高齢者の口腔乾燥症と唾液物性に関する研究

文献情報

文献番号
200200228A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の口腔乾燥症と唾液物性に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
柿木 保明(国立療養所南福岡病院)
研究分担者(所属機関)
  • 西原達次(九州歯科大学)
  • 寺岡加代(東京医科歯科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者にみられる口腔乾燥症や唾液分泌低下による摂食、咀嚼、嚥下といった口腔機能の障害や、嚥下障害の改善を効率的に予防するためのガイドラインと口腔症状や機能障害に対応した治療法のシステム化を確立し、高齢者、とくに要介護高齢者の食事の支援からQOL向上を図ることを目的とする。新しい口腔乾燥症の診断基準の作成をすることで、口腔乾燥による嚥下障害に伴う誤嚥性肺炎の発生や口腔感染症を予防改善し、また味覚障害の防止と経口摂取可能にすることで、栄養状態と全身状態を改善するとともに、医療費抑制につなげることも目的の一つとする。
研究方法
本研究では、高齢者の口腔乾燥の効果的な予防と治療法を確立し、高齢者のQOL向上をはかる目的で、3つの分担研究を行った。1)口腔乾燥と唾液分泌低下の診断基準と治療法に関する研究(分担:柿木保明)では、13課題に分けて研究を実施した。高齢者の口腔乾燥症の臨床症状と口腔乾燥度の関連については、唾液湿潤度検査紙、口腔水分計、臨床診断基準などを用いて、これらの測定データ同士の関連性について検討し、これらの結果から新しい診断基準について検討した。要介護高齢者や特定疾患患者、放射線照射患者、若年者における口腔乾燥症状と関連因子についての解析を行った。唾液の物性については、曳糸性測定器NEVAMETERと粘度計を用いて唾液粘性のほか曳糸性についても口腔乾燥度との関連について解析を加えた。2)口腔乾燥症の生物科学的環境と評価に関する研究(分担:西原達次)では、基礎的観点からの研究を進めた。まず唾液分泌低下で発症しやすい感染症としてカンジダ症に対するオゾン水の殺菌効果について研究を進めた。唾液低下と臨床症状発現の関連については、口腔乾燥症状の発症メカニズムを明らかにするために、唾液腺摘出マウスよる生体内保湿成分ヒアルロン酸ナトリウムの影響について解析した。そのほかの基礎研究としては、唾液低下による味覚異常に関して味センサによる検討、口腔粘膜乾燥による血流変化については、血流分布画像化システムを利用して,血流変化を調べた。3)口腔乾燥による機能障害の実態と予防に関する研究(分担:寺岡加代)では、口腔乾燥による自覚症状の発現に関わる心理因子について検討した。
結果と考察
口腔乾燥感の自覚症状と客観的な口腔乾燥度、すなわち唾液湿潤度検査紙や口腔水分計、臨床診断基準は、よく関連していた。口腔乾燥症状が重度になるにしたがって、検査結果も変化し、臨床診断に極めて有用であることが示唆された。高齢者では、自覚症状が乏しくなる場合もあり、これら他覚所見および客観的検査が重要と考えられた。高齢者の口腔乾燥感については発現頻度が高く、自覚症状が約55%に認められた。口腔乾燥症の症状は、義歯未装着者で多くみられ、また味覚障害とも関連していることが示唆された。口腔乾燥患者では塩分味覚閾値の上昇がみられ、口腔機能や認知機能、口呼吸などに対する検討も必要と思われた。要介護高齢者に対する検討では、寝たきり患者で口腔乾燥のリスクが4.07倍も高いことが認められ、また高齢者だけでなく、若年者における口腔乾燥症状も多くみられ、今後の検討課題であると思われた。特定疾患や放射線障害による口腔乾燥症状も十分な管理が必要と思われた。心理的因子と口腔乾燥との関連については、口腔乾燥の自覚症状は、単に唾液分泌量だけの因子ではなく心理的な因子が含まれていることも認められ、詳細な多方面からの検討が必要と考えられた。唾液湿潤度検査紙は、唾液分泌量と正の相関、唾液粘度と負の相関があることが示された。唾液の曳糸性については、NEVAMETERによる検討で、口の中がネ
バネバすると回答した者では高いNEVA値を示した。NEVA値は、粘度との相関がみられ、正しい測定基準により測定することで臨床の場でも応用可能であることが示された。口腔乾燥症の新しい診断基準については、唾液湿潤度検査紙、口腔水分計、臨床診断基準を併用することで、客観的な診断が可能になり、より効果的な治療法やケア方法の選択ができると思われた。2)口腔乾燥症の生物科学的環境と評価に関する研究(分担:西原達次)では、基礎的観点からの研究を進めた結果、カンジダ菌に対してオゾン水を作用させるときに超音波振動を加えると相乗効果が起きることが明らかとなった。生理学的研究として、唾液腺摘出マウスよる生体内保湿成分ヒアルロン酸ナトリウムの影響について研究した結果、唾液腺摘出群では,ヒアルロン酸ナトリウム溶液を好んで飲む傾向が認められ、保湿性を求めて多く飲むという仮定も残っており、さらなる研究が必要であると思われた。唾液低下による味覚異常に関して味センサを用いて唾液の味覚評価を行った結果、唾液中の重炭酸イオンの増減が味覚に少なからぬ影響を与えていることが示唆され、測定方法の工夫やセンサセル小型化が研究課題として残された.血流分布画像化システムを利用して,被験者に各種刺激を加えたときの血流変化を調べた結果、被験者によっては,刺激と血流変化に相関が見られたことから、乾燥による粘膜刺激の影響について検討する必要があると思われた。3)口腔乾燥による機能障害の実態と予防に関する研究(分担:寺岡加代)では、口腔乾燥による自覚症状の発現に関わる心理因子について検討した結果、口腔乾燥の診断には「刺激時ならびに安静時」、さらに「唾液の量・粘性ならびに湿潤度」など重層的な検査が必要であると考えられた。自覚症状と関連因子との分析において最も有意性が認められた因子は服薬状況、不安度であった。とくに自覚症状と特性不安との間に有意な関連性が認められた。
結論
今年度の研究結果より、口腔乾燥症状は、食事機能などの口腔機能低下や嚥下機能低下とも関連していることが示唆され、高齢者では、食欲低下や意欲の低下等との関連もみられた。高齢者予備軍としての若年者も含めた口腔乾燥症状の解明についても検討が必要と思われた。また、服薬と口腔乾燥との強い関連性が証明されたことから、薬物の過剰あるいは非効率な投与については、QOLのみならず医療費削減の観点から早急に取り組むべき課題と思われた。口腔乾燥症の新しい診断基準の作成について検討を行い、臨床的により有用性のある診断基準の確立を行った。唾液湿潤度検査紙、口腔水分計、臨床診断基準、曳糸性測定器等は、測定が簡便で、かつ短時間での測定が可能なため、高齢者に対しても有用であると思われた。これらの研究成果を基にして、次年度は、唾液が口腔内とともに全身的の健康にとって重要な役割を果たしていることを検証し,また口腔乾燥の診断・治療に関するガイドラインの作成を中心に研究を進めていく。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-