痴呆予防と初期痴呆高齢者に対する日常生活支援の方法に関する研究

文献情報

文献番号
200200218A
報告書区分
総括
研究課題名
痴呆予防と初期痴呆高齢者に対する日常生活支援の方法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
長嶋 紀一(日本大学文理学部)
研究分担者(所属機関)
  • 本間 昭(東京都老人総合研究所)
  • 内藤佳津雄(日本大学)
  • 石原 治(東京都老人総合研究所)
  • 下垣 光(日本社会事業大学)
  • 小野寺敦志(高齢者痴呆介護研究・研修東京センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
認知記憶機能の低下を示す高齢者には痴呆の初期段階にある者と正常加齢による者が混在していると考えられ、それぞれに対する痴呆予防の対策、とりわけ日常生活レベルにおいて実施が可能であるような具体的施策の開発は社会的に重要な課題である。そのために認知・記憶機能だけでなく、身体機能、運動機能、生活状況などの多面的な把握によって実態を明らかにし、初期痴呆者を含めた高齢者の日常生活における痴呆予防のための具体策を提言することを最終目標とする。本年度は、在宅高齢者の日常生活状況や主観的な側面についての属性をさらに検討するとともに、日常生活機能および認知記憶機能の自己評価項目について、実際の認知・記憶機能に関するパフォーマンスと対照し、妥当性や関係性を検討することを目的とした。
研究方法
前年度の研究成果により開発した認知記憶機能に関する自己評価項目および在宅の要介護ではない高齢者に対する日常生活機能(ADL・IADL)の評価項目を中心とした調査研究および実験的検討を行った。調査研究としては、宮城県気仙沼市大島地区の55歳以上の全島民1550名を対象者として調査を行なった。認知記憶機能および日常生活機能の評価項目以外に、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を行い関係を検討するとともに、老性自覚や環境認知に関する項目も加えて、訪問面接調査を行った。実験的検討としては、客観的な指標としての認知・記憶のパフォーマンスの測定方法を開発し、認知・記憶機能に関する測定を行なった。認知・記憶機能としては、分配的注意、選択的注意、ワーキングメモリー、短期記憶、エピソード記憶、日常的記憶、展望的記憶、自伝的記憶などをとりあげ、それに対応する顔の再認、単語の直後再生、遅延再生、遅延手がかり再生や単語の直後再認、遅延再認、リーディングスパン、語の流ちょう性、展望的記憶に関する課題を、高齢者の動機づけ、難易度、測定時間を考慮に入れた新しい課題として作成した。対象者としては、東京都府中市の生きがいデイサービス通所者48名の協力を得られた。
結果と考察
大島における調査では、有効回答は1134名であり、回収率は73.2%であった。性別の内訳は男性449名(39.6%)、女性685名(60.4%)、年齢群の内訳は、55歳以上65歳未満の中年は男性135名、女性190名、65歳以上75歳未満の前期高齢者は男性183名、女性235名、75歳以上の後期高齢者は男性131名、女性260名であった。認知記憶機能については、因子分析の結果、最新情報機器、表情認知、忘却、貯蔵・符号化、自伝的記憶、環境認知、記憶補助、展望的記憶の8因子が得られ、昨年度の結果(東京における調査)とほぼ同じ因子構造を得た。HDS-Rが21点以上と20点以下の2群に分けて、ロジスティック回帰分析によって自己評価項目の各因子との関係を検討したところ、貯蔵・符号化、環境認知、記憶補助、展望的記憶において有意な関係性が認められ、これらの4因子に関連する主観的な日常記憶・認知の低下がHDS-Rによって測定されるパフォーマンスとしての記憶機能の低下に関係していることが示唆された。日常生活機能についても同様に因子分析によって検討したところ、家計の管理、家事、他者との交流、段取りと実行、スムーズな身辺動作の衰え、足腰の衰え、交通手段の利用、感覚器官の衰え、出版物を読む、電話の利用、の10因子が確認された。また、HDS-Rが21点以上と20点以下の2群に分けて、ロジスティック回帰分析によって日常生活機能の各項目との関係を検討したとこ
