老化による熱産生機能低下の原因解明と予防に関する基礎的研究

文献情報

文献番号
200200254A
報告書区分
総括
研究課題名
老化による熱産生機能低下の原因解明と予防に関する基礎的研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山下 均(国立療養所中部病院長寿医療研究センター分子遺伝学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 堀尾文彦(名古屋大学大学院生命農学研究科)
  • 西尾康二(名古屋大学医学部)
  • 佐藤祐造(名古屋大学総合保健体育科学センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
熱産生機能は、体温の調節・維持のみならず、エネルギーの備蓄と消費、感染防御などと密接に係る重要な生理機能である。これらの熱産生機能の低下は、ヒトを含む加齢動物で一般的に認められる変化であり、細菌感染に対する抵抗性(免疫応答性熱産生)や耐寒性(寒冷誘導性熱産生)の低下、あるいは余剰に摂取したエネルギーの消費能力(食事誘導性熱産生)の低下により肥満を引き起こすことが明らかになっている。多くの疫学的研究は、肥満者が痩せると平均余命が延びることを示している。しかし、このように生命活動の様々な領域で作用する基本的な機能であるにもかかわらず、熱産生機能については今尚不明な点が多く残されており、各々の熱産生機能が老化により低下する原因の解明を含めて、より詳細なメカニズムの理解が求められる。本研究は、ミトコンドリア脱共役蛋白質(UCP)の働きを中心に体熱制御、エネルギー制御のメカニズムの理解、並びに加齢に伴う耐寒性や免疫機能の低下、肥満や糖尿病などの生活習慣病の発症との関連を理解することを通して老化による熱産生機能低下の原因を解明し、その予防法を開発することを目的とする。
研究方法
山下:非ふるえ熱産生において中心的役割を果たすUCP1を欠損するマウスを用いて、UCP1欠損が全身のエネルギー代謝、体熱制御、寿命に与える影響とそれらの加齢や栄養条件による修飾を、生理学、薬理学、並びに分子生物学的手法を用いて検討した。堀尾:加齢と共に肥満及びインスリン非依存性糖尿病を発症するマウスとして選抜されたSMxA-5マウスを含むSMxA-リコンビナント・インブレッド(SMxA-RI)マウス系統とその親株であるSM/JとA/Jマウスを用いて、骨格筋におけるUCP3の発現レベルと糖尿病形質との遺伝学的関連を検討した。また、21種類のSMxA-RIマウスを用いて量的遺伝子座(QTL)解析を実施した。西尾:分子生物学的手法を用いてUCP2分子に種々の変異を導入し、そのミトコンドリア膜ポテンシャルや細胞形態に対する影響を解析した。佐藤:ふるえ熱産生やエネルギー代謝における骨格筋の役割と老化による筋萎縮(サルコペニア)との関連から、寒冷曝露や神経切除した老若ラットの骨格筋におけるUCP3、UCP2やエネルギー代謝関連分子などの遺伝子発現の違いを分子生物学的手法を用いて検討した。
結果と考察
山下:前年度に引き続きUCP1欠損マウスの表現型変化に対する加齢の影響の解析を進めた結果、高脂肪食摂取によるKOマウスの肥満はヒトでは25才前後に相当する5?6ヶ月齢から顕在化し、褐色脂肪組織の肥大と脂肪肝を伴うことが明らかとなった。また、肥満が明らかとなる月齢は骨格筋の発達がほぼ終了する時期と良く一致していた。分子生物学的解析から、KOマウスの褐色脂肪組織におけるUCP2、aP2、PPARγなどの遺伝子発現レベルの上昇が明らかとなった。UCP2やaP2はPPARγによる転写調節を受けるターゲット遺伝子であることから、UCP1欠損を代償する為に褐色脂肪組織の分化・増大とエネルギー代謝を亢進するためのシグナルの増強が示唆された。しかし、加齢や高脂肪ストレスに対するこれらの遺伝子の代償的発現調節には限界があり、肥満が進展するものと考えられた。一方、低脂肪食を摂取する限りUCP1欠損そのものが寿命に影響するものではないことが明らかとなった。
堀尾:加齢により肥満・糖尿病形質を発現するSMxA-5マウスでは、骨格筋、肝臓で中性脂肪の蓄積が見られ、両組織でPPARαの発現量が低いことが骨格筋のUCP3 mRNAレベルと肝臓のUCP2 mRNAレベルの低下に影響し、SMXA-5でのインスリン作用低下の原因であることが推測された。加えて、SMXA-5系統とSM/J 系統とを交配して得られたF2インタークロスマウス254匹に高脂肪食(30%ラード含有)を与えて得た耐糖能、血糖値、血中インスリン濃度などの形質値と、各F2マウスの染色体遺伝子タイピングの結果を用いてQTL解析を行ったところ、2番染色体に耐糖能を強力に支配する遺伝子座が検出された。
西尾:UCP2の活性制御に関与する可能性があるウォーカーモチーフに変異を導入し、ミトコンドリア膜ポテンシャル、細胞形態、並びに細胞死に対する影響を調べた。その結果、野生型UCP2ではミトコンドリア膜ポテンシャルの低下が観察されたが、変異型UCP2は膜ポテンシャルに影響しないことから、本モチーフがUCP2の機能発現に必須である可能性が示唆された。また、UCP2発現レベルの上昇が細胞の老化形態と関連することを見出した。
佐藤:老若ラット骨格筋におけるUCPを含むエネルギー代謝関連分子の遺伝子発現を解析した結果、加齢による速筋の萎縮とUCP3発現量の低下が明らかになった。座骨神経を切除した速筋で同様の変化が認められたが、遅筋では加齢および座骨神経切除の影響は小さかった。一方、寒冷環境下では遅筋のUCP3蛋白質レベルの大きな減少があり、その結果として速筋の UCP3蛋白質の役割の重要性が高まることを見出した。
結論
UCP1-KOマウスはヒトの肥満モデルとして、またSMXA-5マウスは糖尿病の新しいモデルとして有用であり、それらの病態の解明ならびに予防薬や治療薬の開発、評価に有用と考えられる。また、UCP2やUCP3の活性化は、その発現レベルの高い免疫系や骨格筋機能の低下を抑制し、老化予防に対する効果が期待される。

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