高齢者の薬物治療における薬物代謝酵素遺伝子多型情報のシステム化と有用性の評価(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200239A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の薬物治療における薬物代謝酵素遺伝子多型情報のシステム化と有用性の評価(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
大橋 京一(浜松医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 渡辺裕司(浜松医科大学)
  • 山田浩(浜松医科大学)
  • 平松光夫(浜松ホトニクス(株))
  • 橋本久邦(浜松医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬物代謝の個人差が遺伝的に決定され、遺伝的薬物代謝酵素多型が薬効や薬物有害反応の発現における個人差の主要因と考えられている。速やかでかつ確実な遺伝子多型情報が臨床現場で得られるならば、適切な薬物投与計画をたてることが可能になり、不必要な薬の投与を避け、薬物治療の適正化に有用となる。薬物治療が主たる治療手段となる高齢者においては薬物代謝酵素遺伝子多型情報は薬物有害反応、薬物相互作用を回避する上で必要である。本研究では、高齢者における遺伝子多型情報の臨床上有用性について検討を加え、さらに、高齢者は併用薬数が多いため、CYP遺伝子多型情報が薬物相互作用、薬物有害反応を防止するための有用性の検討と共に、遺伝子多型情報を活用するシステム構築の基盤調査を目的として実施した。
研究方法
(1)H.pylori除菌療法を必要とする上部消化性潰瘍患者を対象にプロトンポンプ阻害剤rabeprazole あるいはlansoprazoleと抗生物質であるamoxicillin (AMPC)、及びclarithromycin (CAM)の併用療法を実施した。CYP2C19の遺伝子多型による除菌率の比較検討を高齢者と若年者で実施した。
(2)アンギオテンシン・受容体拮抗薬の薬物動態と有害反応がCYP2C9遺伝子多型に関与するのか検討を行った。
(3)CYP2C19およびCYP2D6の遺伝子多型検査を行なった外来通院中の高齢者を対象として、2年間にわたり服用薬剤および薬物有害反応について調査を行なった。地域医療ネットワークでの遺伝情報共有化について診療所医師、勤務医師および事務系職員を対象とし無記名方式で文書によるアンケート調査を実施した。
(4)蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)法は従来のPCRによる方法に比し手間が少なく、迅速に測定が可能であるのかSNP判定に応用した。対象試料として代表的な薬物代謝酵素であるCYP2C19を選択した。
(5)「薬物の体内動態及び反応性に関連する遺伝子検査の実施に関するアンケート」を日本内科学会認定教育施設(460施設)の病院薬剤部(科)に送付し、我が国の遺伝子多型情報の現状について調査をおこなった。
結果と考察
(1)若年者、高齢者における除菌率は、83.5% (142/170), 88.4% (38/43)であり、除菌率に統計学的な差は認めなかった。CYP2C19の遺伝子多型のとの関連では、homEM 79.3% (65/82), hetEM 85.0% (85/100), PM 96.8% (30/31)であり、CYP2C19の遺伝子多型によって除菌率は異なり、homEM, hetEM, PMの順に除菌率は高くなり、PM群はhomEM群より有意に除菌率が高かった (P = 0.0224)。PPIを用いたH.pyloriの除菌療法はCYP2C19の遺伝子多型の影響をうけ、さらにCAM耐性の有無の影響を受けたが、さらにCAM耐性菌においては加齢の影響を受けることが示唆された。特にこれまでの報告では耐性菌の場合ではhetEMでは除菌率は低かったが、高齢者に限れば高い除菌率が期待できることが示唆された。さらに、胃食道逆流症の治癒率もCYP2C19遺伝子多型とも相関することが明らかになった。
(2)CYP2C9*1/*3である高齢者にcandesartanを投与すると血漿中candesartan濃度は、高齢高血圧患者群(n=6、年齢:67.2±1.7(65-70)歳)に比べ投与後6時間以降高値を示すと共に、降圧効果の増強が観察された。CYP2C9*3のalleleを有する患者においてはcandesartanの薬物動態とともに降圧効果も変化し、副作用の発現に関与するであろう。
(3)2年間の追跡期間において調査を行なった患者における服用薬剤数は平均12剤であった。有害反応発生の内訳はCYP2C19ではhomEM7名中3名、hetEM16名中6名、PM6名中3名、CYP2D6ではEM16名中8名、IM3名中1名に認められた。実際の医療現場で、高齢者におけるCYP遺伝子多型と薬物有害反応との関連を長期にわたって科学的に追跡調査した報告はほとんどない。今回の2年間の追跡調査においては、追跡期間における服用薬剤数は平均12剤と非常に多く、CYPの基質となる薬物とその阻害剤との併用によって有害反応が発生した例も認められた。
(4)FRET法におけるプローブの検討では、最適なプローブの長さは、12から15mer程度であった。プローブの長さ(塩基数)が短くなるほど、ハイブリダイズ部位の塩基組成が、野生型と変異型のTm値の差に影響を与える可能性が大きくなる。
(5)遺伝子解析の実施率は大学病院で高く、600床以上の施設では病床数に無関係で実施率は約40%であった。このことから、現時点では遺伝子解析は研究的な面が大きいと考えられる。遺伝子解析の主体は医師・医局が最も多かった。遺伝子解析未実施の施設においても実施希望は70.7%と高く、遺伝子解析に対する関心が高いことが明らかとなった。本研究ではそれらの問題点を考慮に入れた遺伝子多型情報利用のシステム案を提示した。
結論
本研究により、高齢者における遺伝子多型情報がH.pylori除菌療法、並びにアンジオテンシン・受容体拮抗薬による高血圧治療に有用性であることが明らかになった。さらに、投与薬剤数の多い高齢者に対して、CYP遺伝子多型情報は薬物相互作用、薬物有害反応を防止するために有用であり、今後遺伝子多型情報を活用するシステム構築が求められる。

公開日・更新日

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