高齢者の寝たきりの原因の解明及び予防に関する研究

文献情報

文献番号
200200225A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の寝たきりの原因の解明及び予防に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
坂田 悍教(埼玉県立大学保健医療福祉学部)
研究分担者(所属機関)
  • 北川定謙(埼玉県立大)
  • 柳川洋(埼玉県立大)
  • 土居通哉(埼玉県立大)
  • 細川武(埼玉県立大)
  • 岡本順子(埼玉県立大)
  • 五味敏昭(埼玉県立大)
  • 都築暢之(埼玉医大)
  • 前田和秀(ケアパ-ク江南)
  • 原口章子(小鹿野町総合福祉センタ―)
  • 大久保毅(国保町立小鹿野中央病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々の研究グル―プは、過去3年に渡り「地域在住高齢者の転倒に関する学際的研究」を行い、転倒を地域在住高齢者の精神活動、健康属性、基礎体力、環境因子より解析し、「寝たきり」の予防対策として提言してきた。これらの基礎デ-タを基本に「寝たきり」の減少・予防を研究目的として、横断的研究より縦断的な研究を行っている。今年度の研究として以下に挙げる課題を中心として行った。①地域高齢者の移動・歩行の変化、②片脚起立の意義(ADL・転倒との関連、疾病と訓練)、③ 転倒と視力・視野の経年的変化、④作業所高齢者の生きがい、⑤地域在住高齢者の骨量に関する研究、⑥地域高齢者における高血圧に関する検討、⑦脳卒中患者の現状分析等の成果・概要について報告する。
研究方法
T郡O町在住高齢者身体因子、体力など基本調査の継続:調査対象は、埼玉県T郡O町在住の65歳以上の全員2、794名を調査対象とした。第1次調査は1999年12月11日より開始、第5次調査として2002年8月8日より8月11日までの計5回の調査を行った。基本調査として健康属性、体力測定(新文部省体力基準ほか11種目)視野・視力、重心動揺などを測定した。これらの基本継続調査に加え、移動・歩行の縦断的研究では、3年経過した2002年12月に対象者への直接の電話により、歩行形態、歩行時間について聞き取り調査を行った。地域在住高齢者の骨量に関する研究では、小冊子の配布、骨粗しょう症予防教室の開催、身体測定時の個別指導などで介入後、骨量を測定した。転倒との関連性からみた地域高齢者における視力・視野の経年的変化に関しては、継続的調査、及び市街地在住高齢者については埼玉県立大学で同様の体力測定を行っている。片脚起立の意義では、地域、老人保健施設、病院などで体力測定を行い分析した。高血圧、脳卒中対策では、継続調査の中で高血圧症高齢者に対して24時間血圧測定、意識調査、また、脳卒中患者分析では地域の中核病院での状況を分析した。
結果と考察
1.地域在住高齢者の移動・歩行の評価に関する研究:短期にみられる歩行形態の変化は、男性7.6%、女性で12.9%、単独歩行より杖歩行への変化が最も多く、75歳前後より変化する傾向がみられた。今回の縦断的研究結果は、横断的研究結果とほぼ一致し、歩行に影響する体力因子として片脚起立時間、大腿四頭筋筋力、10m障害歩行時間、6分間歩行距離、重心動揺があげられた。高齢者におけるこれらの低下は、2~3年後の歩行形態の変化の予測となり得る。
2.片脚起立の意義(ADLとの関連、転倒との関連):片脚起立時間は、ADLの確立、転倒の有無、歩行能力の指標となり、65~69歳40秒、70~74歳30秒、75~79歳20秒、80~84歳10秒、85歳以上で5秒程度の体力が基準値として挙げられた。 老人保健施設入所者では右片脚起立とBathel Indexは正の相関を示し、片脚起立が十分可能であればあるほど日常生活動作は高いことを示唆していた。片脚起立時間の測定は、歩行のみならずADLや転倒の指標となりうる。
