老化に伴うアミロイド蛋白代謝変化の機構解析(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200246A
報告書区分
総括
研究課題名
老化に伴うアミロイド蛋白代謝変化の機構解析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
駒野 宏人(国立療養所中部病院・長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 西道隆臣(理化学研究所・脳科学総合研究センター)
  • 鈴木利治(北海道大学大学院薬学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
8,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
老化に伴い、50歳代からヒトの脳内にアミロイド蛋白(Ab)がほぼ指数関数的に急激に増加していることが明らかになっている。Abは細胞毒性があり、Abの増加は老化に伴う脳機能の低下の要因の一つであり、また、Abの異常蓄積は、アルツハイマー病の要因と考えられている。本研究は、老化に伴いある年齢を境に脳内に生じるAbの急激な増加に着目し、その増加機構を明らかにすることを目的している。本年度は、昨年度に引き続きAbの産生系分解系に関与する分子の同定およびその解析を目的とした。
研究方法
(1)Ab産生に関与する因子: AbのN末端とC末端は、APPが、それぞれ、b-セクレターゼとg-セクレターゼと呼ばれるプロテアーゼによって切断を受けて産生される。昨年度は、g-セクレターゼ活性に必要な因子のcDNAを同定する独自のスクリーニング系を構築し、この方法により得られたcDNAのひとつが、ER ストレス誘導性のHerp という蛋白であることを同定した。平成14年度は、この方法により新たな同定された因子についての解析を行った。また、昨年度、他のグループにより、線虫を用いた遺伝学的解析から、プレセニリン複合体の構成因子が明らかにされた(Francis et al., Dev. Cell 3:85, 2002)が、 我々は、こららプレセニリン複合体構成因子についても着目し、これら因子のg-セクレターゼ活性における役割を解析した。;(2) Abの分解酵素の解析:これまで、脳内におけるAbの分解は、neprilysinによっておこることを示してきた。本年度は、neprilysinの発現について加齢に伴って変化するか否かを調べるため、8週齢マウスおよび2.5年齢マウスとでneprilysinの発現を比較した。また、培養神経細胞を用いて、neprilysinの発現を制御する因子の解析を行った。; (3)Ab産生に影響を与えるAPP結合蛋白の解析:本年度、APPと結合する新規蛋白としてJIPと命名した蛋白を同定した。本年度は、JIPとAPPとの結合が及ぼすAb産生への影響を詳細に解析した。
(倫理面への配慮)本研究で行われる遺伝子工学的手法はすべてP1あるいはP2レベルの操作であり、実験操作はP1およびP2施設で行った。また、実験材料としてマウスを用いる場合は麻酔を用い、動物に苦痛を与えないよう配慮した。
結果と考察
Ab産生を促進する遺伝子の同定
主任研究者(駒野)により確立したスクリーニングによって同定されたcDNAを解析した結果、昨年度報告したHerp以外の新たな因子として、小胞体からゴルジ体に蛋白輸送するRab1A、 および、オートファジーに関与するGATE-16をコードするものが同定された。特に、GATE-16の発現がAb産生上昇をひきおこすという結果は、細胞内のオートファジー経路の亢進がAb産生上昇に引き起こす可能性を示唆している。また、プレセニリン複合体の構成因子のうちPEN-2が、g-セクレターゼ活性に極めて重要な役割を果たしていることが明らかとなった。老化に伴い、これら因子の量的変動がAb蓄積に関与している可能性が考えられる。
Abの分解酵素neprilysinの解析 
Neprilysinの発現が加齢に伴って低下すること、および、neprilysinの発現が神経ペプチドによって制御されていることを見出した。
Ab産生に影響を与えるAPP結合蛋白の解析
APP細胞質ドメインに結合し、Ab 生成を制御する神経特異タンパク質としてJIPを見出した。JIPは、 APPと結合し、Ab 生成に抑制的に作用すること、また、APPの668番目のスレオニンのJNKによるリン酸化を促進することを見出した。
結論
Rab1AおよびGATE-16 が_b 産生に必要な因子の細胞内輸送経路に関与している可能性が考えられた。特に、GATE-16は、細胞のオートファジーに関与する因子であり、我々の結果は、細胞内のオートファジー経路の亢進がAb産生上昇に引き起こす可能性を示唆している。また、プレセニリン複合体の構成因子のうちPEN-2が、g-セクレターゼ活性に極めて重要な役割を果たしていることが明らかとなった。Ab分解酵素neprilysinの発現が、老化に伴って低下していることが明らかとなった。また、neprilysinの発現は神経ペプチドによる制御を受けていることが明らかとなった。Ab産生に抑制的にはたらくAPP結合蛋白として、JIPが同定された。また、この蛋白は、APPのリン酸化の制御にも関与しいていることが明らかとなった。以上の結果から、老化におけるAbレベルの増加について、一つの要因としてAb分解酵素neprilysin の発現低下があることが示された。一方、Ab産生促進因子、および、Ab産生に影響を与えるAPP結合蛋白についても複数同定された。したがって、老化におけるAbレベルの増加の主要な要因について、Ab分解酵素の発現低下に加え、これらAb産生促進因子やAPP結合蛋白の関与があるか否かは、今後さらに詳細な解析が必要である。

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