加齢による筋肉量減少(ザルコペニア)/脂肪量増加機序の解明と予防法に関する研究

文献情報

文献番号
200200256A
報告書区分
総括
研究課題名
加齢による筋肉量減少(ザルコペニア)/脂肪量増加機序の解明と予防法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
江崎 治((独)国立健康・栄養研究所生活習慣病研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 門脇孝(東京大学医学部)
  • 田畑泉(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
老化に伴い、心筋梗塞、脳梗塞、脳出血による死亡率が増加する。これらの基礎となる病態が糖尿病、高脂血症、動脈硬化症等の栄養関連疾患である。これらの原因の1つに、筋肉量低下(ザルコペニア)による脂肪量の増大が考えられる。レジスタンストレーニング、有酸素運動はザルコペニアを予防する有力な方法である。運動は筋肉で、未知の重要な転写因子を活性化することにより、筋肉での代謝を亢進させていることが推定されている。この転写因子を同定することができれば、転写因子の発現量や活性を増加させることにより、筋肉での代謝の低下を防ぐことが可能となる。本研究では、筋肉の糖/脂質代謝に関する転写因子群及び共役因子(PGC-1、SREBP-1c、FKHR)に注目し、運動、絶食、摂食時のこれらの遺伝子の発現量変動を調べ、ザルコペニアとの関連を推定した。また、ザルコペニアに伴う脂肪組織の肥大化は、レプチン抵抗性を生じ、アディポネクチンの分泌減少を介して、筋肉での糖/脂質代謝を抑制する。アディポネクチンの筋肉での作用機序を明らかにした。
研究方法
A)マウスPGC-1に結合する蛋白質を酵母two-hybrid法で同定した。
B)各種運動後にSREBP-1c、及び脂肪合成に関する遺伝子の発現量を測定した。
C)マウスを絶食、再摂食、糖尿病状態にして、転写因子、FKHR及び脂肪代謝関連遺伝子の発現パターンを調べた。また、筋肉のモデル細胞であるC2C12細胞にFKHRをレトロウィルスで過剰発現させたステーブルな細胞ラインを確立した。この細胞を用いて脂質代謝関連遺伝の発現量をノザンブロット法で調べた。
D)運動終了直後にラットから前肢筋のepitrochlearisと後肢筋のヒラメ筋を摘出し、核分画抽出後、ウエスタンブロット法によりPGC-1量を測定した。また、ラットのepitrochlearisを取り出し、AMPKの活性化剤であるAICAR(2mM)で、18時間インキュベーションし、その時のPGC-1のmRNA濃度をRT-PCR法で測定した。 
E)アデイポネクチン欠損マウスを作製して、その表現型を解析した。
F)アデイポネクチン過剰発現マウスを作製し、肥満・糖尿病のモデルであるob/obマウスとの掛け合わせを行ない、その表現型を解析した。
G)著明な痩せと良好なインスリン感受性を示すCBPヘテロ欠損マウスを用いてアディポネクチンの個体レベルでの機能を明らかにした。
H)アデイポネクチンを標的とした薬剤の開発を行うため、アディポネクチンの作用機構を明らかにした。

結果と考察
A)RNA修飾に関与すると考えられているapoB editing enzyme complex 2 (APOBEC-2)が得られた。
B)SREBP-1に増加して、運動後SREBP-1c、及びSREBP-1のターゲット遺伝子で脂肪合成に関係するACC-1(acetyl-CoA carboxylase) 、SCD-1(stearoyl-CoA desaturase-1)、DGAT-1(acyl CoA: diacylglycderol acyltransferase-1)の発現量が運動後増加した。
C)フォークヘッドタイプの転写因子FKHRの発現量増加に伴い、LPLの発現量も増加した。
D)水泳運動後、主働筋epitrochlearisのPGC-1濃度は75%増加したが、非活動筋ヒラメ筋のPGC-1濃度は変化しなかった。AICARで18時間インキュベーションしたepitrochlearisのPGC-1のmRNA濃度はAICAR非添加の場合に比べて7倍高かった。 
E)ホモ欠損マウスではヘテロ欠損マウスと比較してもさらに血糖降下作用が減弱しており、さらに強いインスリン抵抗性が存在することが示唆された。
F)アディポネクチンは脂肪酸燃焼に関わるACOやエネルギー浪費に関わるUCPの発現を増加させることが明らかとなった。この原因としてPPARαの発現量そのものが増加、及びPPARαの内因性リガンド活性が増加していることが認められた。
G)CBPヘテロ欠損マウスでは、エネルギー消費が亢進しており、野生型マウスの2/3程度の体重を示した。これらは、レプチン感受性の亢進とアディポネクチンの血中レベルが増加していたのと合致する所見と考えられた。
H)アディポネクチンがAMPキナーゼを活性化するのが認められた。
結論
運動負荷マウスcDNAライブラリーより、 PGC-1結合タンパク質の検索を行い、心臓と骨格筋に特異的に発現するAPOBEC2を検出した。長時間の運動後、マウスを自由に摂食する状態においておくと、脂肪合成酵素であるSREBP-1cの発現量が増加することが示された。また、転写因子FKHRがLPLの発現を増加することを示し、ザルコペニアを予防する上で、これらの転写因子、コファクターを活性化し、筋肉量を増加させる新しい治療法が考えられた。アディポネクチンが急性にはAMPキナーゼを、慢性にはPPARαを活性化し、脂肪酸燃焼などを促進して、組織内中性脂肪含量を低下させて、インスリン抵抗性を改善させていることを見い出し、ザルコペニアによる糖尿病発症の増加は、アディポネクチンの発現量を増加することで防止できる可能性を示した。

公開日・更新日

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