血管内皮細胞特異的受容体の制御による動脈硬化予防

文献情報

文献番号
200200248A
報告書区分
総括
研究課題名
血管内皮細胞特異的受容体の制御による動脈硬化予防
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
望月 直樹(国立循環器病センター研究所循環器形態部)
研究分担者(所属機関)
  • 深水昭吉(筑波大学先端学際領域研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
動脈硬化の発症機構や脳血管機能の解明には、内皮細胞の制御機構を明らかにすることは必須である。血管内皮細胞におけるEdg, APV両受容体の機能を調べることにより動脈硬化症の予防に通ずる治療方法を開発することを目的に研究を行った。まずEdg, APVの生理的機能を明らかにするために、Edg, APV受容体について、今年度以下の目標を設定した。
(1) Edg受容体ファミリーの細胞内情報伝達系を検討し、至適なEdg受容体拮抗薬・作働薬のスクリーニング系を開発する。また、これまで本研究により明らかにしてきたEdg受容体からVEGF受容体へのTransactivation機構についてさらに検討し、血管内皮細胞の運動制御を新規VEGF受容体拮抗薬で抑制可能か否かを検討する。(2) APV受容体がどの G蛋白質と共役しているのかを同定する。また、APV受容体の遺伝子欠損マウスのヘテロ接合体・ホモ接合体の内皮機能に着目して解析を行う。
研究方法
APV受容体シグナル伝達経路の解明:樹立したマウスAPV受容体安定発現細胞を用い、2ndメッセンジャーとしてCa2+の流入・cAMP産生を観察した。さらにAkt/PKB, MAPKのうちERKや、JNKとp38の活性化を測定するため、ウェスタンブロッティングにてリン酸化状態を検討した。
マウスAPV受容体遺伝子改変マウスの作製・解析:APV受容体の翻訳領域をネオマイシン耐性遺伝子、さらに詳細な発現解析のため核移行シグナルを持つlacZ遺伝子と置き換えた遺伝子欠損マウスを作製し、ヘテロ接合体マウスを取得した。これらヘテロ接合体マウスを交配し、ホモ接合体マウスを取得して実験に供した。(倫理面への配慮)マウスの実験に関しては、筑波大学実験動物委員会の倫理規定に沿って行った。
新規VEGF受容体拮抗薬ZM323881によるVEGF受容体依存性血管内皮細胞情報伝達系の解明-ヒト大動脈内皮細胞(HAECs)を培養しS1Pで刺激したときにVEGF受容体のtransactivationを確認した。ERKの活性化は抗リン酸化ERK抗体を用いてImmunoblottingを行ない検討した。VEGF受容体のリン酸化は抗リン酸化抗体による免疫沈降物のVEGF受容体交抗による検出で確認した。細胞の運動機能についてVEGF依存性の運動能の亢進を抗リン酸化Akt抗体を用いて検討した。また、VEGF刺激による細胞の進展にアダプター蛋白質Crkが関与するか否かを調べた。以上の情報伝達系について新規VEGF受容体阻害薬MZ323881(AstraZeneca社より提供された)の効果を調べた。
VEGF刺激による細胞遊走にかかわる調節機構の解明-HAECsをVEGFで刺激したときにおこる細胞進展と細胞の運動能についてVEGFR-2阻害剤MZ323881の有効性について調べた。
血管形成能に及ぼすVEGF刺激の検討-HAECsのVEGF存在下あるいはHGF存在下での血管形成能についてまず調べ、これにたいしてMZ323881が抑制作用を有するか調べた。コラーゲンマトリゲルのなかにHAECsを培養し管腔形成とその占有率を計算することで形成能を評価した。
本研究の細胞の進展についての評価・細胞の運動能の評価は細胞を倒立顕微鏡でtime-lapseで観察し、iomageした後にMetaMorph解析ソフト(Roper社製)で評価を行った。
Edg受容体の作働薬開発のためのスクリーニング系の開発-昨年までにEdg受容体のcDNA のクローニングを終了しEdg1,3,5,6 (S1P受容体)、Edg2,4,7 (LPA受容体)の発現細胞株を樹立した。この細胞株を用いてFluo3-AMで細胞をラベルすることで刺激依存性の細胞内Caの増加を計測できるシステムを開発した。
結果と考察
APV受容体シグナル伝達経路の解明:樹立したマウスAPV受容体安定発現細胞の解析から、APV受容体の細胞内情報伝達経路として三量体G蛋白質のなかでGiを介すること、2ndメッセンジャーとしてCa2+の流入・cAMP産生が抑制されることを見出した。さらに糖代謝、細胞の運動や生存において重要なAkt/PKBの活性化、細胞の増殖、生存、運動に重要なMAPKのうちERKを活性化することを明らかにした。一方、JNKとp38は活性化しないことが判明した。
