自立から死亡までのプロセスとコストの分析

文献情報

文献番号
200200231A
報告書区分
総括
研究課題名
自立から死亡までのプロセスとコストの分析
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 泰(国際医療福祉大学医療福祉学部医療経営管理学科)
研究分担者(所属機関)
  • 緒方俊一郎(社会福祉法人ペートル会)
  • 大河内二朗(産業医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人が死に至るには、元気な高齢者が突然亡くなるいわゆる「急激な死(いわゆるポックリ死)」と、長い期間をかけて徐々に機能が低下する「緩やかな死(いわゆる老衰)」があり、その中間的なコースをたどるケースも見られる。「自立」した高齢者が「死」に至るまで、どのような"推移"をたどり、その推移に対して性別・年齢がどのような影響を与えるのか、またこの間に、どのような"推移"パターンが存在し、それぞれのパターンをたどる可能性がどの程度であるかを明らかにするのが、この研究の目的である。
研究方法
本調査は、熊本県球磨群相良村において、福祉法人ペートル会、在宅介護支援センターの調査協力員の協力を得て実施されている。今年度は3年計画の調査の2年目であり、本年度の調査として2002年4月、6月、8月、10月、12月、2003年2月の6回の住民の状態把握調査が行われた。既にこれまで1999年8月、および2000年8月から2002年2月まで偶数月に15回の調査が行われている。
高齢者の状態評価は、筆者が開発したTAI法(イラストを用いた高齢者区分法)を利用し、活動、精神、食事、排泄の状態を、5(自立)から0(廃絶)の6段階で評価した。またその評価結果をもとに高齢者を「自立(自宅)」「虚弱(自宅)」「要介護(自宅)」「施設入所」「入院」「死亡」のいずれかに区分し、各高齢者の老化プロセスを2ヶ月毎に「自立→虚弱→入院→死亡」という形で表現する。調査時には民生委員が、日ごろの訪問活動をもとに高齢者の状態像を評価し、調査用紙に記入を行う。また民生委員は、必要に応じて調査対象の高齢者を訪ね、各高齢者の状態評価を行う。1名の民生委員は、1回に60名から140名程度の状態評価を行った。本年度は1423名の高齢者の追跡を行い、延べ8706回の評価が行われた。また2002年8月の調査では、1999年、2000年、2001年の8月の調査同様、個人別に8月第1週に提供されたサービスの内容を調査した。
村の個人情報保護条例が2002年4月より施行されたため、本年度の調査では、村民に調査協力の意思を改めて再確認し、文章による同意を得た場合のみを対象とすることとなった。
結果と考察
「2000→2001年の推移」と「2001→2002年の推移」の最大の相違は、「自立→虚弱」という機能が"低下"したケースが、2000→2001年が10%、2001年→2002年が6%と減少し、逆に「虚弱→自立」と機能が"向上"したケースが2000→2001年が4%、2001年→2002年が10%と増加したことである。その結果、村全体の「自立」高齢者の比率が高まった。この期間、調査者の入れ替わりはほとんどなく、同一の調査者が担当の高齢者の状態を前回の調査結果を参考にしながら判定を行っているので、調査結果の信頼性は高い。よって、相良村の高齢者の状態像が実際に「自立」の方向にシフトした可能性が高い。
男性が女性より平均寿命が短いことはよく知られている。また昨年度の報告書において、男性は女性と比べ、より若い年齢で急激な老化(自立から死亡までの期間が短い)をたどることを指摘したが、今年も同様の傾向を確かめた。今年度の調査により得られた新しい知見は、男性は「自立→自立」と推移する確率が、65-74歳、75-84歳、85歳のいずれの階級においても有意に高いということである。一方女性は、「自立→虚弱」や「虚弱→虚弱」と推移する確率が男性よりも高い。年代別死亡率、死亡パターン、「自立→自立」、「自立→虚弱」「虚弱→虚弱」などの推移確率から、男性は死亡直前まで自立で生活し、短時間で死亡する確率が高いことは明らかである。また虚弱になっても女性に比べ虚弱に留まる期間が短く、要介護や入院を経て、女性より短期間で死に至る確率が高い。一方女性は、自立から比較的早い時期に虚弱状態になるが、虚弱状態になった後、かなり長い期間虚弱状態にとどまる。男性は機能レベルが低下しても配偶者が世話を行い、人生の最終段階まで(最後は病院へ移るケースもあるが)自宅で生活する確率が高い。一方女性は、配偶者を看取った後、機能レベルが低下すると施設に移るケースが多いようである。相良村では、女性は85歳を過ぎると、「施設→死亡」という経過をたどるケースが急激に増える傾向は、今年も昨年同様に確かめられた。来年度の報告書では、2001年→2002年、および2002年→2003年のデータを加え、今回示した男女別の老化(自立から死亡までの状態像の推移)パターンの差を、モデル化して示したい。
相良村は介護保険開始前より、介護保険に向けてのサービス提供体制の準備がすすめられており、1999年8月時点では介護保険を意識したサービス体制がかなり整えられつつあった。その結果、村独自の事業である「いきいきディ」の開始を除けば、介護保険前後で村全体でのサービス提供量や内容には、劇的な変動は見られなかった。また2001年→2002年の間にも、サービスの内容や回数の大きな変化は見られなかった。
先にも述べたが2000→2001年の推移と2001年→2002年の推移を比較した場合、自立→虚弱という機能が低下したケースが減少し、逆に虚弱→自立と機能が向上したケースが増加し、村全体の自立高齢者の比率が高まった。その一因として考えられるのが、2000年介護保険開始時より始まった予防事業「いきいきディ」である。来年度の報告書では、この村独自の予防事業である「いきいきディ」が自立や虚弱の高齢者の状態増推移に及ぼす影響を検証してみたい。
また今回の調査では、入院が高齢者の状態像に及ぼす影響を検討した。サンプル数は50と少ないことによる可能性が高いが、
(1)入院を契機として4割の高齢者の状態像(機能)が入院前と比較して低下している。
(2)年齢階級別、性別、あるいは入院期間別に入院前後の状態推移の有意差が検出されなかった
という結論であった。入院が高齢者の状態像に及ぼす影響に関しても、来年度はデータを追加し、引き続き検討していきたい。
結論
今年度の調査により得られた新しい知見は、男性は「自立→自立」と推移する確率が、65-74歳、75-84歳、85歳のいずれの階級においても有意に高いということである。一方女性は、「自立→虚弱」や「虚弱→虚弱」と推移する確率が男性よりも高い。年代別死亡率、死亡パターン、「自立→自立」、「自立→虚弱」「虚弱→虚弱」などの推移確率から、男性は死亡直前まで自立で生活し、女性に比べ短期間で死亡する確率が高い。また虚弱になっても女性に比べ虚弱に留まる期間が短く、要介護や入院を経て、女性より短期間で死に至る確率が高い。一方女性は、自立から比較的早い時期に虚弱状態になるが、虚弱状態になった後、かなり長い期間虚弱状態にとどまる。
また昨年同様、年齢が高くなると、死亡率が高まり、また緩やかな老化(自立から死亡に至るまでの期間が長い)をたどる確率が高まる傾向もデータから読み取れた。

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