3. 片脚起立時間は頚髄症、変形性膝関節症、腰部脊柱管狭窄症、大腿四頭筋筋力低下者では有意に短縮した。年齢階層別の片脚起立時間の基準値からの低下は、中枢神経・末梢神経障害、下肢関節障害、下肢筋力低下などの早期診断の手がかりとなりうる。6~8週の開眼片脚起立訓練は、たとえ体力の落ちた高齢者や片手で支持した片脚起立訓練であっても、訓練効果は著しいものであった。片手支持法は、危険性が少なく、容易に独力で行えて高齢者の歩行能力・体力の改善効果も大きく、高齢者の目標作り、姿勢の保持矯正、歩行速度の改善などもみられた。
4.転倒との関連性からみた地域高齢者における視力・視野の経年的変化:地域高齢者の両眼視力及び視野面積は、市街地壮年層だけでなく、市街地高齢者よりも低いものであった。転倒を経験した地域高齢者においては両眼における視力の低下が観察され、非経験者では変化がなく、視野については、視野面積の減少が転倒経験者、非経験者ともにみられたが、転倒経験者の方がより強い減少であった。転倒発生における一要因として視力や視野に反映される視覚機能が重要であることが示唆された。
5. 作業所の高齢者の生きがい:周囲の理解の中で、利用者は現在の生活状況について満足している者が多く、生きがいとなるような場(栖み処)となっている。ストレスチェックでは非常に低い結果が出ていた。
6. 地域在住高齢者の骨量に関する研究:地域在住高齢者の骨量の経時的変化で骨量同年齢比は男性では低下、女性では有意に増加しており、YMA比は男性では有意差は無かったが女性では有意に増加していた。
7. 地域高齢者における高血圧に関する検討:肥満の頻度は、全国に比して有意に多く、血圧高値群では、BMIからみた肥満の頻度は男女で、体脂肪率からみた肥満の頻度では女性で有意に多かった。24時間血圧測定で日内変動の大きいD型が男女とも高頻度にみられたが、D型の内訳では、収縮期血圧でED型の頻度が男性で多く、拡張期血圧では女性に多かった。
8.小鹿野における脳卒中患者の現状分析:脳卒中患者の現状分析から、患者の高齢化、介護度の増加が予想された。また、脳卒中発症時の急性期治療を充実させることは勿論のこと、患者の身体機能を維持あるいは向上させるために、機能訓練部門の充実、患者の生活・療養環境の整備も必要であり、保健・医療・福祉が一体となって脳卒中に対処する必要があると考える。
結論
①歩行・移動に影響する体力因子として片脚起立時間、大腿四頭筋筋力、10m障害歩行時間、6分間歩行距離、重心動揺があげられ、高齢者におけるこれらの低下は、2~3年後の歩行形態の変化の予測となり得る。②片脚起立時間は、歩行のみならずADLや転倒の指標となりうる。その基準値は65~69歳40秒、70~74歳30秒、75~79歳20秒、80~84歳10秒、85歳以上で5秒程度である。③片手支持片脚起立訓練法は、健康高齢者のみならず補助歩行者、車椅子使用群で訓練効果は著しく、危険性が少なく、独力で可能で日常生活の中で訓練の導入が容易である。④転倒発生における一要因として視力や視野に反映される視覚機能が重要である。⑤地域在住高齢者の骨量の経時的変化で、骨量同年齢比およびYMA比は男性では低下及び変化なし、女性では有意に増加していた。⑥血圧高値群では、BMIからみた肥満の頻度は男女で、体脂肪率からみた肥満の頻度では女性で有意に多かった。24時間血圧測定で日内変動の大きいD型が男女とも高頻度にみられた。⑦脳卒中患者の現状分析から、患者の高齢化、介護度の増加が示唆され、機能訓練部門の充実、患者の生活・療養環境の整備も必要である。

公開日・更新日

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