ろ、電話番号を調べて電話をかけられる、自分で掃除ができる、預貯金の出し入れができる、何かの会の世話係や会計係ができる、の4項目において有意な関係性が認められた。これらの日常生活における機能低下が、認知記憶機能の低下と関係があることが示唆された。また、高齢者の住環境への満足感および主観的健康感と主観的QOLの関係について、地方の離島である大島(本年度調査)と首都圏都市部(昨年度調査:世田谷)の比較を行った。その結果、住環境への満足感と高齢者の主観的QOLとの関係は主観的な健康度が低下した者においてより密接であり、この結果は両地域に共通してみられた。老性自覚についても老性自覚とADL・IADLや主観的QOL等との関連性について、大島(本年度調査)と世田谷(昨年度調査)の比較を行った。結果は、大島地区は老性自覚のある割合が老性自覚のない割合よりも顕著に高かった。老性自覚との関連要因について、老性自覚の有無を従属変数、性、年齢、主観的健康感、ADL・IADL、主観的QOL を独立変数としてロジスティック回帰分析を行なったところ、世田谷では年齢および「主観的健康感」、ADL・IADLのうち「段取りと実行」、「足腰の衰え」、主観的QOLのうち「心理的安定」、「生活のハリ」において有意なオッズ比が認められた。一方大島地区では年齢および「足腰の衰え」において有意なオッズ比が認められた。また大島地区では老性自覚と主観的QOLの関連性が低いことが示唆され、地域による違いが大きいことが示された。府中における実験的検討については、脳梗塞など脳疾患の既往歴のあった4名、課題が遂行できなかった2名を除外し42名を分析対象とした。性別の内訳は男性2名(5%)、女性40名(95%)であり、平均年齢は74.8歳(SD=7.45)、性別ごとでは男性73.5歳(SD=2.12)、女性74.9歳(SD=7.62)であった。主な結果としては、1)顔の再認に関しては、有名人の顔の方が無名人の顔より再認率が高く、無名人の方が有名人の顔より虚再認率が高い傾向がみられた、2)手がかり再生に関しては、遅延再生の方が直後再生より誤再生率が高い傾向がみられた、3)展望的記憶に関しては、自発的想起66.7%、プロンプトによる想起26.2%、できなかったのは7.2%であった、4)リーディングスパンの平均正答数は2.6語であった、5)語の流ちょう性の平均再生数は9.5語であった、などのいくつかの特徴的な知見を得た。概して実験結果は、被験者の健康状態が高かったことにもよって、想定に反して好成績であった。そこでこれらの結果に基づいて新たな課題を作成していく必然性が生じてきた。被験者の動機づけを保ちつつ、対象とする高齢者層において正答率が中庸な難易度の課題を設定することが重要であると考えられる。
結論
1)認知記憶機能に関する主観的な測定項目を開発し、構成概念妥当性を確認できた。さらに客観的なパフォーマンスデータとの関係について検討を深め、初期痴呆および痴呆予防の対象者について的確に測定しうる主観的/客観的指標の開発を行う必要がある。2)健康で自立している高齢者向けのADL・IADL、社会的生活などの自己評価測定指標を開発し、構成概念妥当性を確認できた。いくつかの項目は認知記憶機能の低下と相関しており、ある程度日常生活機能からの予測が可能であることが明らかとなった。この結果をもとに今後具体的な日常生活を通じた痴呆予防活動の企画・立案をしていくことが必要である。3)さらに、多くのデータを取得し、測定指標の標準化を目指すとともに、現在得られたデータでは各要因の相関関係しか明らかにできないため、期間は短くとも1~2年の認知記憶機能の変化と様々な要因の因果関係について今後検討する必要がある。

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