加齢性疾患における医療ニーズ・治療・費用・結果と医療政策に関するOECD諸国国際比較研究(H13-長寿-033)

文献情報

文献番号
200200241A
報告書区分
総括
研究課題名
加齢性疾患における医療ニーズ・治療・費用・結果と医療政策に関するOECD諸国国際比較研究(H13-長寿-033)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
亀田 俊忠(医療法人鉄蕉会 理事長)
研究分担者(所属機関)
  • 今中雄一(京都大学大学院医学研究科 医療経済学分野 教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化の進展とともに老人医療費が膨張して国民総医療費の大きな部分を占めている。我が国のみならず高齢化の進む先進国であるOECD加盟国にとって、加齢に伴って発症する疾患及びその結果費消される医療費の管理は共通かつ重要な社会経済的課題であるといえる。本研究の目的は、医療・健康に関する政策と経緯における重要事項を国際比較することである。その際に三つの加齢関連疾患群、即ち、虚血性心疾患、脳卒中、乳がんに焦点を置く。医療政策・制度面の比較研究、疫学も含めたマクロレベルの分析、診療行為やアウトカムや医療費などのミクロレベルでの分析(診療行為と結果、報酬、コストなどの定量的データの比較研究)の視点から分析した。
研究方法
OECD諸国について、加齢関連疾患研究プロジェクトに参加した国々(以下、OECD諸国と記す)の医療システムの比較調査研究を行った。医療政策・制度の質的分析の視点からは、保険のカバー範囲などの需要面、および、治療や設備機器の制約や支払制度などの供給面からアプローチした。また、マクロレベルで疫学的変化と経済的特性についての定量的記述的分析を行った。さらに、ミクロレベルのデータ由来の対象疾患に対する主な処置、手術の詳細統計そして死亡率、医療費などの分析を行った。
データの取扱については、個人情報情報保護と各種倫理指針に従って行った。個人情報保護の仕組みを確実に導入してデータの匿名化を行い、さらに、倫理面への配慮を強化するために情報セキュリティの管理を徹底した。
結果と考察
【需要面のインセンティブと規制】では、急性期疾患の治療は急性期ケア施設内で実施され、非常に高額なケアサービスを多く受ける可能性が高いことから、虚血性心疾患や脳卒中などの急性期治療は一般的に医療保険システムによって充分にカバーされている。一方で、一次及び二次予防のための薬剤やフォローアップのための治療など、主に外来ケア治療に関しては、それほどカバーされていないのが現状である。財政面以外での需要の抑制要因としてはゲートキーピングメカニズムやウェイティングリストなどもある。公的保険の制度においては診療の待ち時間や待ち日数が問題となっている場合が多い。この診療待ち時間・日数に対処する方法として、供給量の増加以外にトリアージシステムの導入などが実施あるいは検討されている。
医療保険の適用に関しては、公的医療保険には、全国民を対象とした社会保険制度や税金を財源とした医療システムなどがある。わが国をはじめとしたOECD諸国(米国を除く)のように、全国民を対象とした公的医療保険制度を有している国においては、医療サービスへのアクセスに対する財政的な障壁はほとんど無い。米国では、人口のおよそ14パーセントが無保険者となっており、彼らは虚血性心疾患など加齢関連疾患の治療を受ける際の経済的リスクを有している。しかし、医療保険の有無がアウトカムの差につながるかどうかという点については明確な結果は示されていない。わが国の患者負担は対象11カ国中3番目に低い値(13.7%)となっており、最も高い韓国(46.5%)とは大きな差がある。患者負担が治療に影響を与えたかどうかの科学的根拠を得ることは困難である。
私的医療保険は、わが国をはじめとした多くのOECD諸国で、利用時自己負担を補完するものとして幅広く普及している。しかしながら、このような私的医療保険の役割は限定的であり、一般的に公的保険を代替するものではない。私的医療保険の購入を決定する基本的な要因は健康状態やニードによるものではなく、収入によるものと考えられる。
院内処方薬の保険適用については、オーストラリアの私的医療と韓国を除いては、全ての公的医療保険で適用範囲となっている。外来処方薬については、虚血性心疾患の治療、かなりの国で患者負担が課せられている。患者負担には定額自己負担と定率自己負担があるが、OECD諸国においては半数ずつであった。CABGやPTCAには専門医の判断が必要となる。非専門医によるゲートキーピングシステムが多数の国で導入されているが、わが国には存在せず、患者は専門的医療サービスにも直接アクセスが可能である。
