高齢者疾患の易発症性に対する遺伝的負荷の解明

文献情報

文献番号
200200227A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者疾患の易発症性に対する遺伝的負荷の解明
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
森本 茂人(大阪大学大学院医学研究科生体制御医学専攻加齢医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 勝谷友宏(大阪大学大学院医学系研究科生体制御医学専攻加齢医学)
  • 奥野良信(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 覚道健一(和歌山県立医科大学第二病理学)
  • 中橋 毅(奈金沢医科大学老年病学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成人期の高血圧、虚血性心疾患、脳血管障害、糖尿病などの生活習慣病に対する疾患感受性遺伝子の検討は多数なされており、欧米においてはこれらの疾患の遺伝子治療の試みも行われるに至っている。一方、脳・心血管疾患、肺炎を含む高齢者疾患の遺伝的負荷の解明は進んでいない。さらに我が国においては欧米の先進諸外国とことなり、寝たきり状態が極めて高率に発症するが、寝たきりの発生そのものに対する遺伝的負荷の検討は皆無である。本研究においては我が国におけるこれらの高齢者疾患の遺伝的負荷に関し、若年者で報告されている上記既報の遺伝的危険因子の関与を検討するとともに、肺炎に対してはアンジオテンシン変換酵素、キマーゼなど咳嗽反射関連因子遺伝子多型の関与について、また寝たきりについては寝たきりに陥った直接原因疾患につき調査し、それぞれの疾患群に於ける寝たきりの易発症性に対する遺伝的負荷についても検討を行う。本研究により得られる成果は、特定の遺伝子多型検索により各高齢者疾患発症の危険性が高い例に対し発症前の予防措置の方策を提示しえ、また早期の治療体制を整えうることから、長寿先進国である我が国および高齢化が進行する世界各国の老年者の健康・福祉の増進に資する。
研究方法
関連施設老人病院受診例のうち研究計画に同意得た4000例を目標とした症例を対象に高齢者疾患の前向きコホート調査を行う。調査対象老年期肺疾患は、①虚血性心疾患、②心不全、③脳梗塞、④脳内出血、⑤非冬季肺炎、⑥インフルエンザ後肺炎、さらには⑦高齢者の寝たきり状態とする。これらの検討は「ヒトゲノム研究に関する共通指針(案)」検討委員会の原案を遵守して行う。
【調査項目】 対象例全例の年齢、性、血圧、入院期間、日常生活動作(移動能については寝たきり例、端座位可能例、車椅子移動 可能例、歩行可能例に分類)、知的機能(Mini- Mental Stateによる)などの他に、各高齢者疾患の既知の危険因子として、脳心血管疾患発症の既往歴、、過去・現在の喫煙歴、高血圧(>140/90 mmHg)、糖尿病の有無(血糖値>126 mg/dl)、腎機能障害の有無(血清Cr値>2 mg/dl)、栄養状態(身長、体重、BMI、血清アルブミン値、血清コレステロール値による)についても同時に調査する。また投薬内容(ステロイド、降圧薬、制酸薬等)の調査も行う。
検索対象遺伝子は、レニン・アンジオテンシン系の遺伝子多型として知られるアンジオテンシンI 変換酵素遺伝子には第16 intronに約300 bpの挿入(I)/欠失(D)(insertion/ deletion)の多型、アンジオテンシノーゲン遺伝子M235TおよびT+31C多型、レニン遺伝子Mbo I多型、アンジオテンシンII 1型受容体遺伝子A1166C多型、β2 受容体 遺伝子Arg16Gly およびGln26Glu多型、メチレンテトラアルデヒド葉酸還元酵素(MTHFR)遺伝子C677T、アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ( ALDH )2遺伝子多型、低比重リポ蛋白受容体遺伝子C1773T 、エンドセリン遺伝子多型、アデュシン 遺伝子 Gly460 Trp多型、アポ蛋白E遺伝子多型、およびヒトキマーゼ遺伝子多型とする。これらの検討は「ヒトゲノム研究に関する共通指針(案)」検討委員会の原案を遵守して行い、倫理的に何ら問題となるものではない。
