剖検例に基づいた非アルツハイマー型変性痴呆の臨床的研究

文献情報

文献番号
200200224A
報告書区分
総括
研究課題名
剖検例に基づいた非アルツハイマー型変性痴呆の臨床的研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小阪 憲司(横浜市立大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 井関栄三(横浜市立大学医学部)
  • 池田研二(東京都精神医学総合研究所)
  • 田邊敬貴(愛媛大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
剖検例を対象として非アルツハイマー型変性痴呆non-Alzheimer degenerative dementia(NADD)の臨床診断基準を作成することを目的とするが、NADDには多数の疾患が含まれるので、今回の研究では頻度が高いレビー小体型痴呆(DLB)と前頭側頭型痴呆(FTD)に焦点を絞る。
研究方法
DLBおよびFTDについては、すでに蓄積されている剖検例について神経病理学的・免疫組織化学的手法により詳細な病理診断を行った。
DLBについては、27剖検例を対象に、大脳半球と脳幹において通常染色や、α-synuclein、tau、Aβ免疫染色を用いて、レビー小体、レビー関連神経突起、神経原線維変化、老人斑、黒質・青斑核の神経細胞脱落、海綿状態の程度を詳細に検討し、その結果に基づいてDLBの病型分類を行った。次いで、臨床所見をそれぞれの病型別に検討した。さらに、DLBのCDLB診断基準との対比により、この診断基準の適否を検討した。さらに、これらの知見やCDLB診断基準に基づいて診断したDLBの臨床例についても臨床所見を検討した。
FTDについては、40剖検例を対象に、大脳半球と脳幹において通常染色とtauやubiquitinの免疫染色を用いて、ピック小体やubiquitin陽性封入体の有無、神経細胞脱落や錐体路変性や基底核変性の程度を詳細に検討した。今年度は、FTDと診断した150例の臨床例を、FTDを含む前方型痴呆の包括的概念であるfrontotemporal lobar degeneration(FTLD)の診断基準を満たす患者を抽出し、その病型分類を行った。昨年度は精神症状をNeuropsychiatric Inventory(NPI)を用いて検討したが、今年度は常同行動と食行動異常に焦点を当て、常同行動評価スケール(Stereotypy Rating Inventory)を作成し、ATDや血管性痴呆(VaD)との対比を行った。 病理的には、NADDそのものの分類を種々のtau抗体を使用して試みた。
結果と考察
DLBについては、昨年度、剖検例を対象として、病理学的観点からDLBを6型に分類し、さらにそれぞれ純粋型と通常型に分類した。そして、それぞれの臨床像の特徴を検討した。今年度は、さらに症例数を増やし、レビー病理変化の進展様式を免疫組織化学的方法を用いて検討した。その結果、レビー病理変化は、神経細胞内では軸索末端→細胞体→樹状突起の順に進展すること、大脳内では扁桃核→辺縁系皮質→新皮質の順に進展することを明らかにした。さらに、この進展様式に基づきレビー病理変化をstageIからstageIVの4段階に分類した。また、レビー病理変化とアルツハイマー病理変化、特に神経原線維変化との関係を検討するため、海馬における進展様式を詳細に調べた。その結果、レビー小体はCA3-4と支脚-CA1に、神経原線維変化はCA2と支脚-CA1に最も頻繁に出現し、これらはperforant pathwayの変性と関連して出現していることを明らかにした。これらより、レビー病理変化とアルツハイマー病理変化は互いに関連して進展することが示唆された。次に、CDLB臨床診断基準でprobable DLBと診断した8臨床例の臨床症状を検討し、人物と小動物の幻視の他に、錯視、変形視、実体的意識性、人物と場所の誤認、カプグラ症状、重複記憶錯誤が特徴的で、これらの精神症状は認知機能低下が軽い時期に顕著であることが示された。このDLBに特徴的な精神症状は、主に視覚性認知障害に基づくものと考えられ、パーキンソン病でみられるレボドパ起因性の精神症状に類似しており、また最近DLBのSPECTやPET研究で話題になっている後頭葉の血流低下や代謝低下との関連が示唆され、中脳-辺縁系の障害と視覚野-辺縁系の異常の相互作用により引き起こされる可能性が示唆される。今年は9月にイギリスのニューキャッスル・アポンタインでDLBの第3回国際ワークショップが開催され、小阪が第1・2回に続いて講演することになっており、今回の研究データに基づいて新しいDLBの診断基準の作成に関与したい。
FTDについては、臨床研究として、昨年度はFTDを含む包括的概念としてNearyらにより提唱されたfrontotemporal lobar degeneration(FTLD)の診断基準を再検討し、行動異常/精神症状として、特に無関心と常同行動が重要であることを指摘した。今年度はFTLDにみられる常同行動と食行動異常に焦点を当てて臨床例で検討した。FTLD26例、ATD46例、VaD26例について、新たに考案した常同行動評価スケールで検討し、さらにFTLD48例とATD43例について、ケンブリジ大と共同で開発した食行動評価尺度で検討した結果、常同行動についてはFTLD群では常同行動5項目のすべてがATD群やVaD群と比べて有意に高頻度にみられ、食行動については食欲、嗜好の変化、食習慣の項目がFTLD群で有意に高頻度にみられることが示された。これらは、ATDなどとの鑑別診断上重要あると考える。
病理学的に、昨年度はLund・Manchesterグループによるピック病型とMND型の剖検例34例について検討したが、今年度は非アルツハイマー型痴呆NADDそのものの分類を試みた。NADDの分類についてはすでに小阪の分類があるが、今回はNADDの多くは細胞内に異常に蓄積するたんぱく(封入体)を伴っていることに注目して、種々のtau抗体を使用してNADDの病理学的分類を試みた。その結果、NADDは4群に大別され、特に、ニューロンが一次的におかされる群ではtauの6アイソフォームが発現するNFTが指標となり、ニューロン・グリアがともに一次的におかされる群ではtauのアイソフォームのうち3リピートか4リピートが発現し、グレイン、プレタングル、NFT、ピック小体といったさまざまな形態を示すことが明らかになった。
来年度は、これらの所見に加え、文献例の検討を含め、病理像を考慮したうえでの臨床診断基準の作成を試みたい。
結論
二年目の今回は、NADDの病理学的分類を試み、さらにDLBとFTDの剖検例を基礎として、それらの臨床的・病理学的特徴を検討した。DLBでは、痴呆が軽度のうちから人物と小動物の幻視、錯視、変形視、実体的意識性、人物と場所誤認、カプグラ症状、重複記憶錯誤が特徴的に出現し、臨床診断上重要であると考えた。さらに、これらは視覚認知の異常と考えられ、画像で指摘されている後頭葉の血流低下との関連が示唆された。DLBの病理学的研究では、レビー病理が軸索末端から細胞体へ、そして樹状突起へと進展すること、大脳内では扁桃核、辺縁系皮質、新皮質の順に進展すること、レビー病変と神経原線維変化はともに海馬内でperforant pathwayの変性と密接に関連すること、またともに神経細胞内で密接に関連して進展することを指摘した。
FTDの臨床研究からは、常同行動と食行動異常が診断上利用しうることを明らかにした。また、tauに焦点を当てて、NADDを4型に分類した。

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