介護予防に特化した在宅訪問指導プログラムの有効性評価に関する介入研究 (総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200232A
報告書区分
総括
研究課題名
介護予防に特化した在宅訪問指導プログラムの有効性評価に関する介入研究 (総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
辻 一郎(東北大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 荒井啓行(東北大学大学院)
  • 永富良一(東北大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
介護予防とは要介護状態の発生を予防する(遅らせる)ことを目的とする事業である。介護予防を必要とする者は身体・精神(認知・情緒)・社会の各面での問題を多重的に抱えていることが多い。そこで、介護予防事業の効果をさらに高めるためには、要介護発生に関わる様々な危険因子について総合的評価(Comprehensive Geriatric Assessment, CGA)を行ったうえで、必要なサービスを総合的に提供することが必要である。本研究の目的は、わが国高齢者の生活環境と障害構造に基づいて、介護予防に特化した訪問指導プログラムを考案し、その有効性を介入研究の手法により評価することである。そのため本年度では、地域在住高齢者を対象に「寝たきり予防健診」というCGAを実施したうえで、 (1) 運動機能・身体活動量の低下に対する運動訓練、(2) うつ状態に対する訪問指導、(3) 軽度認知機能障害・痴呆の疑いに対する精査を実施した。
研究方法
(1) 寝たきり予防健診による高齢者の心身機能に関する総合的評価(CGA):仙台市宮城野区鶴ヶ谷地区の70歳以上住民を対象に、平成14年7月18日から8月8日まで、寝たきり予防健診を実施した。健診項目は、以下の通りである。運動機能(脚伸展パワー、10m歩行速度、Timed up and go test、functional reach)、動脈硬化の関連因子(脈波伝播速度、足関節/上腕血圧比、家庭での血圧測定)、採血検査(高感度CRP、8?イソプロスタン、血清アルブミン)、歯科検査(残存歯数、う蝕・歯周病、顎関節症状、義歯の評価)、左右踵骨の骨密度、呼吸機能検査(努力性肺活量、一秒率、呼吸困難感)、うつ状態の評価(Geriatric Depression Scale: GDS、自殺念慮)、認知機能の評価(Mini Mental State Examination: MMSE)、栄養摂取頻度、生活の質、薬剤情報、喫煙・飲酒歴、身体活動量、ソーシャルサポートなど。寝たきり予防健診を受診しなかった者のうち、無作為に抽出した2地区の住民を訪問して、GDS、MMSE、身体運動能力、ソーシャルサポート、歯科について調査した。(2) 痴呆・軽度認知機能障害(MCI)に関する実態調査研究:上記の寝たきり予防健診受診者のうち、ミニメンタルテスト(30点満点)で21点以下を痴呆疑い群、22?27点をMCI疑い群、28点以上を正常群として、3群にわけた。前2群に対して東北大学大学院医学系研究科呼吸器・老年病態学分野の外来を紹介し、採血、頭部MRI検査などの精査を行った。(3) 虚弱高齢者に対する運動訓練に関する研究:上記受診者のうち、運動機能検査の成績が下位3分の1に属する者から参加者を募集した。介入は、平成14年10月末から15年4月初めまでの5ヶ月間、週1回 2時間半の訓練指導である。参加者を無作為に2群に割り付け、対照群に運動訓練を実施し、研究群にはそれに加えて生活指導も実施した。運動訓練プログラムは、厚生労働省老健局計画課監修「介護予防研修テキスト」に準じて行われている。生活指導は、日常生活で身体活動を習慣化させることを目的に、各個人の活動状況を評価したうえで個別指導を行った。この介入により、運動機能と身体活動量がどの程度改善するかを判定する。それ以降も追跡調査を行って、生活指導を受けた群で運動習慣が維持されているかどうか評価する。(4) 抑うつ状態高齢者に対する訪問指導に関する研究:上記受診者のうち、GDS14点以上または自殺念慮のあった者に、平成14年10月から12月にかけて、精神科医と保健師・看護師が居宅を訪問して、DSM-IV診断基準により評価を行った。大うつ病の場合、治療のため医療機関へ紹介した。小うつ病については、その後も訪問指導を継続して実施した。(5) 高齢者の抑うつ・生活の質に関連する要因に関する研究:受診者を対象に、ソーシャルサポートの有無と抑うつ症状との関連、消化器症状の有無・程度と抑うつ症状
・生活の質(QOL)との関連について分析した。(6) 倫理上の配慮:本研究は東北大学医学部倫理審査委員会の承認を受けている。健診の受診時には、その結果を研究に活用することなどについて説明し、同意を文書により得ている。健診後の介入や精査についても、同様である。以上より、倫理上の問題はない。