結果と考察
1. 高齢者脳内出血
高齢者脳内出血発症を予測する遺伝的危険因子として循環器疾患に関与するレニン遺伝子のMbo I site多型、アンジオテンシノゲン遺伝子のM235T多型、アンジオテンシン変換酵素遺伝子のInsertion / Deletion多型、アンジオテンシンII受容体(AT1)遺伝子のA1166C多型、Apo E遺伝子のε2、ε3、ε4遺伝子多型について57例の脳出血患者群と228例の脳血管障害のない患者群を比較検討した。これらの遺伝子多型の中でレニン遺伝子のMbo I site多型は高血圧症の発症と相関し、さらに脳内出血とも有意な関連が認められ、脳内出血発症の遺伝的危険因子として作用している可能性がある。
2. 高齢者循環器疾患
高齢者脳内出血発症を予測する遺伝的危険因子として循環器疾患に関与するレニン遺伝子のMbo I site多型、アンジオテンシノゲン遺伝子のM235T多型、アンジオテンシン変換酵素遺伝子のInsertion / Deletion多型、アンジオテンシンII受容体(AT1)遺伝子のA1166C多型、Apo E遺伝子のε2、ε3、ε4遺伝子多型について57例の脳出血患者群と228例の脳血管障害のない患者群を比較検討した。これらの遺伝子多型の中でレニン遺伝子のMbo I site多型は高血圧症の発症と相関し、さらに脳内出血とも有意な関連が認められ、脳内出血発症の遺伝的危険因子として作用している可能性がある。
3. 高齢者肺炎
非冬季肺炎発症例87例および924例の非肺炎発症を比較したコホート試験において、アンジオテンシンI 変換酵素遺伝子D alleleが非冬季肺炎発症に対し独立関与性を有することを見出した。さらにまた、冬季インフルエンザ後肺炎の発症にもアンジオテンシンI 変換酵素遺伝子D alleleが増悪因子として関与することを明らかにしている。
4. 高齢者インフルエンザ感染
肺炎を発症した高齢者インフルエンザ患者より得られたDNAよりPCR法によりマンナン結合レクチン遺伝子のプロモーター領域を増幅させた後、ダイレクトシークエンスにより塩基配列を決定し、高齢者インフルエンザ患者における肺炎発症とマンナン結合レクチン遺伝子多型の相関性の解析を行った。49例の肺炎を発症した高齢者インフルエンザ患者と日本人におけるマンナン結合レクチン遺伝子プロモーター上の多型の頻度を比較した結果、肺炎を発症した高齢者インフルエンザ患者におけるマンナン結合レクチン遺伝子プロモーター上のSNPsの出現頻度において健常者のそれとの間に大きな差異が見られたものが4種存在した。
5. 骨粗鬆症
高齢者骨粗鬆症における内分泌因子の遺伝的負荷の解明を目的に、破骨細胞におけるCTファミリーの発現を培養破骨細胞を用いたレーザー照射によるマイクロダイセクション法(Laser capture microdissection, LCM) -RT-PCR法により明らかにした。その結果、破骨細胞は、CTR, CRLR, RAMP2のmRNAを発現しており、このことは、本細胞がカルシトニン以外にadrenomedullinまたはamylinと結合して何らかの影響を受けて骨吸収機能に関与していることが推測された。
結論
世界最長寿国であり、また生活習慣、遺伝的背景が欧米とは異なる我が国において、これらの高齢者疾患に対する遺伝的負荷を明らかにすることは、これら疾患に対する遺伝的高負荷群に対しては環境因子の調整、早期からの診断、治療の開始などにより、これら高齢者疾患本研究は我が国高齢者の健康な老後の実現に寄与し、老人の世紀である21世紀の我が国および世界各国の福祉と安寧に資する。

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