施設に対しては、全体倫理委員会で審査することに対しての施設長よりの委任状の提出を求めた。同時に、技術的にもHOSPnetを利用することで全国的な症例データベースがセキュリティを配慮して構築可能であることを示した。対象疾患として、介護保険の特定疾病である脊髄小脳変性症と筋萎縮性側索硬化症という加齢にともない症状が増悪する疾患群で横断的にまたは縦断的に分析可能であることを示した。しかし、各施設での倫理審査に時間がかかり、症例の集積が予期したほどにはうまく行かなかった。
結論
介護保険特定疾病についての詳細を調査する目的で臨床データから患者の同意のもとで個人情報の保護のもとで症例データベースが作成できることを示した。また、HOSPnetを利用することで全国的な症例データベースがセキュリティを配慮して構築可能であることを示した。情報ネットワークを利用した症例データベースにおける個人情報保護と倫理的手続き方法について十分な検討をおこない、全体倫理委員会と各施設での倫理審査の二重に審査する方式をとった。しかし、このような多施設の共同研究は、倫理審査に非常に時間がかかり、短期間の研究では困難であった。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)