【供給面のインセンティブと規制】 OECD諸国の医療システムにおいては、供給サイドの制限によって各国間の医療技術の導入に差が出ることが知られている。例えば、市場への参入や規制、さらに医療技術に対する支払い方式などが医療技術の導入に大きな影響を与えている。供給量の規制に関して、OECD調査対象諸国では、米国を除いて医科大学の入学人数の上限を設定している。また、入学者数削減が医師数の不足を引き起こし、サービスの質に大きな影響を与えたとの報告もある。OECD諸国においては、人口10万対医師数及び専門医数は過去20年間上昇し続けている。1980年代のOECD諸国における医療費上昇の最も大きな要因は、技術革新と考えられている。多くの国では医療費高騰抑制のために、あるいは過剰な利用と浪費を避けるためにハイテク医療技術の導入を制限しようと努めている。また、診療ガイドラインを用いてミクロ面で規制するケースもある。
また、供給面でのインセンィブや規制に大きな影響を及ぼす、病院及び医師に対するそれぞれの支払い方式は以下の如くである。総枠予算(Global budget)とは明示的な予算制限を行うことで供給をコントロールする手法であり、かつては、ほとんどのOECD諸国において導入されていた支払い方式であったが、今日では、予算制の要素を残した混合型のシステムを用いている。
ケースミックス分類あるいは診断群分類は、特定の診断や手技をグループとして包括化し、提供されるサービス量をもとにした適切な財源確保の方式を導入することである。この方法によって、供給者に対してより多くのインセンティブを提供することが可能と言われており、より効果的な資源配分が可能となると考えられている。しかしながら実際は必ずしもそうではなく、治療の過剰利用をもたらすとした米国メディケアに関する調査や、逆にサービス提供が阻害されるような不適切な支払いが存在するとした調査も報告されている。多くの国では診断群分類と予算制を組み合わせた財源確保の方法を導入している。
出来高払いにおいては、提供されるサービスそれぞれに価格がつけられており、提供されたサービスに応じて支払いが行われるというものである。これは、わが国でも診療報酬制度として導入されている方法である。出来高払いは過剰なサービス供給につながるという問題がある。
医師への報酬支払いに関しては、わが国では診療報酬制度のもとで開業医に対しては出来高払いであるが、病院勤務医の多くは給与として受け取っている。OECD諸国においてもわが国の状況とほぼ同じである。
【ミクロレベルのデータベース】 今回のプロジェクトは診療情報と医療費情報とを連係させたデータベース(可能な限り入院と外来、施設間連係)を基にミクロデータをもって国際比較をする内容を含んでいる。これは、英国NHSおよびGPRD、豪州、カナダ、台湾、米国メディケアやマネージドケアなどでも活用されている計画的な包括的データベース構築の流れを受けたものとも言える。ミクロレベルのデータでもって、1年後の死亡率など時間軸での追跡やデータベース間のリンクが可能となり、また、ばらつきの分析が可能となる。わが国の入院症例では在院日数が他国に比し長さもばらつきも極めて大きいことが示されたが、効率性というよりシステムの構造の違いと考えられ、さらなる検討を要する。一方で計画的な包括的データベースの価値が示された。
結論
[結論1]医療制度・規制・インセンティヴの側面からは、OECD諸国の概ねの共通性と日本の特殊性が見出された。一、OECD諸国では欧州を中心に、日本と同様に医療の利用が確保され窓口負担が少ない制度が構築されている。二、日本においては、ゲートキーパー機能が無く、技術普及における規制も強くなく、需要面でも供給面でも規制・制限が比較的小さい。にも関わらず、三、受療に当たり待ち行列・待ち日数が比較的小さく、四、しかも、国レベルでの医療費が高くない。即ち、国民皆保険、フリーアクセスといった点では事実上同様の機能がOECDの多くの国で実現されており、日本の際立った特徴とはむしろいえないようであるが、しかし、今回の評価軸では、日本の医療システムは、需要・供給の両側面からの規制が比較的小さいにもかかわらず国民医療費が高くない、一種の効率的状態を達成しているといえる。その効率達成のメカニズムをさらに探る余地は残っており今後の研究の課題である。
[結論2]本研究は、わが国の研究としては他に見られないユニークなポジションにあり、医療関連データをミクロレベルで計画的にリンクされたデータベースが構築されれば、①種々の健康・医療関連の行政統計の構造化、診療情報と詳細なる診療報酬データのリレーショナルデータベース化により、医療介入の費用とパフォーマンスの指標化の評価研究がなされうること、②予防から発症、外来と入院治療)、治療後に至るまでの諸局面を横断して評価できるデータベース構築の要件をデザインし、発症・治療・治療の成果という一連の情報と政策との関係の解析をも可能にすべく各種評価指標算出を進めうること、といった発展の可能性が示された。個人情報保護の体制の確立とともに、このようなデータベース構築を国レベルで検討する重要性が見出せた。

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