マウスAPV受容体遺伝子改変マウスの作製・解析:ヘテロ接合体、ホモ接合体ともに意識下における血圧は、野生型マウスと同様であった、しかし、ACE阻害剤を1週間投与したホモ接合体に対してアンジオテンシンIIを投与した場合、野生型に比して血圧上昇の感受性が亢進していた。
新規VEGF受容体拮抗薬ZM323881の作用:HAECsをVEGFで刺激するとERK/MAPKの活性化を認めたがこのERKの活性化はMZ323881の濃度依存性に抑制された。完全に抑制する濃度は10mMであった。VEGF受容体のなかでVEGFR-1, -R2, -R3のいずれに対して特異的にMZ3213881が阻害するかを各VEGFRのリン酸化の阻害活性で調べた。MZ323881はVEGFR-2特異的阻害薬であることが判明した。他のチロシンキナーゼに対しての阻害作用の有無をそれぞれの刺激依存性の受容体のリン酸化を阻害するか否かで検討した。PDGF受容体阻害もEGF受容体阻害も認めなかった。
HGF受容体阻害もないことはHGF依存性のAktのリン酸化を阻害しないことから明らかになった。さらにHGF依存性のNOSのリン酸化も阻害しないことからHGF受容体阻害は無いことを確認できた。
VEGF刺激による細胞遊走調節機構にはVEGFR-2が必須:HAECの細胞運動能はVEGFで亢進するがそのときの指標としてアダプター蛋白質Crkの燐酸化を伴うことをこれまでに明らかにしてきた。S1P依存性のEdg受容体からのVEGF受容体のTransactivationでもCrkのリン酸化を起こしていた。VEGF刺激によりHAECは細胞を進展させるがこの進展作用はCrkIIのリン酸化を伴い、またCrkIの優勢劣性変異型で抑制された。またVEGFR-2受容体阻害薬であるNZ323881でも抑制されたことからVEGFによる細胞進展にはVEGFR-2が不可欠であることが判明した。また細胞の運動性の亢進もVEGFR-2阻害薬により抑制されたのでVEGFR-2依存性であることがあきらかとなった。VEGF刺激による管腔形成もZM323881により抑制されたが、HGF依存性の管腔形成は阻害されなかった。
Edg受容体の作働薬開発のためのスクリーニング系:昨年までにクローニングしていたEdg cDNAを恒常的に発現するようにneomycoin耐性遺伝子をもつプラスミドにいれてネオマイシン選択培地で培養して安定発現細胞株を樹立した。樹立できた株はHela細胞を親株として、Edg-1,2,3,4,5,6,7までをそれぞれ発現する株である。この細胞株に蛍光色素Fluo3-AMを導入してS1P刺激依存性にCaを測定する系を構築した。96穴プレートでも測定可能であるためにスクリーニング系に使用できることを確認した。製薬会社との共同研究ですでにEdg受容体の作働薬のスクリーニングに着手した。
APV受容体によるGiからMAPKKを介しERKに至るシグナルにはチロシンキナーゼが関与している可能性があることが明らかとなった。リガンドであるアペリン刺激により細胞骨格の変化・アポトーシスの抑制作用が見られることから、アペリン-APV受容体シグナル伝達は重要な生理作用を担っていることが推察される。一方、遺伝子欠損マウスの解析から、アンジオテンシンIIによって惹起される血圧上昇作用に対してAPV受容体は拮抗的に働く降圧系である可能性が示唆された。
Edg受容体の主要な情報伝達系のVEGFR活性化によって惹起される細胞内情報伝達系がZM323881という新規VEGFR-2阻害薬で抑制されることを明らかにした。細胞増殖の指標であるERK/MAPK系の阻害・e-NOS/Aktの阻害、さらに、細胞の運動にかかわるCrkのリン酸化や管腔形成をZM323881は抑制した。本研究の目的であったEdg受容体作働薬の開発に着手るためのスクリーニング系を確立できたことは研究成果として大きかった。特に、製薬会社との共同研究を開始して候補薬剤のいくつかを同定して現在その薬剤について、さらに改良を加えている。
結論
(1)Edg受容体刺激はVEGF受容体のTransactivationを介して細胞運動を調節していることを新規VEGFR-2拮抗薬を用いて明らかにした。(2)APV受容体は三量体GTP結合蛋白質Giを介してERK/MAPKを活性化するとおともに、アポトース抑制・細胞骨格再編成作用を示すことを明らかにした。(3)APVは個体ではAngiotensinによる昇圧作用に拮抗する降圧作用を有することをノックアウトマウスを用いて明らかにした。

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