結果と考察
(1) 寝たきり予防健診による高齢者の心身機能に関する総合的評価(CGA):70歳以上の住民2730名のうち、受診者は1198名(43.9%)であり、そのうち1179名が健診結果の研究活用に同意した。その結果、運動機能は男性で優れていた。骨密度も男性で高値であった。一方、呼吸機能では拘束性障害(%努力性肺活量80%未満)・閉塞性障害(1秒率70%未満)を持つ者の割合が男性で高かった。家庭血圧値では家庭高血圧の基準値135/85mmHgを越える者の割合が男女とも50%を超えていた。健診非受診者に訪問調査を試みた。対象259名のうち連絡可能であった182名に趣旨を説明して訪問への協力を求めた。そのうち95名(52.2%)が同意した。検査結果を比較すると、訪問調査を受けた者は健診受診者と比べて男性の割合が多く、高齢であった。また心身の機能は、訪問調査を受けた者で低下が著しかった。GDS10点以下の割合が健診受診者より低かった。さらにはMMSE21点以下の者の割合も訪問調査を受けた者で高かった。(2)痴呆・軽度認知機能障害(MCI)に関する実態調査研究:健診受診者のうち痴呆疑い群が38人、MCI疑い群が326人であった。彼らに対して精査のため東北大学医学部附属病院老人科外来を受診するよう呼びかけたところ、痴呆疑い群のうち12人(31.6%)、MCI疑い群のうち115人(35.3%)が同意した。このうち、痴呆疑い群6人、MCI疑い群52人の精査を終え、3人が痴呆、7人がMCIと診断された。これより現時点での有病率は痴呆群が1.6%、MCI群が3.7%と算出される。(3) 虚弱高齢者に対する運動訓練に関する研究:対象となり得る 414名のうち、事前説明会に150名が参加した。その結果、参加を希望しなかった者、運動訓練への参加に支障ある者などを除外し、98名が残った。彼らに運動負荷試験を実施し、安全性の確認された86名から研究参加の同意を得た。そして介入群43名、対照群43名に無作為に割付けた。介入期間は平成14年 10月末から15年4月初めまでの5ヶ月間の予定である。介入群は毎週金曜日、対照群は毎週水曜日に、1回当り2時間半の訓練(介入群では生活指導を追加)を受けている。本報告書の作成段階で、途中脱落者は、対照群3名、介入群5名である。脱落の理由は、8名中7名が運動とは無関係の新たな疾病の発生・診断によるものであり、残り1名が運動訓練に馴染めないというものであった。それ以外の参加者については、プロトコール通りに訓練が進行しており、事故もない。運動訓練の効果を判定するために、平成15年4月に運動機能・身体活動量に関する調査を計画しているので、その詳細は次年度に報告する。(4) うつ状態高齢者に対する訪問指導に関する研究:対象者におけるGDS14点以上の割合は、「寝たきり予防健診」参加者1170名のうち239名(20.4%)に対して、健診非参加者74名のうち20名(27.0%)であり、後者での頻度が高かった。自殺念慮の頻度も、「寝たきり予防健診」参加者で4.3%に対して非参加者で5.4%と高かった。これらにより、2次訪問調査(精神科医と保健師・看護師の居宅訪問による精神科的精査)の対象となった者は269名で、そのうち165名(61.3%)が訪問に同意した。その結果、14名(8.5%)が大うつ、80名(48.5%)が小うつと診断された。大うつ病の症例は、治療のため医療機関へ紹介した。小うつ病については、訪問指導を継続している。訪問指導は今後1年間の実施を予定しており、その効果については次年度に報告する。(5) 高齢者の抑うつ・生活の質に関連する要因に関する研究:① ソーシャルサポートと抑うつとの関連では、男女ともソーシャルサポートの欠如と抑うつ症状との間に関連性が認められた。しかし、抑うつ症状の出現と関連するソーシャルサポート項目は男性の方で広範であり、しかも関連の強さも男性で顕著であった。② 消化器症状と抑うつ・生活の質との関連では
、消化器症状が強い群ほど、有意に抑うつ度(GDS)が高く、生活の質(EuroQol)も低下していた。
結論
わが国高齢者の生活環境と障害構造に基づいて、介護予防に特化した訪問指導プログラムを考案し、その有効性を介入研究の手法で実証することを目的として、仙台市鶴ヶ谷地区の70歳以上住民を対象に、第1に在宅高齢者の心身機能・社会的状況を総合的に評価するための「寝たきり予防健診」を実施し、第2に健診結果に基づいて運動・抑うつ・痴呆などに関する精査と訪問指導を行った。今後、これらの者に対する有効な介入プランを策定して、今後の高齢者に対する介護予防サービスのあり方を提言するものである。

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